エレンがリヴァイへの恋心を自覚して数日後、エレン達特別作戦班は次の壁外調査に向けての全体演習に参加するべく郊外へと馬でやって来ていた。
もちろん数日にわたる大規模な演習なので外で野営することになり、エレンは設営した数個あるうちの一つのテントの中に入って荷物整理をしたりランプに火を灯したりと細かい作業をしていたのだが、その作業の途中に外から声を掛けられると、テントの入口が開いて中にリヴァイが入ってきた。
「……今日はお前と同じテントだ。」
「本当ですか!?うっ……嬉しいです!!」
エレンにとってリヴァイは好きな相手なので同じテントで寝ると言われてイヤなはずが無い。
むしろ嬉しい気持ちを隠さずにキラキラとした目でリヴァイを見ると、リヴァイはそんなエレンを見ながら顔をしかめるとチッと舌打ちをしてテントの隅っこに自分の荷物を放り投げた。
「確かに同じテントだが……今までも散々言ってる通り、ただの監視だからな。
ったく……てめぇはこの間からどういうつもりだ。」
「えーと……ハンジさんからリヴァイ兵長には自分の感情をストレートに伝えた方が良いとアドバイスを頂いたんですけど……」
不味かったでしょうかと首を傾げながら尋ねるとリヴァイは小声でハンジに悪態を吐きだした。
最近リヴァイと一緒に行動にするようになって分かったことだが、リヴァイはハンジ相手にキレていることが多いものの何だかんだ言って二人は仲が良い。そしてそれは互いに信頼があるからこそだ。
そんな二人の関係がリヴァイに恋をしているエレンとしては羨ましくてたまらないと思うのは、まあ普通の流れだろう。
そしてリヴァイへの恋心を自覚してから数日後、それが羨ましいとついうっかりハンジに口にしてしまったのをきっかけにリヴァイへのアタック方法などについて、ハンジはエレンに色々とアドバイスをしてくれるようになったのだ。
しかしそもそも恋愛経験皆無なエレンが、上手くアドバイス内容を生かせるはずも無く。おかげでリヴァイは毎日のようにエレンの恋の猛追を食らっているのだが、誰だって好きだと言われてイヤな人間はいないだろう。
まあリヴァイに好きだと言い寄っている相手は男な訳だが、調査兵団という特性上男同士のカップルもそんなに珍しいものでは無いし、下世話な話しエレンは見目もそんなに悪くない。というか、良い部類だ。
そんなわけで、リヴァイも怒るのも少々違う気がして放っておいている間にだんだんとその気になってしまったりなんかして……そして今日に至っている。
ちなみにそんな二人を眺めながらハンジはあともうちょっとであの堅物で有名なリヴァイにも春がやって来そうだと、本人が聞いたらブチ切れそうなことを考えながらほくそ笑んでいるというのはここだけの話しだ。
そしてリヴァイがテントの中に入って来てからしばらくすると、外からハンジの声が聞こえて来たのにリヴァイは顔をしかめてエレンは慌てて入口に走り寄ると入口の布をめくった。
「やあやあ、いきなり押しかけちゃって悪いね。ついでだし今のうちにエレンの定期身体検査すましちゃおうと思って来たんだ。」
「あ、そうだったんですか。」
いきなり何かと思ったら、調査兵団に所属後から定期的に行われている身体検査をするつもりらしい。
それなら自分からハンジのテントまで行ったのにと口にすると、散歩がてら来ただけだから気にするなと言われてちょっと申し訳ない。
というか、よくよく考えたら同じテントにはリヴァイもいる訳で、くつろいでいるところに目の前で身体検査をおっぱじめるのは果たして許されるべきことなのだろうかと真剣に悩み始めると、まるでエレンのそんな内心を読んだかのようにリヴァイがさっさとしろと口にしたのにエレンはカッと目を見開いた。
今のリヴァイの発言の内容は、明らかにエレンの考えていた内容を理解していないと出てこないはずだ。ということは、もしかして友人以上の親しい間柄でないと起こらない以心伝心とかいう現象が起きたのではないだろうかとエレンは目を輝かせたのだが、目の前にいるハンジがそんなのに気が付くはずもない。
むしろリヴァイの許可は得たのでこのまま身体検査を進めても問題無かろうと勝手に判断すると、嬉々とした様子で少々呆けているエレンの団服に手をかけてひん剥きだした。
「う、わっ!?ちょっ、ハンジさん!服くらい自分で脱げますからっ――」
「まあまあ」
さすがのエレンもいきなり服を脱がされたのに驚いて静止の声を上げるが、ハンジは巨人が絡むとやや興奮状態になって手が付けられなくなる。
おかげで抵抗も虚しく上着からシャツまで一気に脱がされてしまい、その光景をリヴァイは微妙な顔つきで眺めていたが、リヴァイはエレンの背後にいたのでエレンがそれに気が付くことは無かった。
「――ん、よしよし。とりあえずは変化無しみたいだね。出来ればそのまま巨人化して色々見せて欲しいところだけどそうもいかないし……ってわけで、ズボンの方も脱いでくれないかな。」
「はい?」
ハンジはエレンの腕を折り曲げてみたり聴診器を使って心音を聞いてみたりといつものように医者の診断のようなことを一通り行った後、唐突に顔を上げると真剣な顔をしながらいつも以上の要求をさらりと口にしたのにエレンは思わずポカンと口を開けた。
ズボンまで脱げと言われたのは、確か調査兵団に入団した直後に行われた本格的な身体検査の時以来だろうか。
それ以降はずっと上半身の検査だけだったはずなのだがと思いつつハンジの顔を見ると、エレンに巨人を重ねて見ているせいか、いつもより若干鼻息の荒いハンジが慌てたように言い訳を口にしだした。
「一応言っておくけど、べっ、別に、私の趣味でって訳じゃないからね!半月ごとに全身チェックするように上から言われているだけで……リヴァイもそれ知ってるよねっ!?」
「……まあ、そうだな。」
現在テントの中にいるのは男だけだし、ハンジが焦るほどエレン自身は気にしていた訳では無い。
しかしリヴァイが横から口を出したことで、想い人がすぐそこにいるのに下半身を丸出しにするのかと妙な考えに至ってしまい、ズボンのベルト部分に手を這わせたまま脱ぐのを逡巡してしまうのは年頃の若者ならば仕方が無いことだろう。
そしてそのままどうしたものかとエレンが考えていると、斜め上の方向に気を利かせたハンジがエレンのベルトに手を伸ばして先ほどの上着の時と同じようにひん剥こうして。
しかしやや興奮気味なせいで勢い余ったハンジがエレンに突っ込んでしまい、二人してテントの床に盛大に転がるというお約束のような展開を披露した。
「……お前ら、馬鹿か?エレンもノロノロしてないでさっさとズボンくらい脱げ。」
「ギャッ!?へっ、へいちょっ!?」
床に転がったままハンジとエレンの二人でズボンの攻防戦を繰り広げていると、何を思ったのかリヴァイも参戦してきて。二対一になったらどう考えたってエレンに勝ち目は無いのに絶望していたエレンだったが、リヴァイの参戦を敏感に察したハンジは、意外にもエレンのズボンからサッと手を引くと立ち上がってその場所をリヴァイに明け渡してしまう。
そしてエレンが呆けている間にリヴァイの手がズボンに這わされたところで正気に戻ると、たまったもんじゃないと本気で逃げようとしたものの相手は人類最強と名高いあのリヴァイだ。
リヴァイは手際よくエレンの両足の上に乗っかって逃げられないように固定すると、ズボンのベルトを掴んでいたエレンの両手を力技で払い除ける。さらにあっという間にズボンと下着を一気に引き摺り下ろして下半身を剥きだしにして――
衆目に晒されたエレンの陰茎は自身の意思とは反して勃起してしまっていて、憤死したい気分になったエレンであった。
「ふんふん、生殖器官は以前と変化は無し……と。
あとちゃんと勃起もするんだね。」
「う、うぅ……」
テント内にはハンジの事務的な声――しかしいつもよりも若干上ずっていたので、完全に今の状況を面白がっているのがエレンにも丸分かりだった――と、手元の紙に何やら書きつけている微かな音が聞こえているだけだ。
しかししばらくするとその音も止み、ハンジはご苦労様!と楽しそうな声音で一言だけ礼を口にすると意気揚々とテントから出て行ってしまったのでテント内はあっという間に静まり返ってしまう。
そして中に取り残されたエレンとリヴァイは状況が状況だけに一言も言葉を発することは無く、互いの間には微妙な空気が流れていた。
(何でこんなことに……)
リヴァイへの恋心を自覚してから、悪いとは思いつつも若い身体を持て余して毎日のようにリヴァイの裸などを想像しながら抜いてしまっていたツケがめぐりめぐって出てしまったのだろうか。
いやしかし、エレンは連日のようにリヴァイに好きだと告げていたわけで。
それなのにこんな思わせぶりな格好にまで持ち込んで、下半身の極めて微妙な箇所に手を這わせてきたリヴァイにだって勃起してしまった責任の一端はあるのだと自分に都合よく責任転嫁していると、エレンの腿の上に乗っかったまま動かないでいたリヴァイがスッと腰を上げた。
しかしようやく開放してくれるのかとホッとしたのも束の間。それどころかさらにとんでもないことを口にしだしたのに、エレンは反応することすら出来ず、唯一出来たことといえば口から情けない声を上げたことだけだった。
「ガチガチだな。たまってんのか?」
「えっ!?い、いや……って、ちょっ、なっ、何でオレの扱いて!?」
リヴァイは団服も崩すことなくきちんと着ているので何となく堅そうなイメージがある。
そしてそのせいで一見するとこういった性的なこととは無縁そうな印象だったのだが……まさかの直球すぎる言葉と手の動きに咄嗟に逃げることすら出来ずにこのザマだ。
エレンは小さな声で何でこんなことにとブツブツ呟くものの、リヴァイはリヴァイでこれが対人格闘訓練中だったらお前は不可だなと言い返してくるので、正論すぎる指摘にぐうの音も出ない。
しかしそうやって未練がましく何とかならないかと言っていられたのもそこまでだ。
「――ッ、ぁ、はぅっ!」
精液を出さない限りはおさまらない状態になってしまっている陰茎をいきなり掴まれると、皮をしごくように上下にゆるゆると動かされて。途端に下半身に広がる熱に一気に骨抜きになってしまったエレンは、静止の声を上げることも出来ずにその快感に虜になってしまう。
さらにリヴァイは空いている方の手をエレンの身体の脇について上体に覆いかぶさるような格好になると『まだ皮被ってんだな』とかさり気なく失礼なことを言ってくるのだ。
しかし今のエレンにとってはそれすらも睦言みたいで。
「そこっ、まず……――ッんん、ぅ!!」
亀頭と皮の間に指を突っ込まれて敏感な亀頭の粘膜を指の腹で舐めるように撫でられたりなんかしたらもう限界だ。
エレンは身体の奥底から一気に湧き上がる熱に全身を震わせると、ドクリと白い精液を先端の小さな孔から勢いよく溢れさせて自身の腹の上とリヴァイの手の平を汚してしまった。
「はっ……は、っ……ぅ」
達するまでは自分でも驚くくらいあっという間の出来事だったが、それでも自慰に比べると格段に気持ち良くて。ちょっぴり癖になりそうな快感が少しだけ怖い。
そんなことを考えながら薄っすらとまぶたを開けると珍しく驚いた表情のリヴァイが目に入って、リヴァイにとってはからかい半分での行為だったのだろうかとちらりと思う。でも先ほども言った通りエレンはこれまで散々リヴァイのことを好きだと告げてきたし、リヴァイに触れられようものならこんなことになってしまうのは考えるまでもなく当然のことなのだ。
だから仕方が無いことなのだと思うが、いくらそうやって心の中で言い訳をしたところで恥ずかしさやら気まずさが拭えるはずもなく。
エレンはウロウロと視線を左右に彷徨わせた後、恥ずかしさに顔を赤く染めつつもとりあえず現状についての弁解をしようと決心すると、手をギュッと握って口を開いた。
「う、あっ、オ……オレっ、兵長のことが好きで――ッぐ!?」
「お前ってヤツは……
いいから、バカなこと言ってないでさっさと服着ろ。」
リヴァイはそう言うと脇に放り投げてあったエレンの団服の上着を頭にかぶせてきたので結局エレンは言い訳が一切出来ず、いつもと同じようにリヴァイへの告白を口にすることしか出来なかった。
しかもリヴァイはトイレに行くと言うとテントの外に出て行ってしまって。エレンが慌てて団服を頭から取り除いた時には、リヴァイの姿はテントの中にはなかった。
「……嫌われたかなぁ……」
こんな際どいことが起きでも、リヴァイがエレンに対してどう思っているのかはいまだに全く分からない。
ただ一つ希望があるとすれば、直接的に否定するような言葉をかけられなかったということくらいだろうか。
それからしばらくの間は現状を把握しきれなくてどこかぼんやりとしていたエレンだったが、テントなんて普段の部屋以上にいつ誰が来るか分からない空間だ。だからいつまでも下半身丸出しのままの格好でいる訳にもいかないのだということにハッと気が付くと慌てて身支度を整え、そこでタイミング良くリヴァイがテントの中へと戻って来た。
しかしさすがのエレンもさっきの今で話しかける勇気など有るはずも無く。
そのまま何となく荷物整理やら寝床の準備をしている間に就寝時間を向かえる、リヴァイが寝るぞと声をかけたのでその日は結局ほとんと喋ることも無く寝てしまった。
今まではエレンが粗相をしてリヴァイに蹴りを入れられても何だかんだ言ってリヴァイにしつこくまとわりついていたエレンだったが、さすがに今回ばかりはそうもいかない。
つまりはこういった性的なことにはまだまだ不慣れなエレンなのであった。
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