アイル

アルスラーンと二人の臣下-2

 しかし話はそこで終わらない。
 何しろアルスラーンもこう見えても、健全な青年なのである。
 加えてその手の物に今まで一切触れたことが無いという反動もあってか、一度興味を持ってしまうともう駄目だ。理性ではいけないと分かっているのに、それから一週間が経過する頃には我慢出来ずに書棚に手が伸びてしまっていた。
 そして一度でもその禁を破ってしまうと、二度目三度目の容易さといったらない。それからはまるで坂道を転がり落ちていくかのように、その世界へとのめりこんでしまっていた。
 まあ政務を放り投げて朝から晩まで夢中になっている訳でも無いので、それほど気にすることでは無いのかもしれないが。
 だがよくよく考えてみるとギーヴから渡された本の中身は、男女間のそれではなく男同士のものなのである。しかもその話しの中ではアルスラーン自身が女性役として登場しており、尻の孔に突っ込まれて実に気持ち良さそうに喘いでいるのだ。
 そしてまっさらな状態のアルスラーンがそんな描写を繰り返し見ている間に、そんなに良いものなのだろうかと興味を持ってしまうのは……仕方が無い。
 そんなこんなで、一度でもうっかりとそんなことを考えてしまったのが運の尽きだ。気が付いた時には、自分自身の尻の孔を弄るようになってしまっていた。
 無論尻の孔を弄るのは生まれて初めての経験なので最初はおっかなびっくりだったが、弄り方の手順や方法は、書物の中に図解付きで詳細に解説されているようなものなので戸惑うことは一切無い。それに潤滑油とかそういう類の物は、女性とのそういう場面がいつ来ても良いようにと臣下達の手によって予め寝所にご丁寧に用意されている。
 おかげで初めてのわりには意外にもすんなりと、アルスラーンは尻の孔の「初めて」を済ませてしまった。



 そしてそれから。
 半年ほど経過する頃には、アルスラーンの尻の孔は通常程度の張形であれば問題無く飲み込める程度にまで拡がるようになっていた。
 というか現在進行形で自室の寝所で布団の中に潜り込み、尻の孔を使って自慰をしていた。
 頭まで布団をかぶっているので一見すると分からないだろうが、その中はムワリとした熱気のこもった空気で満たされている。そして敷布を汚さないようにと予め敷いておいていた大判の布の上に、陰茎から放出したばかりの大量の精液が零れ落ちていた。
 ちなみに潤滑油だけでなく張形まで手に入れることが出来たのは、部屋の片づけをしてくれている女官達のおかげである。
 本人達に聞いた訳ではないので正確なところは定かでは無いが、寝所を整えている際に潤滑油が減っているのに気が付いた者が、親切心で道具類まで準備してくれたのだ。
 それを目にした瞬間の焦りようと言ったらない。何故ならそれはつまり、潤滑油を使うようなことをしているのだと周りの者達に知られてしまったことを意味するからだ。
(まあ……まさかこんな用途のために使われているとは、夢にも思っていないのだろうが)
 ほぼ間違い無く、彼女達はようやく陛下にも女性の影が!とかなんとか言って嬉々として準備していたのだろう。その姿が容易に思い浮かぶだけに、自らの尻の孔に突っ込む用途として使用しているという事実のいたたまれなさといったらない。
 しかしそんな理由も、尻の孔で得られる快感を押し留めるだけの力は無く、結果としてここまで順調に開発が進んでしまっているという体たらくであった。
 なんてここにいたるまでの一連の経緯を思い出したところで、熱っぽい息を一つ小さく吐く。そしておずおずと股の間に右手をくぐらせると、尻の孔に根元まで埋まっていたべっ甲で出来た張形をズルリと抜き出した。
「はっ……ん、くっ」
 カリ首を模した箇所が散々弄りまわしていたおかげでふっくらと膨れている前立腺を掻くと、下肢が反射的にブルリと震える。それと同時におさまっていたはずの熱が再び下肢に集まってくるのを感じて、これ以上はさすがに不味いと慌てて布団の中から顔を出した。
 そして顔の火照りが外気に触れて一気に下がるのを感じると、それにつられるように下肢に集まって来ていた熱も霧散するような感覚を覚えたのに胸を撫で下ろす。
「後ろだと際限が無いな……」
 通常男の自慰は、一度精液を放出してしまえば概ね満足する。しかし尻の孔での快感は、射精といった明確な区切りが無いせいか。極論を言うとそれこそ体力が尽きるまで快感を得ることが出来るので終わりがまるで見えない。
 おかげで後ろだけで達することを覚えてしまってからは、二度三度は当たり前。さらには自身の陰茎まで弄ってそちらでも達して、なんて具合にただれきった性生活を一時は送っていたのだ。
 しかしさすがに翌日の太陽が黄色く見えたのを数回経験したところで、これではいけないと悔い改め、今は一晩に達するのは前後ろ合計二回までと決めている。
 とはいえアルスラーンもまだまだうら若き青年、ならぬ性年だ。数回に一度はその決め事も破ってしまっているのだが。
 ともかく以前は週に一度自慰をすれば良いくらいのペースだったのが、今ではそれとはまるで正反対。少し前の自分が知ったら驚くような夜の生活を送っている。
「だが……これからしばらくの間は忙しくなるのか」
 何故なら数週間後に即位記念日と誕生日を控えているので、これからはそれに向けての準備の関係でかなり忙しくなるのだ。そうなると自動的に自慰をする回数も減りそうだなと考えながら仰向けの格好になると、目を閉じて小さなため息を吐いた。
「まあ、たまには我慢することも必要か」
 特にここ数か月は少々やり過ぎだとは常々思っていたので、これが良い切っ掛けになるかもしれないと考えを良い方向に切り替える。
 何より自身の即位記念日と誕生日を多くの者が祝ってくれるのだ。
 それだけでも幸せ一杯なのだから、たかが自慰の回数が減るなんてどうってことない。いや、そもそもそれらを天秤に乗せて考えること自体が色々と誤っているような気がしなくもないが。
「うーん、最近はどうも考えがそちら方向に毒されていていけない」
 そこで再びパチリと目を開けて上体を起こす。そして気持ちを切り替えるように布団を剥がすと、先の自慰の余韻を引きずっているせいで若干もたもたとしながらも汚れ物の片付けをはじめた。


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