アイル

兵長がお見合いをするらしい!-1

「そういえば、リヴァイ兵長お見合いするんだってね。知ってた?エレン。」
「えっ?そっ、そうなんですか?」
 エレンを含めたリヴァイ班が旧調査兵団本部にやって来て数日経ち、ようやくエレンが新しい環境に馴染み始めてきたとある日の昼下がりのことだ。
 その日エレンとペトラは馬の世話の当番だったので城の外にある厩舎で馬の世話をしていたのだが、ペトラがまるで世間話でもするような軽いノリでとんでもない話しを振ってきた。
「見合いって、結婚前提の顔合わせ的なやつですよね。」
「まあそうね。」
「なんか凄いですね。オレ、まだ見合いとか結婚とか全然想像出来ないですけど……でも兵長が見合いって、ちょっと意外です。」
「ははっ、たしかに。って言っても兵長はあなたより一回り以上年上だしね。ここだけの話しだけど、結婚するのはかなり遅い方だと思うわ。」
「へー……。」
 他人の結婚事情なんてあまり意識して見ていたことは無いが、言われてみればたしかに二十代で結婚する人が男女共にほとんどだ。なので三十代で結婚していないリヴァイ兵長はかなり珍しい部類なのだろう。
(でも……まあ、調査兵団だしな。)
 自分も実際に巨人と戦闘をして死にそうな思いをしたが、そうやって生きるか死ぬかのかのギリギリの駆け引きを行なった後は心も肉体も疲れきっていて、直後なんて正直他の人のことまで考える余裕はほとんど無かった。
 たった一度巨人と戦った自分でさえそんななのだから、実際に調査兵団に所属し、定期的に行われる壁外調査で常に最前線に立っているような兵長なんて尚更にそうなんだろうなと何となく思う。
 だから結婚していなくても、まあ気持ちは分からないでもないというのが本音だ。
「――まあ、この手の見合い話しって今までも兵長には結構来てたみたいだけどね。」
 リヴァイ兵長って結構もてるの知ってる?なんてペトラさんは言っているが、調査兵団の壁外調査の行き帰りの隊列を毎回欠かさず見に行っていた自分がそれを知らないはずが無い。何しろいつも女性達が周りでヒソヒソとリヴァイ兵長がいかに格好良いかという事についてウワサ話しをしていたのだ。
 そしてそんな調子でいつも刷り込みをされていたせいで、いつの間にか自分もそんな思考回路になってしまって……最初は尊敬だったはずの感情がいつの間にか恋愛感情にすり替わってしまったというのは、自分の心の中だけの秘密だ。
 無論この感情は誰にも言うつもりは無いし、本人に打ち明けるつもりも全く無いのは言うまでもない。
 ただ……、兵長が見合いをするという話しを聞いて久しぶりに心がザワついてしまって少しだけ焦る。
(久しぶりの感覚だな。そういえば、兵長と同じ班になるって決まった時も変な感じだったっけ……)
 たしかあの時は近くに居られるのが嬉しいという感情と、自分の気持ちが万が一バレたらどうしようという焦りの感情が強かった。
 しかし今はあの時と少しだけ違う。
 今の感情をあえて言葉にするのならば、兵長を取られたくないという嫉妬のような感情と、兵長が結婚してしまえば自分の気持ちにも踏ん切りが付くという諦めが入り混じった物だろうか。
「兵長、強いですからね。女の人にもてるのうらやましいです。」
 オレは曖昧に笑って誤魔化すと、自分自身の感情に再びフタをした。
 今は情勢も情勢だ。
 きっと甘酸っぱくて切ないこの感情も、そのうち考えるだけの余裕も無くなってしまうに違いない。
 ――そうでなければ、困る。

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