「……夕方じゃねぇか。」
久しぶりにゆっくり寝た。というか、寝すぎた。
リヴァイはゆっくりと起き上がってベッドの脇にある窓から外を見ると、陽の光はすでにオレンジ色に染まってしまっている。
この諜報活動という名の休暇に合わせて連日遅くまで仕事をしていたので、その疲れが意外にもたまっていたのかもしれない。
「……何だコレは。」
とりあえず起きようと身体の上にかけていた掛け布を捲ると、何故か自分の隣りから茶色い頭がひょこりと現れた。
嫌な予感がしつつさらに布をめくると、案の定例のクソガキが幸せそうな顔で寝こけている。
(おいおい……。)
正直、昨日の夜に部屋に戻ってからのことは余り覚えていない。
昨夜は普通の食事をする気にもならなかったのでとりあえず酒でも飲むかとワインを散々飲んだ訳だが、疲れがたまっていたせいかいつも以上に酔いが回ってしまったのだろう。
「……はあ。」
久しぶりにやってしまった、としか言いようが無い。
思わず頭を抱えて後悔するが、いくら悔やんだところでやってしまったことはもうどうしようもない。
「とりあえず……コイツの血を吸ってねぇか確認するか。」
何もかも、このクソガキが数日前にヴァンパイアの本を読んでいたのが悪いのだと責任転嫁をしながらエレンの首筋に『痕』が無いか確認する。
自分は人間の連中が言うところの『ヴァンパイア』という存在だ。
笑い話のように聞こえるかもしれないが、事実だ。そしてこの事実を知っている人間は、調査兵団には一人もいない。
(……まあ、コイツにはつい口を滑らせかけちまったが。)
本当に、あの時の自分はどうかしていたとしか思えない。ヴァンパイアの話しを他人に話すなど、面倒事を自分から起こそうとしているようなものだ。
しかしあえて言い訳をするのなら、偶然自分の目の前でエレンが流した血から今まで嗅いだことのないような良い香りがして……うっかりあんな馬鹿げた真似をしてしまったのだ。
あのとき舐めたエレンの血は、今まで飲んだどの血とも違う、特別な味がした。
「……。」
またあの味を思い出しかけたせいで、無意識にゴクリと喉が鳴ってしまって慌てて首をふる。
(……今はそれどころじゃねえ。)
それよりも、酔っ払っている間に無意識にコイツの血を吸っていないか確認する必要がある。そしてそれによって、今後の自分の身の振り方が変わってくるのだ。
(……、……無い、な。)
首筋にまとわりついている髪の毛をどかして牙の痕が無いか確認するが、それらしき痕跡は一切見当たらない。
……いや、正確に言うとキスマークらしき跡が薄っすらと残っているが、牙の痕は見当たらないというのが正しいだろう。
酔っぱらっても一応吸血衝動のセーブは出来たらしいとホッとする反面、別の意味で自分はただの危ない上官に成り下がってしまったと思う。
「……チッ。」
今更後悔したところで、全ては後の祭りだ。
エレンに無意識の状態とはいえ手を出しかけてしまったのが気まずくて、結局リヴァイはそのまま夕食の時間帯までエレンを起こすことはしなかった。
そして夕食の頃に飛び起きたエレンは、寝過ごしすぎたのをリヴァイに平謝りし、結局昨晩のことはそのまま有耶無耶になってしまった。
お互いに、昨晩の出来事に触れるのはタブーのように感じていたせいもあるだろう。
リヴァイにとっては、好都合な展開だったのは言うまでもない。
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