エレンは調査兵団に身柄を託されてから、すぐに特別作戦班の面々と古城に移ってきた。
古城での生活では、基本的に夕食を食べてから寝るまでの数時間を個人の自由と時間として与えられている。しかしそんな自由時間を与えられたところで、新兵であるエレンにやることなど無るはずも無い。
どうやってその退屈な時間を潰そうとエレンが悩んでいると、夕食の時間に、書庫に娯楽用の本が色々と置いてあるという話しをペトラから偶然聞いたのだ。そこでエレンは、その日の寝る前に早速書庫に行って本を漁ることにした。
「や、エレン。読書をするとは、関心関心。」
「あ、ハンジさん。」
本棚から『ヴァンパイア』という本を何となく抜き出したところで、兵長に用があるとかで数日前からこの城に滞在しているハンジさんが本棚の影からひょこりと顔を出して話しかけてきた。
まさかハンジさんがこんな場所に居るとは思わなかったので少しビックリしたが、何か資料探しに来たのだろう。
「それ、手に持ってるのってヴァンパイアの本?へー……懐かしいなぁ。」
「『ヴァンパイア』って有名なんですか?」
「あれ?知らない?子ども向けの絵本とかでたまに悪役みたいな感じで出てくるやつ。あえてカテゴライズするなホラーかなあ。まあ私の勝手な偏見だけど。」
「初めて、聞きました。」
自分は小さい頃から本を読むより外で駆けまわっている方が好きな性質だったので、絵本の類は読んだ覚えがあまり無い。
(……ヴァンパイアか。)
見たことも聞いたことも無い単語だったので思わずこの本を手に取っただけなのだが、ペラペラとページめくってみると舞台はこの壁の中の話しらしい。ところどころに『ヴァンパイア』という見覚えの無い単語が並んでいて興味がそそられる。
ハンジさんいわくヴァンパイアというのはホラー物らしいのでこの本もその類の物かもしれないが、恐怖よりも未知の事を知りたいという探究心の方が強い。
実はホラー系の話しはあまり得意では無いが、子ども向けの絵本でも出てくるらしいので……恐らく大丈夫だろう。と、思う。
「それ借りるの?」
「あ、はい。ヴァンパイアって知らないので、面白そうだなあと。」
こうやって自発的に本を読むのはかなり久しぶりだ。アルミンあたりが知ったらびっくりしそうだなあと思いつつ本を小脇に抱える。
「ふーん、そっか。」
「ヴァンパイアってどんな感じの話しなんですか?」
「うーん、そうだなあ。……処女の血が大好きで夜な夜な町の中とか徘徊しては獲物を見つけて、血を吸いつくしてその人を殺しちゃうとか?」
「しょっ!しょじょ、ですか……」
まさかここでそんな言葉が出るとは思わなかったので思わず顔が赤くなると、ハンジさんがウブだね~とからかってきて恥ずかしい。
(ホラーっていうか……どっちかっていうと変態じゃないか?)
処女という言葉に、怖そうだと身構えていた気持ちが完全に吹き飛んでしまった。
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