アイル

調査兵団における恋愛事情-2(R18)

「――おい、エレン。」
「ん……」
 誰かがオレを読んでいる声が聞こえる。
(……誰だ?)
 ぼんやりとした頭で声の主が誰か考えるが、半分しか頭が覚醒していないので全く考えがまとまらない。
「……おい、起きろ。」
 声をかけただけだと埒が明かないと思ったのか、今度はユサユサと体をゆさぶってきた。
(――この揺れの間隔、気持ち良い……)
「……おい」
「う~ん……あと五ふ――」
「いつまで寝てるつもりだ!」
「イデッ!」
 ドカリといきなり背中を蹴られて飛び上る。せっかく気持ちよく夢の世界と現実の世界を行き来してまどろんでいたのに、蹴られて飛び上った勢いでベッドの下に落ち、さらに全身を強打して。おかげで一気に頭が覚醒した。
「いててて……って、へ、兵長!?」
「十分後から訓練開始だ。遅れたら朝食抜きだからな。」
 まだ起床の鐘も鳴っていないのにいきなり何かと思ったら、どうやら今日は兵長がオレに早朝訓練をしてくれるつもりらしい。兵長は時々こうやって一対一の訓練を付けれくれるのだが、いつも前置き無く朝に来るので出来れば前日辺りに言ってくれればなあといつも思う。
「わ、分かりました! ――ッ!?」
 とりあえず訓練に遅れる訳には行かないと慌てて床から立ちあがろうとすると……下半身に濡れた感覚がしたので、思わず声を上げて固まってしまう。
「どうした。」
「……あ、いや……」
 オレの普段と違う様子にさすがに兵長も妙に思ったのか部屋を出て行こうとしていた足を止め、訝し気な顔をしてこちらを向かれて焦る。出来ればこのまま部屋から出て行って欲しかった。
「……。」
 思わず反射的に声を上げてしまったが……下半身に感じるこの冷たい感覚は……。
 嫌な予感に身体が硬直して動かない。
(まさかこの年にして漏らすはずは……無い、よな。)
 とりあえず、早く下半身の状態を確認したいが、兵長が目の前にいる手前、バレるのが嫌で目をやることが出来ない。何しろこの人は妙に勘が良いのだ。
 今もオレの方をジロジロと見ているし、ここで下半身をチラとでも見たら即座にオレが挙動不審な理由を言い当てられそうで怖い。とりあえず、間にベッドがあって本当に助かった。
 そういった意味でだけ、ベッドの下に蹴り落としてくれた兵長に感謝する。
「何黙りこくっていやがる。俺は、どうかしたのかと聞いている。」
「……っ!!い、いや、大丈夫です、本当何でもないですから!訓練にはすぐに行きます!」
 どうすることも出来ずに床に座り込んだまま茫然としていると、ろくに返事もしないオレを焦れたのか、兵長が眉間に皺を寄せながらこちらに歩いて来て焦りまくる。
「……テメエさっきから何をコソコソしてやがる。」
「え!?いや、そんなことは――って、へ、兵長!?」
 オレの静止の声を全く聞き入れる様子もなく――むしろ逆効果だったかもしれない――兵長はオレの目の前まで歩いてくると膝を折り、オレの全身を上から下まで観察しだして冷や汗ダラダラものだ。
 はっきり言って下肢の状態がアレなだけに気まずいことこの上ない。
「あ、あの……本当に何でもないですから……」
「身体の調子が悪いならはっきりそう言え。ここで巨人化されて迷惑なのは俺たちの方なんだよ。そこら辺分かってんのかテメエは。」
 たしかに兵長の言うことは正しい。
 でも、かと言って今の自分の状態について馬鹿正直に話せるわけがない。
(も、漏らしたかもとか言えるはず無いだろ……!)
 もしこの事実がバレでもしたら、当分の間は兵長の前に出て行くことが出来ない。
(こうなったら……っ!)
 何を言われようが、シラを切り通すしかない。そう心に固く決意するとギュッと目をつぶってプイと横を向いた。
 兵長が無視するなとか色々言っていて後の事も考えるとかなり怖いが、今はとりあえずこの秘密を死んでも守り通すしかない。
「……何だ。何を隠してるのかと思えば……ソレ、寝ながらイっただけかよ。」
「は?」
 オレが目をつぶってからすぐのことだ。
 兵長がさらりと良く分からないことを小声でボソリと発したので思わず目を開く。
(寝ながらいく?どこに?)
 ちょっと、話の流れがよく分からない。
 でも兵長は思い切りオレの下肢を見ていて……この感じだと、オレの下肢の状態がバレたのは分かるが、考えていたのと全く違う反応だ。
「?」
 状況が全く分からないので、とりあえず恐る恐る自分の下半身を眺めると、案の定パジャマがわりにしている薄手のズボンの前部分に薄っすらとシミが出来ていたのは言うまでもない。
 予想通りの光景に朝から気分が滅入るが、兵長に何も言われない……というか、むしろよくあることのような気が抜けた反応を返されたのは何故だろう。
(寝ながらいく……って言ってたよな。)
 今までそんな言葉の使い方をしたことがあっただろうか。寝起きの頭をフル回転させるが、全く心当たりが無いのでさっぱりだ。
 ただ兵長の様子から察するに、これは誰にでも起こる現象であり、尚且つ自分が考えていたような小便を漏らすということではないらしことは何となく理解できた。
 とはいっても、今の自分の状況が情けないということは紛れも無い事実で、やっぱり情けない。
「これくらいでいちいち大騒ぎするんじゃねえ。紛らわしい。」
「いたっ、はい!」
 ジロジロと下肢を見られている状況が嫌で思わずハアとため息を吐くと、ベシリと頭を叩かれた。少し涙目になりつつも日頃の習慣できっちりと返事はしたが、かなり痛い。この人は自分の力が人並み以上だということにいい加減気が付いて欲しいとチラリと心の奥底で考える。
「それとさっきから気が抜けた返事ばっかりしてんじゃねえ。そのくらいのこともちゃんと出来ないのかお前は。」
「す、すみません!し、しかし……あの……一つ質問をしても良いでしょうか。」
「何だ。」
「寝ながらいくとはどういう意味でしょう。」
「……。」
 ここまで来たらものはついでだ。思いきって先ほどの言葉の意味について質問をすると、呆れたような顔で見られて少し怯む。
「え、えっと……オレ、不味い質問したでしょうか。」
「……いや。お前、同期の男とこの手の話しをしたことが無いのか。」
「この手の話し……?」
 兵長の視線が下肢に移ったところから察するに、恐らく男の下半身事情に関するアレコレのことだろう。
 兵長の口からそんな話が出て来たのを意外に思うが、まあ元々ゴロツキをやっていたという噂も聞いたし、案外そこら辺は開放的な方なのかもしれない。
(でも、オレはなあ……)
 訓練兵になる前は、常に女のミカサと一緒だったから性に関する話は何となくしてはいけない気がして触れなかった。
 それに、アルミンもこういった下世話な話しをするような性格では無かったので、十二歳になるまでかなりの純粋培養だったのは言うまでもない。
 訓練兵になってからは男十数人と同室で寝泊まりしていたので、同室の連中がそういう話をしていることは勿論あったが、危なそうな雰囲気になるとオレは早々に場所を変えたり寝たふりをしていた。
 ちなみに……寝たふりをしていたときにコニーとジャンが横で猥談を始めて、子どもはキスではなくセックスとかいうので出来るのだと知ったときの衝撃は今でも忘れない。
 まあ、つまるところ……はっきり言って、こういった話は苦手だ。
「えーと……進んで会話に入ることは無かったので……」
「そうか。」
「……えっと、変なこと聞いてすみません。今度同期に聞いてみます。」
 兵長は口元に右手をそえながら、思案気な顔をしていてちょっと気まずい。
 結局先ほどの言葉の謎は解明されなかったが、さすがに上官相手に聞く話しでも無かったかと思い直し、後でアルミンあたりにでも聞こうと考え直す。
「あの、訓練には着替えてからすぐに向かうので……」
 ひとまず下半身のベタベタした感覚が気持ち悪いのでさっさと着替えてしまいたい。遠回しに兵長に席を外してくれないかと頼むが、顎に手をそえたまま何やら考えこんでいる。
「同期に聞く?」
「え?あ、はい。まあ、今度いつ会えるかは分からないですけど……」
「……面倒だな。その調子だと、どうせその同期とやらもろくに何も知らねぇ野郎なんだろうが。」
「え?いや……多分、大丈夫だと思いますけど……」
 物知りなアルミンなのでまさか知らないことは無いと思うが、何せこういう下世話な話しを一切したことが無いので絶対とは言い切れないのが辛いところだ。
 しかもアルミンは性格的にも見た目的にもこういう話しとは縁遠い雰囲気がある。
「チッ……まあいい。朝っぱらから面倒だが、特別にオレが教えてやる。」
 歯切れの悪い返事をしたオレに呆れたのか、兵長は思い切りため息をつき、あぐらをかいた状態で座っていたオレの右肩を掴むと後ろへグイと押してきた。
「え!?ちょっ、兵長!?――いでっ!!」
 まさかいきなり押し倒されると思わなかったので、受け身を取れずに石畳の床へしたたかに頭を打ち付ける。
「――ってて……兵長さっきから何なんですかっ!?痛いですよ。」
「兵士のくせにそのくらい瞬時に受け身も取れねぇのか。訓練兵に戻すぞ。」
「……。」
 兵長のもっともな言葉に、オレは何も言い返すことが出来なかった。


 無理矢理床に転がされたとはいえ、さすがに上官の前でいつまでも寝転がった状態でいるわけにもいかない。肘を付いて上半身を起こそうとしたところで、兵長がいきなり腰に跨ってきた。
 平常時に、ここまで身体を近づけたことが無いので普段隠しているドキドキとした気持ちが急に心の奥底から顔をのぞかせる。しかも、今は訓練の時のように体を動かしてその気持ちを誤魔化すことが出来ないのでなおさらにだ。
「えーっと……へ、兵長?」
「とりあえず、下を脱げ。」
「!?」
 思わず目が点になる。
 今更どうしようもないが、オレはさっき不味いことを聞いてしまったような気がしてならない。
 真意を測りかねてチラリと兵長の方を伺うと、当の本人はオレの様子を全く意に介した風もなく相変わらず淡々とした表情だ。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ兵長!教えるって……あの、別に実地じゃなくて言葉で……というか、本当、アルミン……が知らなかったら最悪ジャンあたりにちゃんと聞きますから!」
「誰だそいつらは。大体テメエが次に同期の連中に会えるのはずっと先だろうが。それまで数日おきにこうなるが、お前は原因も知らないで放置しておける性格なのか?」
「えっ!?そんなに頻繁に、ですか?」
「まあ普通はそうだろうな。」
 思わず深刻な顔で尋ねると、兵長にしては珍しく思い切り微妙な顔をされた。どうやら間抜けな質問をしたらしい。
 いや、今はそんなことよりも自分の下半身事情の方が深刻だ。今の兵長の口振りだと、これからもこういうことがちょくちょく有るらしい。普通に考えてそれはちょっと嫌だ。
「ああそうだ。俺が変態だと勘違いされても困るから一応言っておくが、俺だって好きで男の服を脱がそうとしてる訳じゃねえからな。クソ面白くもねえ。
 仮にこのままお前に何も教えないで放置しておいたら、そのうちハンジ辺りに聞いて体良く実験台にされるのが目に見えてるからだからな。そうでも無ければわざわざこんな面倒くせぇことしない。」
「……。」
 調査兵団に入ってまだ数日なのに、自分の行動パターンと性格を思い切り読まれている。
 たしかにハンジさんは上官の中でもかなり話しやすいので、たまに相談に乗ってもらって今まで何度か危ない目に合っているのは事実だ。
「オレも巨人に性教育してやる程度にしか思ってないから、お前も気にするな。」
「はあ……巨人に性教育ですか……」
 これは兵長なりの冗談なのかよく分からないが、微妙なギャグセンスだ。しかもこの人はいつも真顔で言うので性質が悪い。
 寒いギャグにオレが白けている間に、兵長はこれ幸いと寝間着代わりにしているズボンのゴム部分を掴むと引きずり下ろしてくる。
「ちょ、そ、そんないきなり!?心の準備ってもんが……!」
「しつけえな……。オレは面倒事は朝のうちに一気に片付けるタイプだ。」
 そういう問題じゃないと心の中で突っ込むが、このままだとズボンが破けそうだ。
 オレの寝間着のズボンの替えはあと一着しかない。
 兵長はオレがためらって思わず力を抜いてしまった一瞬の隙を見逃さず、一気にオレのズボンを膝まで引きずり下ろしてしまう。さすが人類最強は抜け目がない。
「も、もう勘弁して下さいよ兵長!」
 このままだと下着も剥かれるのも時間の問題だろう。
 現にズボンを下ろされる際に下着が巻き込まれたせいで中途半端にずれ落ち、辛うじて前部分が隠れているだけの心もとない格好だ。
 まさか朝っぱらから兵長に半ケツ状態を晒すハメに陥るとは思わなかった。
「お前なあ……大体風呂に入るときは皆素っ裸だろうが。今更恥ずかしがることもねえだろ。」
「そ、そうですけど。今は別に風呂に入るわけじゃ――」
「はあ。」
「――ギャッ!?」
 兵長はオレがしつこく抵抗するので面倒になったのか、いきなり下着の生地の上からオレ自身に触れて来た。下着越しとはいえ、兵長の手が不意打ちでいきなり陰茎に触れてきたのに驚いてビクリとしてしまう。
 更にその手を上下に緩く動かされたせいで下着の中で渇ききっていないらしい液体がネチャリと音を立て、居た堪れない気分になる。
 しかし相手は上官なので無理矢理払いのける訳にもいかない。そのまま何とかやり過ごそうと歯を食いしばって固まっていると、触られている部分から今まで感じたことがないむず痒い感覚が背中を這い登って来て、緩やかに陰茎が勃ち上がるのを感じる。
 こんなの、初めての感覚だ。
「お前、ガキの作り方くらいは知ってんのか?」
「へ?ふぁッ……!んんッ!っ……ちょ、兵長わざとですか!?やっ、めてくださッ……!」
 いきなり何を言い出すんだとぼやけた視界で兵長の方を見ると、不意打ちで陰茎を強く擦りあげられて妙な声が漏れてしまう。男なのに女みたいな甲高い声で恥ずかしい。
「……勃たせたコイツを女の孔に挿れれば……いわゆるセックスってヤツだな。」
 セックスという言葉がまさか兵長の口から出ると思わなかったので思わず顔を見上げると、思い切り口角が上がっている。
 オレをからかって面白がっているのがバレバレだ。
(ク、ソ……何だコレっ……!)
 身体を捻って体内で燻っている熱を何とか追い出そうとしていると、先端の孔部分に指の先を添えられグリグリと抉られ、 今までで一番強い刺激に身体が勝手に弓なりにのけぞってしまう。
「ヒアッ――!?」
 ビリビリと物凄い刺激が脳髄に伝わってくる。
 腰が自然にガクガクと動き、陰茎の先端から何かたらりと出て来る感覚がする。
「な……に、これっ……ん……」
「これは……先走りだな。」
 兵長は懇切丁寧にオレの質問に答えてくれるが、正直余り頭の中に入って来ない。
 強い快感に耐え切れず無意識にガリガリと床の石畳の表面を掻くと、オレの様子を見かねたのか兵長はオレの両手を手に取ると両肩へ置いた。
「おい、手が傷つくだろうが。」
「へ、いちょ?」
「とりあえず、適当につかまっておけ。」
 気にかけてくれている、のだろうか。
 恐る恐る兵長の肩に置いていた手に少しだけ力をこめ……次の瞬間、中途半端に腰部分に引っかかっていた下着を膝部分までずるりと下ろされた。
 どうやら自分ははめられたらしい。
「!?」
「お前、その単純な性格は戦闘中に不利になるぞ。」
「ひどいじゃないで――ッ!」
 だまし討ちのような仕打ちに文句を言おうと口を開いた瞬間、陰茎の根元からグイとすりあげられ言葉に詰まる。
「この調子だと、お前ろくにオナニーもしたこと無いんじゃないのか?」
「――ん、ん、ん!」
 兵長が訳がわからないことを言いたい放題言っているが、断続的に与えられる刺激に考えが上手くまとまらない。
 さらに布の上からではなく、直接の強い刺激に快感で目がぼやけて兵長の表情がよく見えない。
 下半身からは、ぐちゅぐちゅという音が聞こえて耳からも犯されているような気分だ。
 与えられる刺激に自身は完全に勃ち上がり、先端の孔から絶え間なく先走りとかいう物が出ているのが自分でも分かる。
 恥ずかしいので流れを何とか止めたいとは思うが、自分の意志ではどうにも出来ない。
 しかも、先ほどからさらに大きな波が体の奥から湧き上がり、身体が小刻みに震えている。
「も、ヤっ――何か、出るっ……!」
「……そろそろか。」
「は、あッ――!」
「今から出るやつは精液だ。コイツを女の中で出せば、ガキが出来るって訳だな。」
 ただ面白がっているだけかと思いきや、兵長の中では一応訳のわからない性教育とやらの講義を続けられているらしい。
 だがこちらはもうそれどころじゃない。
 いい加減、好き勝手しやがって!と口で抗議したいところだが、今口を開いたら情けない声が出てしまいそうだ。
 仕方なく、ぼやけた視界でギッと睨みつける。
「なんだ、煽ってるのか?」
 そんな趣味は別にねぇんだが……なんて、兵長は好き勝手なことを言っている。
 自分だけが追い詰められて、兵長は余裕そうなのが気に食わない。
「――ク、ソッ……!」
「上司に対しての言葉遣いがなってないな。」
「す、みませっ――ぁ……でもっ、兵長が……!」
「なんだ、口答えか?」
 嫌がらせのつもりなのか、つるりと先端に被っていた皮を完全に剥かれると先走りの液を亀頭にすりつけるようにゆるくこすられる。
「――ッふあ、はぁ、ッッ――!!」
 亀頭を直接触れられると、今まで感じたことのない強い快感が全身に走り、一気に意識を持っていかれる。
 兵長の手にもっとと擦りつけるように勝手に腰が動いてしまう。
「……さっさとイけ。」
 再度孔の部分をグリグリと刺激されると、そこからぶわりと快感の波が広がる。快感が急に高められたせいで身体全体が一気に張り詰め、両足がピンと伸びてしまう。それと同時に尿道からドクリと何かが勢いよく登って来るのを感じる。
「ヤ、ぁ――ッ!!何か、でて……ッ!――ぁッ、ぁあっ!!」
 兵長は平然とした顔でオレの出した精液とやらを手のひらで受け止めると、その後も陰茎を何度か擦って残滓を絞り出すような動きをしてくる。
「は、ぁッ……はっ……」
「こんな具合にたまには自分で処理するんだな。でないと、さっきみたいに寝てる間に勝手に出て朝方惨めな思いをするハメになる。ついでに、寝てる間に勝手にコイツが出てくるのを夢精って言うんだよ。」
「分、かりましたからッ……――も、や、んッ!」
 射精した後もゆるゆるとしつこく擦ってくるせいで、また勃ち上がりそうになる。さすがにもう勘弁して欲しいと肩に置いていた手を下肢に持っていくと、兵長は手を止めてこちらを見た。
「お前……敏感なんだな。」
「お……男がそんなこと言われても、全然嬉しくないです!」
 恥ずかしい姿を見られたのを誤魔化したい気持ちもあって大げさに噛みつくと、珍しく兵長がふっと小さく笑った。
 兵長のレアな笑い顔――ただし、ただ馬鹿にされているだけのような気がする――に呆気に取られていると、いつまで下半身丸出しでいるつもりだと頭を叩かれた。


「たたた……」
 足首まで落ちてしまったズボンを上げようと背中を折り曲げると、背中に鈍痛が走る。
(あー……兵長に蹴られたところ、青あざになってそうだな……これは。)
 兵長は、そんな様子のオレを全く気にした風もなく部屋の隅に置いてある桶で手を洗っている。
(クソー……オレだけあんな恥ずかしい思いして、やった本人は涼しい顔してるし……。
 てか……兵長は何でいきなりあんなことしたんだ?性教育とか言ってたけど……本気か?普通、ああいうことってす――好きな人とかとやるもんだよな。)
 何しろ経験が無いどころか、その手の知識も乏しいのでさっぱりそこら辺の事情が分からない。
 無意識にジッと兵長の背中を見ていると、視線に気付いた兵長がこちらを向いた。
「何だテメエ……さっきから人のことジロジロ見やがって。オレも忙しいからな……これ以上お前の精力発散に付き合うつもりはねえからな。」
「――!?ち、違いますよ!!何言ってるんですか!」
「あ?じゃあ何だ。」
「うっ!……いや、ただ……何でいきなりこんなことしたのかと、思って……それだけです。」
 渋々口を開くと、何だという顔で見られてちょっと気まずい。
「お前もほんと……。はあ。まあこの位、友人同士でやってるやつらも結構いるだろ。特にこういった組織だと女が必然的に少ないしな。」
「えっ!?」
(そ、そうなのか!?オレが知らなかっただけなのか!?)
 というか――まさか、兵長も他の人とこういうことをしょっちゅうするのだろうか。だとしたら、ちょっと寂しい。
「……。」
 聞いてみても、大丈夫だろうか。
 勇気がいるが、あんなことまでしてしまったし……もう勢いだ。
「えと……兵長も他の人と、さっきみたいなこと、したことあるんですか?」
「あ?残念ながら、オレはこういうのを他の男とやりあう趣味はねえな。」
「へっ?ならなんでオレに……」
「だからさっきから言っているだろう。性教育だ。」
「ああ……はい……そうですか。」
 暗に自分が特別だと言われたような気がしてドキリとしたが、兵長の寒い冗談に一瞬でその思いが消し飛んだのは言うまでもない。
 この人はどこまで本気なのか全く分からない。
「まあそれはともかく――随分時間も経ったしな……朝の訓練は後日だ。」
「わ、分かりました。」
 さすがにあんなことがあった直後に、平常心で訓練に臨める自信が無かったのでホッとする。
「俺の仕事手伝いと通常訓練には遅れるなよ。」
「はい。」
 兵長はハンカチを取り出すと神経質そう濡れた手をぬぐい、そのまま部屋を出て行ってしまった。


「ふう……」
 部屋から誰もいなくなったのでようやく一息つくと、急いで団服に着替える。
「にしても……いきなり、何だったんだ……?」
(友人同士でああいうことする人たちも居るって言ってたし……オレの気にしすぎか?)
「うーん……よく分からないな。」
(やっぱり、今度アルミンに聞いてみるか……?でもアイツ、そういうの疎そうなんだよなあ……しかも、次いつ会えるかも分からないしなあ……)
 兵長のせいでまた悩みが一つ増えた。

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