アイル

ベータなエレンの叶わぬ初恋-1

 リヴァイを中心とする特別作戦班が編成され、以前調査兵団本部として使用されていた古城に移動してきてから数日。
 巨人化の影響で身体に変化が起きていないか調べるため、という名目で古城に移動して来る前に受けさせられた身体検査の結果用紙をエレンはリヴァイから受け取った。
「えーと……」
 少々行儀が悪いかと思いつつ。しかしどんな結果が出ているのか気になったので、廊下を歩きながら受け取った三つ折りの用紙を広げて目線をしばらく彷徨わせると、名前欄の横に一番気になっていた性別に関する項目を見つけた。
(あーあ……やっぱり、ベータだよなぁ。)
 訓練兵団に入隊する際に必ず身体検査を受けるが、その時の検査でもエレンはベータ性という結果だった。だから今回もベータ性という結果が出るということは分かりきっていたことだ。
 しかし巨人化の影響でうっかりアルファ性に変わったりしないかな……なんて淡い期待をエレンは勝手に抱いていたりしたのだが、世の中そうは上手くいかないものらしい。
 ちなみに、この世界にはアルファ性やベータ性と言われる性別の他にもオメガ性と呼ばれる性別があり、これらは男性と女性という性別とはまた別に設定されたものである。
 さらにこれらの三つの性別にはそれぞれ特色があり、まずアルファ性の者は生まれ持っての特性により社会的に重要な地位につくことが多いカリスマ的存在であること、そしてオメガ性の者は発情期と呼ばれる特殊な繁殖期間を持っており男女問わず子どもを産むことが出来る稀有な存在であると言われている。
 無論アルファ性とオメガ性はその特異性と、人数が非常に少ないことから希少種として非常に大切に扱われており、特権階級と言っても差支えない。
 しかしながら残りのベータ性については特筆すべき点は特に無く、ごくごく普通の人間というのが一般的な認識だろう。
 そしてエレンは、そのごくごく普通のベータ性というわけだ。
「はぁ……」
 思わずため息を吐くと、廊下にはエレン一人だけのせいか思ったよりも響いて余計に気分が滅入る。
 別にエレンは希少種の特別扱いに憧れてアルファ性に変わりたいとか考えていた訳では無い。そうでは無くて、調査兵団に入団することになり直後に編成された特別作戦班、通称リヴァイ班の面子がどう見てもアルファ性揃いだからというのが一番大きい。
(訓練兵団のときはベータ性ばっかりだったからなあ……)
 というか、アルファ性だったのは同期ではミカサだけだったのだ。
 つまり簡単に言ってしまえば、今のリヴァイ班の面子の中で唯一のベータ性であるエレンは明らかに見劣りするわけで、プライドがチクチクと刺激されるというわけだ。
 それはもちろん巨人化するエレン自身の面倒を見るために強者が揃えられるのは仕方ないというのは重々承知している。
 しかしそれでも今のこの状況は、今までベータ性の集団の中で中心的役割を担っていたエレンとしては何とも歯がゆいようなむず痒いような状況なのだ。

戻る