アイル

ロスオブメモリー-1(R18)

「――テメエの名は?」
「あ……」
 大事な人の記憶から、自分の存在が消えるなんて……
 考えたことも無かった。
 ――ああ。
 兵長の冷めた目線がオレの全身に突き刺さって痛い。
 オレにとって貴方は今でも恋人で……
 でも、貴方にとってオレはただの見知らぬガキ。
 ――貴方の中オレがいない。

■ ■ ■

 エレンの身柄は調査兵団に預けられることになり、さらに彼を監視する目的でリヴァイ班が結成された。
 このリヴァイ班は、現在旧調査兵団本部に拠点を置いている。

「うーん……見当たらないな。」
 旧調査兵団本部に移動してから数週間が経過したが、オレは現在兵長の元で仕事の手伝いを主にしている。
 そんなこんなで、移動してから二週間ほど経過したある日の昼下がり、オレは兵長に前回の壁外調査の記録を持って来るように言われたので早速資料室へ目的の物を取りにきた訳だが……目的の物が全く見当たらず、かれこれ数十分ほど部屋の中で立ち往生していた。
(全部の書棚、確認したよな?部屋の大きさだってそれほどじゃないし見落とすことも無いと思うんだけど……。)
「参ったな。聞こうにも部屋の中に誰もいないしな。」
 運が悪いことに、資料室の管理を担当している兵士が席を外している。それならそこら辺に歩いている人に聞こうにも、そもそも資料室に来るような人間なんて早々いない。従って自分で何とかするしかない状況だ。
(……でも、これ以上遅くなるとまた兵長に色々言われそうだし。最近は怒るっていうか、もっと始末が悪いからなあ。)
 あれこれあって、少し前に兵長と晴れてお付き合いすることになったわけだが……それからというもの、仕置きと称してソッチの方の嫌がらせを頻繁にして来るようになったような気がする。何しろ執務時間も訓練時間も監視という名目でずっと一緒にいるので、兵長のやりたい放題なのだ。
(まあ……悪い気はしないけど……)
 しかし、下品な話しだが……こちらは何しろ突っ込まれる方なので、色々やられた日の翌日ならまだしも、直後に訓練があった日は思ったように身体が動かずに大変なのだ。
「少しはオレの身体の都合も考えて欲しいよな。まったく……。」
「……ほう。その話、後で詳しく聞こうじゃねえか。」
「――っ!?」
 近くにある本棚に手を付いて思わずハアとため息をついていると、後ろからドスの効いた声が聞こえてきた。
 この声は間違いなく――
「へ、兵長っ!?」
 反射的にグルリと後ろを向くと、オレの勢いに押されて手を付いていた本棚がギシリと嫌な音を立てる。
 やはりそこにいたのは……眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をした兵長だった。
(……入って来たのに全然気が付かなかった。)
 この人はそこに居るだけで物凄い存在感があるのに、気配を殺すのがとても上手い。だから余計に厄介だ。
「え、えーと……」
「戻るのが遅い。テメエは満足に探し物も出来ねえのか。」
 慌てて敬礼をしながらどうやって先ほどの発言を誤魔化そうと考えていたところで、根本的な件を怒られた。
 そういえば資料探しがまだだった。
「す、すみません!」
(……さっきの件は、とりあえず流してくれるのか?)
 人気も無いし場所も場所だけに少し危ないと思っていたが、どうやら今はそういう気分では無いらしい。
 敬礼をした姿勢のままチラリと兵長の顔を伺うと、思い切り脛を蹴られた。
 ……痛い。
 兵長が迷わず部屋の奥に進んで行くので黙って後ろ付いて行くと、部屋の奥にあった扉の前で立ち止まった。
「壁外の資料が表に堂々と置いてある訳ねえだろうが。この奥の部屋にある。」
「奥って……この扉の中ですか。」
「ああ。」
 てっきり資料室に普通に置いてあるのかと思っていたら、どうやらそういう訳ではなかったらしい。
(……まさか、奥の部屋の方にあると思わなかった。というか、そもそも勝手に入って良いのか分からなかったしな……)
 せめて一言教えてくれれば、こんなに時間も掛からなかったのにと思うが今更だ。
「……おい。何ボケッと突っ立っていやがる。さっさと来い。」
「は、はい!」
 オレが上の空でいるのに気が付いたらしい兵長に思い切り睨まれ、慌てて奥の部屋に入って行く兵長の後に続く。
 相変わらず……この人は他人の機微に敏い人だ。
(……一見、他人に興味無さそうなんだけどな。)
 こう見えて案外部下の面倒見もいいので人は見た目によらないとつくづく思う。
「あれ?この部屋真っ暗……ですね。窓とか閉めきってるんですか?」
「いや。そもそもこの部屋には窓が無い。」
「ああ……。」
 ……だからだろうか。閉め切った部屋独特の臭いがする。
 部屋の入口付近に立っていると、マッチの擦る音がして部屋に置いてあったらしい蝋燭に火が灯された。兵長が点けてくれたらしい。
 昼間なのに蝋燭なんて、まるで地下室にあるオレの部屋みたいだ。
「そんなに広く無いんですね、この部屋。」
 蝋燭の火を頼りに辺りを見渡すと、部屋の大きさはオレの地下部屋より少し大きい位のようだ。
 本棚が壁に沿って置いてあるので圧迫感が少しだけある。
「元々は物置専用の部屋だからな。書類関係を別保管するのにこの部屋を使っている。」
「そうなんですか。」
「それより、ここに壁外の記録が回数順に全部置いてあるから俺がさっき言った資料を探せ。五分以内だ。」
「は、はい!」
 相変わらず、無理難題を押し付けて来る人だ。
 でもまあ、兵長らしいと言えば兵長らしい。
 ……言われた方はたまったものでは無いが。


(えーっと……前回の壁外調査の資料、か。)
 前回の資料ということは、一番最近の物だ。
 ということは恐らく空きが多い一番奥の棚にあるだろうと目星を付けて探してみると、予想通り背に『第五十六回壁外調査』と書いてある冊子が上から二番目の段に並べられていた。
 ここは元々城というだけあって、天井が普通の建物より無駄に高い。しかもそれに合わせて本棚を設計しているらしく、一番上の棚は足台がないとまず届かないだろう。
「うーん……。」
(二番目の段だし背伸びすればギリギリ届きそうだけど、一応台に乗って取るか……兵長の前だしな。)
 上官の前で不格好な姿を晒すのも何となく気が引けるので、足台になるような物が無いか部屋を見渡すと……唯一、代用できそうな椅子には兵長が既に腰かけていた。
「……。」
「何だ。」
「……いえ。」
 兵長相手にどいてくれなどと言えるはずもない。
 こういう時だけ……オレもベルトルトくらい身長が欲しかったと思う。
(……仕方ないか。)
 あまり気は進まないが、足台が使えないなら背伸びをして取るしかないだろう。
 下の棚に手を付きもう片方の手を伸ばす。踵を浮かせてグイと背筋を伸ばしたら、何とか冊子状に束ねられている資料の背の下部分に指が引っかかった。
「……っ、」
「おい、資料は丁寧に扱えよ。それは本部にある原本の写しだが、ここにはそれしかねえんだからな。」
 そのまま本棚をグイと押して反動で本を引き抜こうとしたところで、兵長に後ろから声を掛けられる。
(――そんなこと言うならイスからどいて下さいよ!)
 と、言いたいが言えないのが悔しい。
 チラリと後ろにいる兵長の方を見ると、足を組んで暇そうにこちらを眺めている。
(……さっさと本取ろう。)
 このままだと、取るのが遅いと言ってまた妙な無理難題を言ってきそうだ。
「……ん」
 資料の背部分に引っかけている指先に力をこめる。
(結構……固いな。)
 棚にみっちりと色々な資料が詰まっているせいか、なかなか目的の物を抜き出せない。グイグイと何度かに分けて力を込めると、ようやく表紙部分が見えて来る。
(あと……少し……!)
「――っひぁ!?」
 もう一度資料を掴んでいる手に力を込めようとしたところで、背後からいきなりうなじの部分にガブリと噛みつかれた。
 油断していたところを思い切り齧られたので、痛くて思わず資料を掴んでいた手を離してしまう。幸い資料は中途半端にしか抜けていなかったので、頭に本が落下するという大惨事にならなくて済んだが、いくらなんでもこれは無い。
「ちょ……いきなりなんなんですか!?」
 背後でいまだに人のうなじを齧っている犯人……である兵長に声を掛けるが、全く止める気が無いのか返事すら寄越さない。
「兵、長……!」
 身体を捻って何とか兵長の唇から逃れようとするが、両手を掴まれて目の前にある本棚に押し付けられてしまう。
 身長は確かにオレの方が少し高いが、相手の方が桁違いに力が強いのでこうなるとどうにも出来ない。
「っ!?」
(な、んだってんだ一体……!)
 オレが抵抗出来ないのを良いことに、今度は思い切り齧られたところをペロペロと舐めてきた。おかげでだんだんと妙な気分になってくる。
 さらに足の間に無理矢理膝を押し込んで来て、いよいよ怪しい雰囲気になってきた。
「……っふ……ん……」
 足の間に差し込まれた膝を上げられ、グイグイと押し付けるようにして下肢を刺激されると喘ぎ声のような吐息が漏れ出てしまう。
 狭い室内に自分の喘ぎ声が響くのが恥ずかしくて、口を押えて何とか声を抑えようとするが、両手を拘束されて本棚に押し付けられているのでそれもかなわない。仕方なく下唇をかみしめるが、今度は変な鼻息みたいなのが漏れてしまう。
「……い、きなり……な、んですかっ、ひぁっ!?」
 鼻息が恥ずかしくて誤魔化すように抗議の声を上げると、グイと股間に膝を一際強く押し付けられ、はっきりとした喘ぎ声が漏れてしまう。しまったと思うが後の祭りだ。
 一度声を出すともう止まらない。
「……あ?別に理由なんていらねえだろ。そういう気分になっただけだ。」
「ちょ、横暴…ですよ、っ……ん……」
「いつものことだろ。」
 たしかにいつものことだが、何もこんなところでと思う。
 理性の残っているうちに何とか兵長の手から逃れたいが、下肢と首筋を同時に刺激されてだんだんと立っているのが辛くなってきている。正直、逃げるどころか立っているので精一杯だ。
 せめてもの抵抗と兵長の唇から逃れようと上体を前に倒すが、逆に覆いかぶさるようにしてうなじをしつこく食まれてゾクリとした感覚が背筋を走る。
(っ……このままだと……ま、ずい……)
 身体から力が抜けて、腰が落ちてきているのが自分でも分かる。そのせいで、自分から兵長の膝に下肢を押し付けるような形になっている。
 オレの腰が落ちて来て流石に兵長も足が動かし辛いのか、押し付ける動きから擦り付ける動きになってきた。兵長から与えられる断続的で焦れったい刺激に、ブルブルと小刻みに足が震えているのが自分でも分かる。
 兵長はそんな様子のオレに気が付いているのかいないのか、さっきからずっと膝を動かすだけという中途半端な刺激をオレに与えてくるだけだ。かといって自分から腰を動かすだけの勇気も無い。
「へ、いちょ……、……っ!?」
「何だテメエ……もう降参か。」
 思わず助けを求めるように後ろをふり向くと、思ったより兵長の顔が近くにあって驚く。オレの首筋をずっと舐めていたせいか、兵長の唇が唾液で光っていて恥ずかしくて直視出来ない。
 思わず目線を下に向けると、顎をグイと掴まれて無理矢理後ろを振り向かされ、本棚に押し付けるようにしてキスをされた。
「……ん」
 ゆるゆると舌で唇の表面を撫でるようにされると無意識に口が開いてしまい、間から兵長の舌がぬるりと入り込んでくる。
(あ、つい……)
 分厚い舌が絡み付く。
 粘膜同士が直接触れ合っているせいだろうか……何だかとても熱く感じる。
「んぅっ………」
 何度か舌を擦り合わせるようにして絡み付けられた後、オレが感じる場所の一つである口蓋部分をくすぐるようにして舐められる。
 しかし後ろを向いた不自然な体勢のせいだろうか。舌の位置がずれていて、いつもより焦れったい。
「……ふ……………っん、んんん!」
 もっとと無意識に顔を更に傾げて深く繋がろうとすると、舌をグイと押し上げられた。そのまま舌の裏筋部分を左右にぬるりと舐めあげられると背筋にゾクリとした感覚が走る。
 そういえば、この場所に触れられるのは初めてかもしれない。
 強い刺激に驚いて思わず顔をほんの少しだけ離したところで頭が背後の本棚にぶつかり、追いかけてきた兵長の唇に再び口付けられてしまう。そして早速とばかりに集中的に舌の裏筋をグニグニと刺激される。
「……ッ!」
(……ま、ずい)
 オレの反応のせいでどうやら色々といらない情報を提供してしまったようだ。
 今まではここまで露骨に触れられたことが無かったので気が付かなかったが、舌の裏側もかなり気持ち良い。上下左右に何度も擦り上げられると、はっきりと下肢に熱が集まってくるのを感じる。もう足からは完全に力が抜け、兵長の膝に支えられて辛うじて立っているような状況だ。
 ……まさか、口付け一つでこんな感じると思わなかった。
 オレの反応がいきなり顕著になったのに気を良くしたらしい兵長が、口付けはそのままに今度はシャツを捲り上げて胸を弄ってきた。
 オレもこんな誰が来るか分からない場所で駄目だというのは分かっているのだが、自分の下肢もはっきりと勃ち上がっているし、のっぴきならない状況なのも確かで。目先の快感に負けて、強く抵抗することが出来ない。
 恐らく兵長もそれを分かっていてやっているあたり、大人ってズルイと思う。
「……んっ……ふ……」
 後ろからぺたんこの胸を鷲掴んで数回揉まれた後、指先で胸の先端をつままれてピンと弾くようにしてつつかれる。
 間で気まぐれに先端を押し潰したり摘まみ上げられたりすると、思わずビクリと身体を揺らしてしまう。さらにその拍子に思わず下肢を兵長の膝に擦り付けるように動かしてしまい、余計に自分を追い込んでしまうが止められない。
「ん……テメエも何だかんだ言って結構な好き者だな。」
「……はぁっ……」
 ようやく口付けを解かれると早速第一声で酷いことを言われるが、オレの頭の中はすでに快感でグズグズ状態なので思考がまとまらず、ろくに反論することも出来ない。
「うっあ!……やぁっ、ん!」
 言う事を聞かない身体を目の前にある本棚に懐くようにして預けると、後ろでクスリと笑う声がして下から膝を突き上げるように何度も動かされる。
 同時に乳首を挟まれてグニグニと押し潰すように触られると、下肢がカッと熱くなり先端からピュクリと先走りが出たような感覚がする。
「――うっ…んん、っ……」
(……お、オレ……このままだと不味くないか?)
 流石に着衣のままイかされては堪らないと慌てて立ち上がろうとするが、足に力が入らないので滑って逆に擦り付ける形になってしまい更に先走りが出てしまう。
「ちょ……へ、兵長、これ以上はいくらなんでも不味いですよ……!」
「あ?テメエ今更何言ってやがる。」
 下肢の濡れた感覚にいよいよどうしたものかと身体を硬直さると、今度はオレのズボンを脱がせにかかってきて。さすがに慌てるが、兵長はオレの不安もどこ吹く風といった様子で手際よくオレのズボンを足元まで落としてしまう。
 ついでとばかりに下着もグイと引きずり下ろされると、予想通りネトリと糸を引く感覚がしてゾクリとした感覚が背筋を走って。もうこここまで来たらどうにもならない。
「……いやいや言う割に、テメエはいつもこれだな。」
「――ッ!そ、れは……」
 兵長の言葉に、カッと顔が赤くなる。
 わざとらしくゆっくりと下着を下ろされると、完全に勃ち上がっている陰茎に手を這わせられ緩く何度か上下に擦られた。
 全くこの人は人が嫌がることをわざと言ってくるので意地が悪いったらない。

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