アイル

黒衣の騎士が理性を失う時-1

「私はダリューンとは一回り以上年が離れているし……やはり、そういう魅力が無いのだろうか……」
 アルスラーンが国王となってから一年が経過したある日の夜のこと。彼は小声で呟きながら力無くため息を吐き出し、自室の窓から夜空を見上げた。格子の隙間から見える星はいつもよりも輝きが少なく見えるのは、恐らく自身の気分がいつもよりも落ちているせいだろう。。
 ちなみにアルスラーンが何についてこんなに頭を悩ましているのかというと、今付き合っているダリューンとの関係についてである。
 二人はカシャーン城塞あたりから何となく互いに意識をしはじめ、それから互いにゆっくりと思いを育んできた。そして王都を奪還してからアルスラーンがダリューンへ思いを告げることで、ついに二人は付き合うようになった。というのがこれまでの経緯だ。
 それから一年が経過した今も一応表上は順調に交際を続けている二人であったが、アルスラーンはダリューンがほとんど手を出して来ないのにここ最近少しばかり悩んでいた。
 それはまあ、もともとアルスラーンは性的な方面にはかなり疎く、口付け一つするだけでもビクついていたくらいだ。だから最初のうちはほとんど手を出して来ないのに、正直助かったと思っていたところもある。
 しかしいつまでもそんな清い関係でいるはずもなく。
 紆余曲折の末初めて身体を繋ぎ、それから数か月が経過した今では、一か月にたった一度にしかそういう関係が無いのに身体を完全に持て余してしまっていた。
 どういうことかというと、前回身体を繋いでから一週間ほど経過すると身体が疼きだし、三週間ほど経過すると眠れぬ夜を過ごすのがここ最近の日課となっているのである。

「あと少しで、一か月か……」
 先ほども言った通りアルスラーンはもともとそういった方面にはかなり疎い。
 しかしそうは言っても現在彼の年齢は十六で、このくらいの年齢の男子は、ほとんどの人間は性的欲求が一番盛んな時期である。そしてそれはアルスラーンも例に漏れない。 
 おかげで今では、ダリューンと身体を繋げてからしばらくすると、自慰までするようになってしまっている有様だ。もちろんその行為は彼の理性とは完全に反していたが、身体の方は一度覚えてしまった快楽を求めてやまず、どうしても抑えることが出来ないのだ。
 そしてそんなことを考えながら寝台の上へゴロリと転がり、薄っすらと目を閉じながらいつものようにおずおずと下肢に手を伸ばしたときのことだ。
 不意に扉が数回叩かれる音が居間の方から聞こえてきたのに、アルスラーンは下肢から手を引いて物凄い勢いで身体を起こす。そして部屋の中にまだ誰も入ってきていないのを確認するようにキョロキョロと辺りを見渡していると、外からダリューンの声が聞こえたのに一瞬身体を強張らせた。

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