アイル

腐男子がイケメンスケーターに迫られるはずがない!-6

 さて、話は少し戻るが、ここで一つ話しておかねばならない重要なことがある。
 それはヴィクトルに同人誌が見つかってからというもの、夜寝る前ののんびりとした時間帯に、彼が再び勇利の部屋にやって来るようになったということだ。
 一緒に寝よう攻撃が終わったのにほっとしていただけに、まさかの展開である。
 ちなみに彼は人の部屋に来て何をしているのかというと、ちゃっかりとベッドの上を陣取って例の同人誌を読んでいるのだ。とはいっても日本語は読めないので、ぱらぱらとめくっているのみのようだが。
 まあそれ自体は同士が出来たような気がしてほんのり嬉しくはあるものの……いや、やはりあのヴィクトルが同人誌を読んでいるという事実を受け止めきれない気持ちの方が大きいが。
 ただそんなことよりももっと大きな問題がある。それはここ最近、彼が毎度手にして読んでいるのが、エッチな同人誌ばかりということだ。
 おかげで彼の反応が気になってしまって。暇つぶしに机のイスに腰掛けてスケート雑誌を読んでいても、全く頭の中に入って来ない有様だ。
 そしてそれだけ気にしていれば、人に見られ慣れているヴィクトルであってもその気配が気になるのだろう。自分の隣をポンポンと片手で叩いて声をかけてきた。
「勇利、ずっとこの本のことを見ているけど、そんなに興味があるならこっちに来なよ」
「あ、いや。本に興味がある訳ではなくて……その、すみません」
 なんて具合である。
 勇利的には、一緒に読みたいとかそういう訳ではなくて、あなたがいつも真顔でエロ本を読んでいる状況が気になってたまらないんですというのが本音だ。
 とはいえ、日常系の話だと日本語が読めないと意味が全く分からないだろうし、彼の気持ちは分からないでもないが。
 それならとエロの次に分かりやすそうなヴィクトルとユリオのギャグ本をダンボールの上側に、エロ本は下側に移動し、さりげなく彼の興味をそちらに移そうとしたりもした。
「―なのに、なんで毎回ご丁寧に、ヴィクトルと僕のエロ本を堂々と一番上に置いていくのかな。これ、嫌がらせだよな。そうだよね」
 ヴィクトルが同人誌を片付けて帰っていった後、押し入れを開けてダンボールの中を確認すると、毎回毎回これなのである。それに気付いてガックリとうなだれると、懲りずに同人誌をオススメのギャグ本を先頭に並べ直しはじめながら、力なく息を吐いた。
 確かに彼は、ヴィクトルと勇利の本が一番好きと最初に口にしていた。だから最初は、単純に好きだから毎回読んでいるのかなと思っていた。でも片手以上それが続くと、嫌がらせ以外の何物でもない。
 そしてこうなると、もう根比べだ。変なところで負けん気を刺激された勇利は、屈するものかと若干妬けになりつつ、それからもヴィクトルが来るたびにエロ本を箱の一番下まで移動させていた。
 そして二人はそんなくだらない攻防戦を、ユリオがやって来てからも水面下で毎日のように繰り広げていた。

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