アイル

調査兵団における恋愛事情-7(R18)

「遅いぞ。」
「ひっ!?」
 久しぶりにアルミンと沢山話せて楽しかったなあと晴れ晴れとした気分で地下にある自室に戻ると、鍵をかけたはずの自室の扉が何故か開いていた。
 不思議に思いながら恐る恐る部屋の中へ入ると……兵長がベッドの上に足を組んで偉そうに座っていた。
「な、なんで兵長がこんなところに!?」
「お前、今何時だと思ってんだ。夕飯に決まってるだろ。早くしろ。」
「は、はい!」
 アルミンと話すのが久しぶりだったのでついつい話し込んでしまったが、そういえば兵長は人ごみが嫌いとかで夕食を食べる時間帯が少し早いのだ。
 正直なところ、さきほどアルミンと兵長についてのアレコレを話した直後なので顔を突き合わせて食事をするのが気まずいが、今の兵長の表情から察するに……相変わらず朝の不機嫌が継続しているらしいので余計なことを言わずに大人しく返事をする。
「昼飯の時間も食堂で見かけなかったが、お前らどこで話し込んでたんだ。」
 これ以上待たせたら雷が落ちそうだったので、慌てて手に持っていた貴重品などの小物を片付けて食堂に出かける準備をしていると、唐突に兵長が話しかけてきた。
「ああ……あの後すぐにアルミンと会えたので昼食は早目に済ませたんです。その後はずっと屋上で話していて……」
「そうか。」
 監視役として自分の一日の行動を把握しておく必要があるのだろうか。兵長は割と頻繁にこうやってオレの居場所とか何をしていたのかとかを聞いてくる。
 悪い気分はしないのでそれは一向に構わないのだが、一々オレに確認するのは面倒そうだなあと思う。
「お待たせしました。えっと……食堂に行きますか?」
 片付けを終えたので、ベッドに座っている兵長の目の前に立って声をかけると今日一番の不機嫌な顔で下から睨みつけられた。
「!?」
 ――何か……今日滅茶苦茶機嫌悪いなあ……
 兵長の不機嫌オーラに気押されて若干のけぞり気味になってしまう。いつも割と不機嫌そうなオーラをまとってはいるが、他人にここまであからさまにぶつけてくるのは珍しい。
 というか、今オレは睨まれるような何かをしただろうか?
「あ、あのぉ……兵長?」
「……はあ。」
 一人であたふたとしていると思い切りため息つかれたが、ひとまず食堂へ移動する気になってくれたのかベッドから立ち上がってくれてほっとする。
( ……もしかして見下ろしたのが不味かったんだろうか。)
 何となく、そんな気がした。
「お前は――」
「えっ?」
 さすがに上官の前を歩く訳にいかないので、ぼんやりと突っ立って兵長が歩き出すのを待っていると、突然ガシリと腕を掴まれて足を引っかけられる。いきなりどうしたというのだろうか。
 思い切り油断していたので咄嗟に反応が出来ずにベッドの上に倒れこむと、兵長がオレの上に乗り上げてきた。
 驚いて兵長の方を見るが、ちょうど蝋燭の明かりの逆光になっているせいで表情を伺うことが全く出来ない。
(――あのキスの件以来、全然触って来ないから最近は全く気にしてなかったけど……いきなり!?)
 脳裏に『兵長って実はエレンに気があるんじゃない?』というアルミンの言葉がよぎって一瞬ドキッとするが、自分の思い違いだった場合のダメージを考えるとどうしても否定したくなる。
 そんなことをグルグルと一人で頭の中で考えている間に、兵長のひやりとした手がスルリと頬を撫でて来た。そのまま顎まで撫でると、グイと顔を持ち上げられる。
「へ、いちょ……?」
 相変わらず表情が見えないし、言葉も全く発しないのでだんだん不安になってくる。思わず声をかけたが、案の定反応してくれない。
 一体いきなりどうしたというのだろうか。
 このままオレが何もしないでいれば、あと数秒後にはキスをされる。
 さっき、このまま受け身なだけじゃ駄目だよとアルミンに忠告されたのに早速このザマだ。
(――でも……誰だって、好きな人にこんな風にされたら嫌だって言えるわけないだろ……!)
 唇が合わさるまでほんの数センチというところで堪らず両目をつぶると、突然足の間に入れられていた兵長の膝にグイと下肢を刺激されて軽く喘ぎ声が漏れてしまう。
「はぁっ……――ッん!」
 さらに口を開いた拍子に、それをまるで見計らっていたように口を塞がれた。
 この間と同じように、ヌルリと口の中に兵長の舌が入って来る。チロリと舌先で自分の舌をなめられたのに驚いて奥の方まで引っ込めると、兵長は顔をさらに傾けてグイと唇を押し付け、奥まで舌を追いかけてきて絡めとられた。
 さらにキスをしている間にも膝で下半身を刺激されるのでこちらはたまったものじゃない。快感で脳みそが沸騰し、だんだんと体に力が入らなくなってくる。
 もうどうにでもなれという気分だ。
「ふっ、んっ!んッ……!」
 オレが限界に近付いてきたのを察したのか、下肢にグイグイと膝を力強く押し付けてられ、さすがに我慢しきれず断続的にくぐもった声が漏れてしまって恥ずかしい。
「んっ!――はぁっ……やぁ、ん――」
 しかも、最初のうちは息継ぎのためにときどき緩く唇を離してくれていたが、今では全く外してくれないので困る。
 どうしても息苦しくて兵長の唇を無理矢理外すがすぐにまた塞がれてしまって。仕方なく鼻から息を吸ってもみたが全然足りない。しかも、鼻から息を吸うとふうふうと息が荒くなってしまってなんだか恥ずかしい。
「ん……――おい、他所事でも考えてるのか。」
 ようやく唇を解放され、息をちゃんと吸えると口をはくはくとしていると突然兵長に話しかけられた。驚いて閉じていた目を薄らと開くと、目の前に兵長の顔があって吃驚する。
「そうじゃ、なくて……息が……」
「……。何だ、随分余裕じゃねえか。」
「えっ?」
 兵長の目がスッと細められたので、嫌な予感がする。オレは、今何か不味いことを言ってしまっただろうか。
 後悔するが、快感で思考が上手くまとまらない。しかも、どこら辺の発言が不味かったのかいまいち分からない。
 あたふたとしていると、再び唇を塞がれた。
「――ッん!?」
 と同時に、下肢に先ほどよりもはっきりとした刺激を感じて思わず目を見開くと、目の前で薄く目を開けていた兵長と目が合ってしまってドキリとする。
「ふっ……ん、んッ!」
 慌てて再び目を閉じようとするが、立て続けにズボンの上から下半身を擦り上げられてタイミングを逸してしまう。恐らく手で触れられているのだろう。足で刺激されていたときよりも的確に快感のポイントをつかれているせいで声を抑えられない。
 とは言っても、相変わらず兵長に口を塞がれたままなので声というよりは喉が鳴っている感じなので、自分の嬌声を聞かずに済むのだけが救いだ。
(……もっ……ダ、メ……!)
 ズボン越しに先端の敏感な部分をグイグイと刺激されると堪らない。洋服の上からの刺激なので、焦れったいといえば焦れったいのだが兵長に触れられているというシチュエーションに興奮する。
 中途半端に開いたままの目が快感で潤んでだんだん視界が悪くなってくる。ビクビクと腰が動いてしまっているのが自分でも分かるが、止めることが出来ない。もう限界だ。
 途中から手の動きと合わせるように舌も動かされ、どっちがどっちなのか訳が分からなくなってくる。
「……んんッ、ふッ……ン……」
 兵長の手の動きに合わせて、下からもグジュグジュと音が聞こえてくるが、恐らく先走りのせいだろう。この調子だと下着は酷いことになってそうだ。
 ヘタしたらズボンの方にもシミが出来てしまっているかもしれない。
「ん……はぁッ……?」
 あと少しでイけるというところで、唐突に唇を離され手の動きを止められた。いきなりそれは無いだろうとぼやけた目で兵長を見ると、どうやら扉の方を見ているようだ。
「へい……ちょ?」
「……誰か来たな。」
 快感でぼんやりした頭では兵長の言葉の意味がよく分からない。
 ――それより
「はや、く……」
 こんなおあずけみたいな状態でいきなり放置するなんて酷い。
 早く続きをして欲しくて目の前にある兵長の上着を掴むと、軽く触れるだけのキスをされてひとまず中断だと言われた。
 いくらなんでもあんまりだ。
 兵長はさっさとオレの上から退いて立ち上がると、まだベッドの上で転がっているオレの両脇に手を差し込んで無理矢理起こしてくる。
「うう……」
 仕方なくベッドに手を付いて座るが、下肢に溜まった快感を早く解放したくてたまらない。堪らずズボンの前に手をやろうとすると、もう人が来るから止めた方が良いと声を掛けられる。
 普通に考えたら色々と憤死物の行動だが、目先の快感を追いかけるの一杯一杯でそこまで頭が回らない。
 え?と顔を上げた次の瞬間、自室の扉がバーンと開かれた。
「リヴァイここにいる!?」
「ノックくらいしろ。取り込み中だぞ、ハンジ。」
「――ひっ!?」
 扉がいきなり開かれたのに驚いて、快感で半分飛んでしまっていた思考回路が一気に回復したのは言うまでもない。
 兵長の身体の影から恐る恐る扉の方を見ると、全速力で来たのかハンジさんがはあはあと肩で息をしながら扉の前に立っていた。
「や、やっと見つけた……どこ探してもいないし、まさかと思ってここに来たけど。ほんと見つかって良かった。」
「用なら早く言え。オレは今忙しいんだ。下らない用だったら削ぐぞ。」
「物騒だなあ。ていうか、こんなところで何してんの?後ろにいるのってエレンだよね?」
 前が勃起していて身動き出来るような状態でもないので、兵長の後ろに隠れるようにして黙っていると、いきなりひょいと覗き込まれる。
「っ!!ハ、ハンジさん……!」
「ああ、やっぱり。って……あれ?もしかしてお楽しみの最中だった?」
「!?」
 ハンジさんはふむと言いながらオレの全身を上から下まで観察すると、いきなりとんでもないことを言い出した。驚いてビクリと身体を揺らすと、ハンジさんがニヤリとした顔をしてますます焦る。
「ふ~ん?」
「いつまでジロジロ見てんだ。」
「ええ?別に?お邪魔しましたっと。」
 途中で見かねたのか兵長が助け船を出してくれたが、何だか今までやっていたことがバレたみたいで気が気じゃない。
 そういえば、よくよく考えてみると医務室のときも似たようなタイミングで部屋の中に入って来ていたし、ハンジさんは間が悪いというか……勘が良いというか……ともかくいつも変な時に現れる。
 ある意味救われたような気がする反面、いつも中途半端な状態でほっぽり出されるのでこっちとしてはたまったものじゃない。
(いや、待て待て!もし、今ハンジさんがここに来ていなかったらオレはどうなったんだ?ていうか、そもそも兵長は何でまたあんなことを?)
 色々と考えてみるが、さっぱり分からない。
「と……それより、エルヴィンが来てさ。これから急で会議だって。」
「チッ……分かった。」
「ほら、リヴァイ探すのに時間大分食っちゃったから早く行かないと不味いよ。」 
 この調子だと、今日の夕食は兵長と一緒に食べないことになりそうだ。
 まあ……キスやらナニやらをやられた直後だし、どう考えても普段通りに振舞うことも出来ないだろうからある意味助かったとは思う。
「おい、エレン。悪いが飯は一人で食え。
 あとは……抜いて寝ろ。」
「はい……って、はあっ!?」
「やだなー。リヴァイって結構デリカシーに欠けるよね。」
 他の人の前でそれを言うか!?と口をパクパクとさせていると、ハンジさんがフォローらしき言葉をかけてくれたがあまりフォローになっていない気がする。
 しかもハンジさんのこの口振りから察するに、オレの下半身ののっぴきならない事情についてもどうやら気付いているらしい。ベッドに突っ伏してへこんでいると、じゃあねという声がしてバタンと扉の閉じる音がした。
 どうやら二人とも部屋から出て行ったらしい。
「はあ……。」
 明日からハンジさんに会うのが憂鬱だ。


 それにしても……兵長は一体何のつもりであんなことをしてくるのだろうか。洋服類を入れている箱から、新しい下着を引っ張り出しながら考える。
 今日は機嫌も悪かったし、最中も蝋燭の逆光で余り表情が見えなかったので今まで以上に何を考えているのかよく分からなかった。
(まあ、何だかんだ言って結局流されてるオレもどうなんだって感じだけど……)
 ただ、今回の一件でハンジさんにもオレと兵長の妙な関係が完全にバレてしまっただろうし、いつまでもこんなことを続けていく訳にはいかないんだと強く感じたのは確かだ。
 ハンジさんはこういうことを余り気にするタイプではない……というか、むしろ面白がられているような感じがしたが、これがハンジさん以外の人だったらと思うとゾッとする。
 つい先ほどアルミンが話していたとおり、今まではただ運が良く他の人にバレていなかっただけで、実際はいつ誰にバレるか分からない状況だったのだと改めて思う。
(本当……いつもアルミンの言う事は正しいな。)
 ちゃんと考えるのはまだ先で良い、なんて軽い考えでいた自分が恥ずかしい。
「ちゃんと、兵長に言わないとな……」
 アルミンのヤツは告白すれば?なんて軽く言っていたが、いくらいつもアルミンの言う事が正しくてもこればっかりは自分から言い出す勇気はない。
(ということは……兵長に触らないでくださいって言うしかない、のか?)
 なんというか、ギャグだ。
(ちょっとそれは流石にな。)
 女子じゃあるまいし……アホらしい。
 自分でその光景を想像して、余りのうすら寒さに乾いた笑いしか出てこない。
 こんな間抜けな三文芝居のような光景を回避するには、やはり怪しい雰囲気になる前に逃げまくるしかない気がする。
(って言っても、今も飯と仕事手伝いと訓練の時間以外はそんなに兵長といるわけじゃないのに……今さっきの有様だしな。)
「うーん……」
 分からない。
 結局色々考えたところで、それほど頭が良くない自分では良い解決案は思い浮かばなそうだ。しかも、兵長への好意が頭の働きをさらに鈍くさせている気がする。
 ただ、こんな妙な関係が続いてしまっているのは、オレが今まで何をされても拒絶しなかったせいだというのだけは分かる。
「とりあえず、また妙な雰囲気になったら流されないようにするか……そ、それで……止めてもらうように言おう。」
 結局、最終的に思いついた案はかなりお粗末なものだったのは言うまでもない。
 アルミンが居たときに、恥ずかしがらずにもっと色々聞いておけば良かったと今更のように後悔しても後の祭りだ。


「よし……下着も履き替えたし食事に行くか。」
 早く行かないと、あと少しで食事の時間が終わる時間のはずだ。
 相変わらずあまり食べたい気分ではないが、就寝までにはまだまだ時間があるし、今食べられるだけでも腹の中に入れておいた方が良いだろう。
 兵長が部屋に来たときに灯してくれたらしい蝋燭の火をフッと消すと、食堂へ向かった。

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