アイル

ベータなエレンの叶わぬ初恋-4(R18)

「……ん、ぅ」
 エレンは嗅ぎなれない甘い香りが鼻先をかすめた少し後、自身の胸元から首筋にかけて濡れた何かが這うむず痒い感覚に唐突に意識が浮上するのを感じた。
 薄っすらと目を開くと部屋の中は真っ暗で雨音以外の物音がしない。ということは今は夜中なのだろう。
(たしか……医者の人が帰ったあとに兵長と少しだけ話して……)
 その後の記憶がさっぱり無いということは、そのあたりで寝てしまったらしい。
 オメガ性の人間が飲む発情促進剤とやらのおかげでいきなり昏倒してしまったとはいえ、身体の方はピンピンしていたのでベッドに缶詰状態なんて冗談じゃないと思っていたのにこの有様とは情けない。
 少しへこむが、ほんの数週間の間に目まぐるしく環境が変わったので自分自身でも気が付かないうちに疲れがたまっていたのかもしれないとも思う。
 なんてことを寝ぼけた頭で天井を眺めながら考えていると、視界の下方に黒い影がゆっくりと横切るのとほぼ同時に、首筋を再び何かが這う感覚にエレンは一気に意識が覚醒した。
「ひゃ、っあ!?だっ、だれ――むぐっ!?」
「おい……夜中に騒ぐな。」
 思わず漏れてしまった恥ずかしい声を誤魔化すように声を上げようとしたが、口元をタイミングよく塞がれてしまって。さすがのエレンも雲行きが怪しい状況に身の危機を感じはじめたところで、少し掠れた聞き覚えのある声が耳元で囁かれたのにエレンは目を見開いた。
 この声は――同じ部屋にいるはずのリヴァイだ。
 それなら大丈夫かと肩の力を抜きかけるが、冷静になって考えてみるとどう考えてもこの状況は明らかにおかしい。
 エレンはベッドの中にいて、そしてリヴァイが目の前にいてエレンの口を塞いでいる。
 ということはどう考えても二人して同じベッドで寝ている状況だが、生憎二人とも添い寝をするような年齢でも無ければそういう関係でも無い。
 それならリヴァイが寝惚けていてエレンを他の誰かと勘違いしているのだろうかと思う。
 しかし口を塞がれたままではそれを指摘することも出来ないので、とりあえず手を外して欲しいとリヴァイにアピールするとリヴァイは案外すんなりと口から手を外してくれた。
 それにエレンはホッとしつつ、頬をポリポリと掻きつつ口を開いた。
「あの……兵長。オレ、エレンですよ?」
「何言ってんだお前。」
「え?いや、兵長がオレのこと他の誰かと勘違いしているんじゃないかと――」
「は?お前まだ寝惚けてんのか?」
「あ……あれ?昼間の連中が高級娼館で兵長見かけたって言っていたので……だからそちら関係の方とオレを勘違いしたと……思ったんですけど……」
 エレンとしては至極真面目に言ったつもりだったのだが、思いきりため息を吐かれて喋っているうちにだんだんと恥ずかしくなってくる。
 おかげで語尾はかなり弱めだ。
「はぁ……。まあたしかに娼館にはたまに出入りしているが、あれはただの貴族連中との付き合いだ。元々、俺はああいうところは好かない。」
「は、はぁ……そうなんですか?」
 確かにリヴァイは娼館やそういった類の物とは縁遠いイメージがあるので納得しかけるが、よくよく考えてみるとリヴァイも男でさらにアルファ性だ。
 アルファ性は、放っておいても色々な人間が寄って来るので性に奔放な人間が多いというのは有名な話しだよなぁ……なんてことを思い出しつつチラリとリヴァイの顔を見ると、リヴァイはそんなエレンの心情を読んだかのように眉間に皺を寄せた。
「お前な……俺がアルファだからって一括りで人のこと変態扱いしてんじゃねぇよ。ああいう場所はそこら辺に野郎の精液が落ちてそうで俺は好かねぇってだけだ。」
「な、なるほど。」
 何ともリヴァイらしい答えにエレンは妙に納得する。
 しかしそれと同時に、目の前の相手がエレンであるとちゃんと認識していたのなら何故こんなことになっているのだろうとも思うのだ。
 エレンは目線を下に向けて自身の状態を確認してみると、シャツが胸元までまくり上げられていて、ついでにズボンも下着も履いていない。
 どう見てもセックスとか言われる行為の途中みたいな状態になっているのをエレンは今更のように認識して、途端に目線がウロウロと泳ぎ出す。
「……一応言っておくが、迫って来たのはお前からだからな。ここは俺のベッドで、お前のはあっちだ。」
「は、え?」
 リヴァイの指摘に顔を左側に傾けてみると確かにそこに掛布団が乱れた状態のベッドがあり、それは位置的にもエレンの寝ていたベッドで間違い無い。
「えーっと……あれ?」
 寝相が悪いというのはアルミンに何度か言われたことはあるが、さすがに他人のベッドに無断で入り込んで人を襲ったという類のことは言われたことは無い。
 ただ一つだけこの状況に関係しそうなことと言えば……最近は何かと忙しかったのもあって全く抜いていなかったということくらいだろうか。
 そしてエレンは頭がパニック状態になっていたのも相まりついそのことを口に出して謝罪すると、リヴァイに極めて冷静な顔でそれは関係無いだろと言われてエレンは憤死したい気分になった。
 しかしリヴァイは関係無いと断言した割には性欲処理なぁ……なんて復唱しながら思案気な顔をしているのでますますいたたまれない。
「兵長……それ連呼するの止めましょうよ……」
「……ああ、いや。少し考えていたが、お前の性欲処理が原因というより……むしろさっき無理矢理飲まされた発情促進剤が原因だろうなと思ってな。」
「え?」
「医者が、あの薬のせいで一部のベータに発情期が現れるって言ってただろ。多分お前はあの薬のせいで発情期になって無意識に盛ったんじゃないのか。
 ……それに、さっきからお前からオメガが発情してるときのフェロモンと似た匂いがプンプンするしな。」
「うっ、あ」
 リヴァイはエレンの首筋に鼻先を寄せると、そこから香っているらしいフェロモンの匂いを確認するようにクンと鼻を鳴らす。
(発情って……?)
 エレン自身ではよく分からないが、アルファ性のリヴァイが発情していると言うのなら、そうなのだろうか。
「あ、あれ!?でも兵長、さっき医者の人に抑制剤もらって飲んだんじゃ……!?」
「オレは元々オメガの発情期の臭いは好みじゃねぇからな。問題無いと思って飲んでねぇよ。だが……お前のはそんなに悪くないな。」
「へっ!?」
 そう言うとリヴァイは身をさらに乗り出すようにしてエレンの首筋をペロリと舐め上げるのだ。
 問題無いといいつつ人の首筋にちょっかいを出しているのは一体何故、とエレンは心の中で猛烈に突っ込むが、リヴァイが密着してくればくるほど先ほどからほのかにリヴァイから香っている甘い香りがさらに強くなって、ムズムズとした感覚がエレンの身体の中心に走るので下半身的な意味で危ないと慌てて顔をそむける。
(そういえば……アルファもフェロモンとかいうやつを発してるんだっけ。それが人を惹きつけるんだって聞いたような。でも少ない量だから普通のベータには分からないんだって……)
 ということは今現在エレンが感じている甘い香りは、リヴァイのフェロモンの香りなのだろうか。
 エレンはベータ性なので、オメガ性やアルファ性のそれと比べたら嗅覚の感度はかなり低い。したがって今までフェロモンの匂いなんて一度も感じた事は無い。
 しかし今はリヴァイからフェロモンと思しき甘い香りを感じていて、それを今感じることが出来ているのはエレンが発情状態になって嗅覚の感度が上がっているせいだとすれば全ての説明がつく。
(――不味い、な。)
 だとすると、リヴァイのフェロモンの香りを嗅ぎ続けたら不味いだろうというのは知識の乏しいエレンでも分かる。
 というか、既にその香りの虜になりつつあるのに慌てて顔をリヴァイから背けたエレンの判断は間違えてはいないのだが、そういう格好をするとリヴァイに対してうなじを差し出すような格好にもなるわけで。
 オメガの場合はうなじを噛んだ相手がつがいになるので自ら進んでその場所を晒すなんて馬鹿な真似は絶対にしないが、これはこれで無防備な感じで悪くないとリヴァイは内心でほくそ笑むと、何度もうなじ付近に鼻を寄せて舌でベロベロとそこを舐め回す。
 しかしそんなことを何度も繰り返しているうちにだんだん抑えが効かなくなってきて、気が付いたときにはリヴァイはエレンのそこに思いきり噛み付いていた。
「い゛、あっ!?ちょっ、いた……っ、ぁ、う!」
「その感じだと……痛いだけじゃないだろ」
「まっ――ぁ、ああっ……ひ、」
 ほらとでも言うように膝頭で陰茎全体をグニグニと圧迫するように刺激されて、しかもその最中もうなじを舐めたり甘噛みしたりを繰り返されるのでエレンとしてはたまったものじゃない。
 おかげで頑張って上げた静止の言葉も途中で嬌声に変わってしまうという恥ずかしい有様だ。
 性欲旺盛な青少年が図らずも禁欲生活を送ってしまったせいで、ソコは限界ギリギリまで膨れ上がってしまっているのが見るまでもなく分かる。
「エレン……今なら俺もまだ止められるが、どうする?嫌なら嫌ってはっきり言えよ。」
 そんなの、ここまできて今更止められるはず無いなんてリヴァイだって同じ男なら分かっているくせに意地悪だ。
 そう思いながら目の前の相手の顔を見ると、案の定その口は緩やかに弧を描いていて明らかに楽しんでいるのが分かる。
「……ん?どっちだ?」
「ひっ、あ、ああっ、ん!」
 駄目押しとでもいうように陰茎に膝頭を擦り付けられると、先走りが次から次へと先端から溢れてきて止まらない。
 もう目の前にいる相手が自分の上官で、朝になったらまたいつものようにしなければならないのに、とかそんなことは一気にどうでも良くなって。理性が一気に押し流されていくのが分かる。
「へ、いちょぉ……」
 そして一瞬後には、エレンは頭の中を先ほどからグルグルと回っているイきたいという欲求に従うがままにリヴァイの首に腕を巻きつけていた。
「なんだ、本当にしばらく抜いてなかったのか?もうイきそうじゃねぇか。」
「――っ、だから、そういって……っ、ちょ、剥いたらマズ、っ!」
 リヴァイはエレンの陰茎に手を伸ばすと、先端の小さな孔から零れ落ちている先走りを全体に塗り広げるように上下に何度か扱き、直後ズルリと皮を下におろすと亀頭の敏感な粘膜を露出させ、手の平でそこをこすりつけるようにして一気にエレンを追い込む。
 そこは敏感なのでエレン自身直接弄ることはあまりないのだが、リヴァイはそんなのお構い無しだ。
 初めての他人の手で、しかも普段とは全く異なる刺激に先端の孔が物欲し気にヒクリと蠢くと身体の奥底から熱の奔流がドッと溢れてくるのが分かる。
 たまらず本能に従うように腰を突き出すようにして――
 しかしリヴァイはエレンが達しそうになる瞬間を敏感に感じ取ると、先端からパッと手を離してその代わりに陰茎の根元を指で作った輪っかでギュッと締め付けてしまった。
「~~ッッ!!あっ、や、らぁっ!」
「……ん?なんだ、エレン。」
「はっ……ぁ……ね、イきた、から……っ」
 頭の中ではイっていて、しかし実際にはイけていなくて。
 そんな頭と体のちぐはぐな反応をどうにかしたくて、エレンは陰茎を押さえつけているリヴァイの手を本能的に退けようとする。
 しかし中途半端にイっているせいか力が入らなくて、結局はリヴァイの手の表皮をカリカリと掻くだけでまるで効果が無いのに泣きそうだ。
 それならと普段口にしないような言葉まで口にしているのにリヴァイはまるで聞く耳を持つ気は無いどころか、わざとらしくエレンの耳元に囁くようにして普段はあまり呼ばない名前を呼んでくるあたり……確実に確信犯だろう。
「まだ、もうちょっと我慢しろよ。それより……」
「――う、あっ!?」
 そんな調子で塞き止められた状態でますます追い込まれていい加減に泣きそうになっていると、リヴァイは陰茎を塞き止めている手はそのままに、空いている方の手でエレンの両足を胸元までグイと押し上げた。

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