アイル

氷上のプリンスは子豚ちゃんの全てが欲しい-1(R18)

 温泉オンアイスを終え、勇利が無事に勝利を手にしたことでヴィクトルは勇利の正式なコーチとなる。それからユリオがロシアに帰国し、二人はグランプリシリーズに向けて本格的な練習を開始した。
 これだけ聞くと、順風満帆に見えるかもしれない。しかし私生活においては、決してそうとは言えなかった。
「もう……ヴィクトル、いい加減にしてってば! 中に出すのは、もう止めてって言ったじゃないかっ」
「気持ち良いから……つい。勇利、ごめんね?」
 というのも、セックスの後は毎度これなのだ。
 目の前の男は、愁傷な表情を浮かべながら素直に謝っている。そして今までそれに絆され、今度からスキンを付けてねと言って終わるのだが。一体今まで何度このやりとりを繰り返したのやらだ。
 勇利はそれを思い起こしながら上体を起こすと、自身の尻の孔からブチュリと小さな破裂音を響かせながら大量の白い液体が溢れ出してきて。そしてその様子をヴィクトルはキラキラとした眼差しで見つめながら、嬉々とした表情で三回も中に出しちゃったからちゃんとかき出さないとねと口にしているのである。
 無論その表情からは、先ほどまでの反省した様子は微塵も感じられない。
「――――決めた。ヴィクトルとエッチするのは一週間に一度までにする。そうだな……翌日が休みの、土曜日なら僕の身体も大分楽かな。それと当然だけど、スキンを付けていない場合は絶対しないから」
「えっ」
 勇利は貼り付けたような笑みを口元に浮かべながら、一息にそう口にする。それから、いきなりの一方的な宣言に呆けた表情をしているヴィクトルの肩を押しのけ、ベッドから立ち上がった。
 当然尻の孔から腿まで精液が垂れてきたので、ベッドの上に放ってあったティッシュケースから数枚抜き取って事務的にそれを拭う。そして脱がされてそこら辺に放られていたパジャマ代わりのジャージを拾い上げて身につけると、ややもたつきながら家族用の風呂場へと向かった。



 とはいえ、相手はあのヴィクトルである。おとなしく勇利の言うことなど聞くはずもないだろう。
 それからはむしろ暇さえあれば抱きついてきては、思わせぶりに腰を撫でながら耳元に息を吹きかけてきたりと、明らかにスキンシップの度合いが日に日に激しくなる。そして当然毎夜のように勇利の部屋に来襲してきたのは言うまでもないだろう。
 しかし彼を部屋の中に入れたらどうなるのかは、火を見るよりも明らかだ。したがって勇利は、彼を自室に入れることは決してしなかった。
 ちなみに週の半ばを過ぎた頃合いになると、泣き落としにかかってきて相当良心が痛んだものだ。だがここで流されては元の木阿弥であると、勇利は心を鬼にして彼を何とか追い返す。
 そしてこれらの一連の対応で、ヴィクトルは勇利の本気度をようやく悟って諦めたのだろう。それからは、彼が勇利の部屋まで襲撃してくることは無くなった。
 というわけで勇利はヴィクトルと恋人関係になってから初めて、静かな夜の時間を数日もの間手に入れることが出来た。

ACT2

「そのはず、だったんだけどな……はあ」
 ヴィクトルにセックスお預け宣言をしてからきっかり一週間経過した翌週土曜日の夜。
 勇利は夕飯を食べた後、ヴィクトルが酒を取りに行っている間に、居間の座卓に頬をぴっとりとくっ付けてグルグルと考えごとをしながら力なくため息を吐いた。
 この一週間は、本当に最悪だった。
 連日のセックス漬けの日々が嘘のように、ヴィクトルとはそういう性的な接触は何も無い。だから身体は十分に休まり、気力も十分に満ちているはずなのに……でも常に、心の片隅にもやもやとした感情が渦巻いているのである。
 おかげでこの一週間は練習にまるで身が入らず、その代わりに気になるのはヴィクトルのことばかりなのだ。おかげでヴィクトルには欲求不満? と嬉しそうな表情で突っ込みを入れられるしで本当に散々だった。
 無論、即座に全力で否定したが。むしろその全力感が、自分でも胡散臭く感じたというかなんというか。
 ともかくこんな有様だったので、はっきり言ってセックスをお預けする前の方がよほど実のある練習時間を過ごしていたのは間違いない。
 ということはだ。今勇利の身体の中で渦巻いている何とも言えないこの感覚は、煩悩ということで。それに今さらながらに気付くと、勇利は再び深い深いため息を吐いた。
 セックスお預け宣言をした当人がこれとは、格好がつかないといったらない。
 でも今日は、あれから一週間経った土曜日なのである。
 だからようやくエッチが出来るんだ――――なんて具合に、いつの間にやら反省がヴィクトルとのセックスへの期待にすり替わってしまうあたり相当だろう。しかし勇利本人はそんな自覚は一切無く、ドキドキと胸を高鳴らせていた。
 そしてそれからしばらくした時のこと。
 頬を付けていた座卓の上にコトリと何かが置かれる音が聞こえてきたのに勇利は顔を上げた。
「随分とまあ大きなため息だこと。ほれ、勇利に荷物届いとったわよ」
「あ、ああ……お母さんか。ありがとう」
 相手がヴィクトルで無かったのに安心したような、残念なような奇妙な感覚が胸の内に広がる。
 それに少しばかり戸惑っていると、母親はそれじゃあ渡したからねと言ってさっさと居間を出ていく。そしてそれと入れ替わりに、今度は本物のヴィクトルが部屋の中に入ってくると、勇利に勢いよく抱きついてきた。
「うう……ゆうりぃ~!」
「う、わっ! ヴィクトル!?」
 ヴィクトルはめそめそと半べそをかきながら勇利の胸元に顔を埋め込むような格好でしがみついている。
 何となくそれが不憫で頭を撫でてやると、それで調子に乗ったのか。ますます盛大な泣き声を上げはじめてちょっとうるさい。
 したがって静かにしてと、毎度の如くやや塩っぽい対応に思わずシフトチェンジをすると、ヴィクトルは勇利の胸元にグリグリと額を押し付けてくる。そしてこんなに俺が悲しんでいるのに慰めてくれないなんてと騒ぎ始めて、正直ちょっぴり面倒くさい。
 でも何だかんだと言いつつ、それが満更でもないのも事実で。間近にある綺麗な銀糸に、無意識に指を通しながらどうしたのと尋ねると、ヴィクトルはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに勢いよくガバリと顔を上げた。
「うう……聞いて、勇利! パーパが、お酒をくれなかったんだ。たまには休肝日を作らないと、身体に良くないって」
「ああ……なるほど。確かにヴィクトル、飲み過ぎだもんなあ」
「パーパと勇利、そっくりだ」
「そっくり? そうかな」
 むしろ勇利の場合は母親の方に似ていると言われることの方が多い。だから思わず首を傾げると、勇利もセックスを週に一回しかさせてくれなくなったと口を尖らせながら再びめそめそと泣き出したのに慌ててその口を覆う。
 英語とはいえ、ヴィクトルは放っておくととんでもないことを色々と言い出すのでたまったものではない。
 だから頼むからそういうことはこういう場所で言わないでと必死な形相で頼みこむと、渋々といった様子で頷いてくれる。しかしその一瞬後には、彼の口を塞いでいる手の平をペロリと舐め上げてくるのだ。
 ――――まったく。本当に油断も隙もあったものではない。
 もちろん常であれば、こんな場所でなんてことをするのだと文句の言葉を即座に口にしていただろう。しかし今日は、直前に内なる煩悩を自覚していたのが不味かった。
 おかげで瞬間的に顔を真っ赤に染めてしまうと、ヴィクトルは目を細めてしてやったりという表情を浮かべながら、勇利の指と指の間の皮膚の薄い部分を舌先でゆっくりと辿ってくる。
「ちょっ、それ……っ、やめっ」
「そう? 俺には、気持ちよさそうに見えるんだけどな」
 そう口にすると今度は唇を寄せてきて、そこを食みながら軽く吸うのだ。
 その瞬間首の後ろ辺りに熱が集まり、身体の奥がズクリと疼く感覚が走る。たぶん、今立っていたら腰が抜けていたに違いない。
 しかし幸いにして座っている格好なので上体から力がふっと抜けるだけで済むと、慌てて背中を丸める格好になりながらヴィクトルの唇から己の手を取り戻す。
 それからなんとなく周辺に漂っている甘い空気を振り払うように、そういえば荷物が届いたんだとその場にそぐわぬ早口で口にした。
「ふふ……荷物か。勇利宛に届いたの?」
「う、うん」
 小さく笑い声を漏らされたところから察するに、彼には勇利の心の内なんてバレバレなのだろう。
 しかし気付かぬフリをしてこくこくと頷くと、座卓の上に乗せていた箱を膝の上に乗せる。そして宛名も一切確認せずにバリバリとテープを剥がしたのだが。後になって思い返してみると、その行動は迂闊としか言いようがなかった。
「えっと……なにこれ」
 箱の中から現れたのは、手の平より一回りほど大きなピンク色の箱だった。
 しかもパッケージの前面に色っぽい女の子のイラストが描かれており、日本語で『カリを直撃! リアルな質感を徹底的に追求した、安心安全の日本製オナホール!』とでかでかと書かれていたのに、勇利は完全に思考回路を停止させた。
「それ、俺からのプレゼントだよ」
 目の前でヴィクトルが柔らかな笑みを浮かべながら、勇利の顔を覗き込んできている。
 その表情は視界の隅に映っているオナホールとは縁遠そうなものなのに。でも実際にこの卑猥な物体を通販したのは、先の発言から察するにヴィクトルで間違いない。
 しかしこのオナホールを購入するに際し、勇利はフォームに記入して欲しいと一切頼まれていないのだ。
「な、なんで……ここの住所とか、名前とか、どうやって」
「前回、通販フォームに記入してもらった時のデータを登録しておいたから」
「あ、ああ」
 ――なるほど、そういうことかという感じだ。
 ただ前回の通販という言葉をきっかけに、ヴィクトルが以前は前立腺マッサージ器具やらコンドームやらを通販していたのを思い出す。そして今回は、ある意味それよりも衝撃的な物だ。
 それを目の前に座っている美しい人が購入したのだと思うと……ともかく現実は非情としか言いようがない。
 おかげで勇利は完全に放心状態になり、そのままの格好で固まっていると、ヴィクトルに手に持っていた箱を取り上げられて。さらに手首を掴まれて立ち上がるように促されると、半ば強制的に彼の部屋へ連行されるのであった。

 それから勇利は、ヴィクトルの部屋に置いてある大きなベッドの上に誘導されると、呆けているのをこれ幸いとさっさと眼鏡を取り上げられ、下肢も裸に剥かれてしまう。
 そして着ていたワイシャツのボタンを外され、露になった胸元をジュッと吸い上げられ――
「はっ、ぁ……う、えっ!?」
 そこでようやく己の置かれている状況を理解すると、きょろきょろと辺りを見渡しながらちょっと待ってと声をあげた。
「ヴィクトル! そんな、いきなりはっ」
「ん……いいじゃないか。勇利は一週間に一度、土曜日だけオーケーって言ったよね。今日はその約束の土曜日だよ」
 まさかあの約束ってウソだったの? と小首を傾げながら笑みを浮かべているが、やや目が据わっているので少しばかり怖い。それに違う違うと首を振りながら、そういうことじゃなくて自分の部屋の方が良いと口にした。
「ほら、ヴィクトルの部屋だと扉が障子――えーと、紙で出来た簡単なドアだし。だから音が廊下に丸聞こえになっちゃって恥ずかしいから……出来れば、僕の部屋の方が良いなぁなんて」
「そうかもしれないけど、勇利の家族がここまで来ることなんてほとんど無いじゃないか。それに勇利の部屋の扉はいきなり開けられることがあるけど、俺の部屋のドアをいきなり開けるのは勇利だけだ」
「うぐっ」
 それについては何も言い返せない。だからそのままもごもごと言い淀んでいると身体を引き寄せられ、彼と向かい合う格好で腿の上に座らされる。いわゆる対面座位の格好だ。
 それから彼はベッドの上に放ってあった例のオナホールの箱を取り上げると、その中身を取り出す。そして柔らかそうな薄いピンク色のその物体を顔の横に翳してみせた。
「今日はね、勇利の童貞を奪おうと思って。だからこれを買ったんだ」
「ヒッ……!」
 ヴィクトルがその台詞を口にした時の絵面の破壊力のすさまじさたるや、言葉では言い表せないほどのものがある。
 思えば以前に童貞も欲しいとか訳の分からないことを口にしていたのを今さらのように思い出すが、まさか本当にこんな形でそれを実行に移すとは夢にも思わなかった。というか、何故このタイミングでという感じだ。
 したがって目を白黒とさせながら、やっとの思いで何故と口にすると、ヴィクトルは器用に片目をつぶってみせながら、単純なことさと口にした。
「勇利との約束で、セックスは一週間に一度ってことになったからね。それなら出来るだけ濃いものにしないと、もったいないだろう? だから前々からやりたいと思っていたことを一つずつ、全部やっていこうと思ったんだ。――というわけで手始めに、勇利のバージンをもらおうかなって」
 さらには耳元に唇を寄せてくると、勇利の初めては全部俺が欲しいからねと吐息混じりの声で色っぽく口にする。しかしオナホールを使ったところで、それが脱童貞になるのだと目の前の男は本気で思っているのだろうか。
 いや、対勇利に関しては本気でそう考えていそうだ。嬉しいような、悲しいような複雑な心境である。
 おかげで先ほどまで胸の内に抱いていた、久しぶりにヴィクトルとセックスが出来るというドキドキとした熱はどこへやらだ。
 大事にされているのか、馬鹿にされているのか。ここまで来るとよく分からないなと思いつつげんなりとした気分になっていると、目の前の男はオナホールに空いている穴にズボリと人差し指を突っ込んで、ワーオと口にしている。それから中を探りながら、ヒダとか突起があるよと一々嬉しそうに報告してくるのである。
 そして首を傾げながら勇利の方へ向くと、これってこの穴に挿入するってことだよね? と口にしながら、穴に突っ込んでいる指を前後に動かしたのに、勇利は思わず頭を抱えた。
「ヴィクトル……使ったこともないのに、そんな物買ったの?」
「うん。でもランキング一位のホールを買ったから、勇利も気持ち良くなれると思う」
「いや、別にそういうのはどうでも良いんだけど」
 ただやっぱりヴィクトルはこういう物に世話になる必要が無い人生を送ってきたのだなあという感じだ。
 というかむしろ自身の右手に世話になったことすら無さそうだよなと、現実逃避がてらぼんやりと考えていると頬に手を添えられる。
「勇利は、こういうのを使ったことがあるの?」
「いや。生憎と、そこまでは無いけど」
「よかった。じゃあ本当にバージンなんだ」
 ヴィクトルは嬉しいなと言いながら綺麗な笑みを浮かべているが、さっきから何気なくバージンという単語を連呼していて正直しんどい。恐らく無意識だろうとは思うのだが。
 ただ日本だとバージンという単語の意味するところは、童貞というよりも処女という意味合いが大きいので、心的ダメージが大きいというか。事実、勇利はヴィクトルに尻の孔を掘られているので余計に辛い。
 でもそれでも立派な男であることに変わりないわけで。
 したがって渋い表情をしていると、オナホールのパッケージを目の前に差し出され、日本語で書かれている使用方法を教えてくれと言ってきたのに深々とため息を吐いた。
 でも何だかんだと言いつつ勇利も成人男性で性欲旺盛な年頃のため、この手のものに興味が無いこともない。
 そんなわけで素直にそれを受け取ると、興味が無いフリを装いながらも熱心に説明文を読んでいるあたり、ヴィクトルのことをどうこう言える立場には無かった。

「使用方法はさっき言った通り、穴の中にローションを入れろってだけだよ。あとはジョークグッズっていうのと……それ以外は『繊細なヒダが絡みつくとか、カリ首に直撃とか』――ってここら辺は、完全に宣伝文句だし。訳す必要性を全く感じないんだけど」
「ああ、勇利! 日本語を間に混ぜたら全く分からないよ。勇利の初めてなんだから、一番気持ち良いものにしたいんだ。それにおかしなことをしてしまって、勇利のカワイイ場所に万が一、なんてことがあったら困るし。だからきちんと全部訳して欲しいな。そうじゃないと、明日もセックスしちゃうよ?」
「またそういう横暴なことを……」
 しかしこういうことに関しては、彼は本当に実行するのは身を持って経験済みだ。だからはいはいと毎度のごとく流すことが出来ないのが辛いところである。
 そしてなんやかんやと最終的にはヴィクトルに押し切られると、勇利はパッケージの恥ずかしい煽り文句を隅から隅まで英語に訳させられるという苦行を強いられていた。
 しかも彼は、そういった言葉を口にするたびに、カリが気持ち良いんだってなんて言いながら、剥き出しになっている勇利の陰茎の該当の箇所を指先で思わせぶりに辿ってくるのだ。
 おかげで全ての説明を終える頃には勇利の陰茎は完全に勃起し、先走りを零すまでになってしまっていた。
「ふーん、こういうのって親切にローションのミニボトルまで付けてくれているのか。それでそのローションを、このホールの穴の中に入れて滑りを良くするんだっけ? 普通にセックスするのと全く一緒だね」
「だから……さっきから何回もそう言ってるじゃないか、っ」
 挙げ句のこの言葉である。果たして勇利が一生懸命訳した先の卑猥な単語群は何だったのだという感じだ。
 しかもヴィクトルは勇利が説明をし終えると、用は済んだとばかりに付属の箱をゴミ箱の中に放っていて。その行動から、勇利に恥ずかしい単語を言わせるのがヴィクトルの目的だったのではないかと感じるのは、気のせいでは無いだろう。そしてそれに今更気付いてもどうしようもない。
 それにショックを受けて両手で顔を覆いながら酷いとめそめそと泣き言を零していると、ヴィクトルはかわいかったよと頬ずりをしてきて。
 単純にもそれに少しばかり流されて顔を覆っていた手のひらをおずおずと外すと、その隙間から口付けを落とされた。

 ヴィクトルからのキスは、チュと軽い音を立ててすぐに離れていってしまう。しかし自業自得とはいえ一週間もお預けをくらい、さらにその状態で陰茎を勃起させられている勇利が、それだけの接触で満足出来るはずもないだろう。
 だから思わず、離れていくヴィクトルの唇を追いかけて上唇と下唇の狭間を舌先でヌルリと辿る。
「ん……ゆうり、今日は随分と積極的だね。一週間もセックス禁止って言われてショックだったけど、これはこれで……悪くないかな」
「は、っ……う、ん」
 ヴィクトルが小さく笑いを滲ませながら何か言っているのが聞こえるが、今の勇利にとってはそんなことよりも目の前の快感だ。
 ん、ん、と喉を小さく慣らしながら、いいからキスに集中してと言うように彼の舌に自分の舌を絡ませると、分かった分かったというように、後頭部に回された手に撫でられて。その対応は、まるで小さい子をあやしているかのようなものだ。
 ――僕の方は、もうこんなに余裕が無いのに。
 経験値の差を見せつけられているみたいで面白くないのに、それならとヴィクトルの下肢にズボンの上から手を這わせてみる。すると思ったよりもそこは張りつめており、何だ同じじゃないかと少しばかり溜飲が下がった。
 そしてそれについうっかりときゅんときてしまって。
 思わず調子に乗って竿を握りこむようにグニグニと刺激を加えてみると、ヴィクトルは小さく喉を鳴らしながら唇同士の繋がりを解き、珍しく眉根を寄せて熱い息をはあと吐いた。
「――っ、ん……ちょっと、勇利」
「ヴィクトル、きもちよさそう」
 彼の様子は明らかに常よりも余裕の無いもので、そしてそうしているのは勇利自身なのだ。
 それを自覚したとたんに、ゾクゾクとした熱のようなものが下腹部から身体全体にジワジワと広がっていくのを感じる。でも挿入されている訳でも無いのに身体がこんな風になっても、その熱をどうやって発散すれば良いか全く分からない。
 だからヴィクトルの首筋に唇を寄せてはむはむと甘噛みを繰り返していると、宥めるように背中を撫でられる。
「は、あっ……まいったな。勇利の方からなんて珍しいね。どうしたの? 久しぶりだから今日は我慢出来ない?」
「ん、んん……ヴィクトルぅ」
 自分でもよく分からないのにグリグリと額を彼の胸元に擦りつけると、顎の下をくすぐられ、顔を上げるように促される。
 それに素直に従うと今度はヴィクトルの方から噛みつくように深く口付けられ、口内の気持ち良い場所。歯列の裏側をねっとりと舐め上げ、舌同士を擦り合わせるように絡ませられるとたまらない。
 そしてその口付けの途中で背中をゆったりと撫でていた手のひらがするすると下方に降りてくると、双丘を左右に割り開く。それから露わになった尻の孔の周辺を何度か揉みこんで筋肉を解すように動かされた後、その中心に一本の指を突き立てられた。
「ん……間が空いちゃったし、少しだけ狭くなってるね」
「ふ、あ、ああ」
「――って思ったけど、その様子だと問題無さそうかな」
「う、ん。だいじょうぶ、だから……ねえ」
 ヴィクトルは様子を伺うように、内壁をふにふにと撫でている。その動きは酷く焦れったいもので、たまらず自分から良い場所に当たるように腰をくねらせると、耳元でクスリと小さく笑いを漏らされた。
 でも今はそれすらも興奮の材料だ。
 だからねえ早くと、先ほど勇利が付けた赤い跡が点々と浮かんでいる白い首筋に唇を這わせてちゅうと吸い上げると、それに促されるように二本三本と指を増やされて。
 最終的には四本の指の束で、まるでヴィクトルに陰茎を挿入された時のようにグッグッと前立腺を押し上げられるとたまらない快感だ。
「は、あっ! しょこ、きもちひっ、よぉ……っ!」
「ふふ。そんなに良い? 今日の勇利はすごく素直で嬉しいな」
 前立腺を気まぐれに指の腹でグーッと押し潰すように圧迫されると、腹の奥底からドロリとした熱の塊が急激にせり上がって来るような感じがする。
 ああ……限界はすぐそこだ。
 身体の方もそれが分かっているのだろう。内股がブルブルと震えだして止まらない。
 そして身体の中で出口を求めて荒れ狂いだしたその熱を早くなんとかしたくて、指の束の動きに合わせるように腰を前後にゆるゆると揺り動かしてみる。すると硬く勃起した互いの陰茎同士が不意に触れ合って。
「――ッ! は、うぅ」
 もどかしくて、でも快楽の源に直接触れられたせいだろうか。そこからはっきりとした熱がじわりと広がっていくのを感じる。
 それにつられるように上体を倒すと、ヴィクトルの肩口に顔を埋め込むような格好でぎゅっと抱きついて。それから下肢同士を密着させながら腰で円を描くようにゆるゆると動かすと、敏感な亀頭同士が擦れてはあと熱い息が漏れる。
 前立腺を弄られるのも気持ち良いけれど、前での快楽は、やはり直接的で分かりやすい。
「珍しいな、勇利から。そんなに我慢出来ない?」
「ん、んん」
 今の状況は、はっきり言ってヴィクトルの目の前でオナニーをしているのと大差ない。だから普通だったら絶対にこんなことはしない。
 でも一週間分の熱をためこんで、ただでさえ欲求不満がたまっている勇利には、これを恥ずかしいと思うだけの理性はもはや皆無である。
 下肢から快感が生まれると、胸元にわだかまっていた熱の塊が溶けて全身に広がっていく。そしてそれは、勇利の理性を溶かす毒だ。
 そしてそれにすっかりと飲みこまれた勇利は、ヴィクトルの声に促されるように顔を上げ――すると不意に、前立腺をゴリと抉るように押し上げられたからたまったものではない。
「ひ、ぎっ!? そ、こっ……いいよぉ」
「うん、すごく良さそうだ。でも勇利。前もいいけど、後ろのこの場所を俺ので撫でられたら、すごく気持ち良さそうだと思わない?」
 それに指で届かないもっと奥もと、ひそりと囁くように口にしながら前立腺をゴリゴリと撫でられると、勇利の陰茎の先端からピュピュと白い液体が少量飛ぶ。恐らく、軽くイっているのだろう。
 そしてそんな状況で、ヴィクトルの申し出に否と言えるはずもなく。興奮した面持ちで熱い息を漏らしながら、迷うことなくコクリと頷いていた。

 それから思わせぶりにねっとりと内壁を撫でるようにしながら指の束を引き抜かれて。それにたまらず淫筒をひくつかせているところに、腰を持ち上げられてヴィクトルの陰茎の先端を孔の中心に押しつけられる。
 しかしヴィクトルは、そこでスキンを付けないといけないんだっけと楽しそうに口にしながら、薄いパッケージを差し出してきた。
「はい、スキン。勇利は、俺にこれを付けて欲しいんだよね?」
「ふ、えっ?」
 いきなりすぎて何が何やらだ。
 すぐに挿入してもらえると思ったのに、実際には押しつけられているだけで。しかもスキンを勇利に装着してくれとはこれいかに。
 まあ思えばセックスのたびに中出しをされて大変な目にあっていたので、スキンを付けてくれと彼に毎回言っていた覚えはあるのだが。
 でも恥ずかしながら使用した機会は一度も無いので、装着方法などは良く分からない。それに散々弄られた甲斐もあって緩みきった尻の孔は、歓迎するように押し当てられたヴィクトルの陰茎を食んでいて。亀頭の中程まで恐らく挿っていると思う。
 こんな状況で、スキンを装着するように言ってくるなんてあんまりだ。
 というか正直、そんなものは今さらどうでも良いというか、早く挿入して欲しいというか。そしてそんな胸の内を吐露するように、腰が少しずつ、しかし確実に落ちていってしまうのが分かる。
「あ、ああ……はいって、きたぁっ」
 カリ首の一番太いところにさしかかったのか、尻の孔が大きく拡がるのが分かる。ここさえ飲み込んでしまえば、あとはあっという間だ。
 ――そのはずなのに。
「ああ、駄目じゃないか。生は嫌だって言っていたのは勇利の方だよ?」
「らって、これ――っ、ひうっ!?」
 ヴィクトルは勇利の腰を掴むと、元の位置まで持ち上げる。おかげでせっかくあと少しというところまで挿入されたヴィクトルの凶悪なソレが、ヌプリと卑猥な音を立てながら抜き取られてしまって。
 そのくせ尻の孔の窄まりに先端を押しつけては離してという思わせぶりな動きを繰り返すのだ。
「う、ううっ……それ、やぁっ! もう、はやく」
「それならスキンを付けないと」
 ほらと促すように再びクッと腰を押しつけられると、度重なる刺激によってぽってりと赤く膨らんだ縁部分を巻き込むようにしながら、亀頭が再び内部に侵入してくるのが分かる。
 そこまでされてしまっては、いい加減に限界だ。スキンとか、もうどうでもいい。それよりも早くヴィクトルのその熱い物で、先ほどから疼いている肉壁を思い切り突き上げて欲しくてたまらない。
 そして一度そう考えてしまうともう駄目だ。
 それまで手持ちぶさたに持っていたスキンのパッケージをぽとりとベッドの上に落とすと、それが合図だ。
 勇利は片方の手をヴィクトルの陰茎に、もう片方の手を首に回すと、身体を支えていた両足から少しずつ力を抜いて上体を落としていく。
「あ、ああー……なか、きもち、ひ」
「ん、っ……あーあ。まだスキン付けてないのにいいの? また中に出しちゃうことになるけど」
「いい、からぁっ! はっ、あ……あ、ぁああっ!?」
 ようやく待ち望んでいた刺激を与えられたのに、歓喜に震えるかのように内壁が蠢いているのが分かる。
 そんな状態の内壁を無理矢理割り開くようにヴィクトルのカリ高な陰茎が侵入してきて。一番太い箇所が孔を通りすぎると、そこから先は驚くほど呆気ない。
 挿入されるなりいきなり前立腺を突き上げられた衝撃に、背中を弓なりに反らしながら全身をビクビクと震わせ、自身の陰茎から白い液体を大量にまき散らしてしまう。
「まって、そんな、いきなり――あ、ううーっ」
「ん? 俺は何もしていないんだけど、なっ!」
 つまりは、勇利の自重で前立腺を押し上げていたということだ。
 しかもヴィクトルは、自分が動いたらこうなるんだよと言わんばかりに、下から腰を思い切り突き上げてくるのである。
「か、はっ!?」
 おかげでヴィクトルの太くて長い陰茎が、根元まで一気にズボリと中に挿ってきて。そしてそうなると、最奥の結腸の入り口を先端でこれでもかと言わんばかりに押し上げられ、あまりの衝撃に息をするのもままならない。
 ともかく苦しくてたまらないのに、目の前のヴィクトルの胸元にしがみつきながら、はっはっと浅い息を吐く。でもその状態で腰を回すようにされると、結腸の入り口付近の敏感な内壁と前立腺とを緩やかに刺激され、じんわりと熱が広がってむずむずとする。
 そしてその熱の感覚にほうと息を吐いた時のことだ。
「それじゃあせっかくだし、そろそろ例のホールを使ってみようか」
「う、え? な、なに、いきなり――~~ッッッ!?」
 身体の奥深くからジワジワと広がる快楽の波に目を閉じながら浸っていると、陰茎の先端にふにりと柔らかな物が当たる感覚が走る。それが何か理解する前に、勇利の陰茎は柔らかな物体に包まれて。
 そして気付いた時には喉元を大きく反らしながら声にならない嬌声を上げ、自身の陰茎から透明な液体を大量に漏らしてしまっていた。
「あーあ……勇利、脱童貞なのに射精じゃなくて潮を一杯噴いちゃうなんて、本当にカワイイなあ。でも思えば、さっき射精したばかりだったね。挿入するのは、いきなりすぎたかな」
「は、う、うぅ」
 一体何が起きたのか、正直訳が分からない。ヴィクトルがごめんねと頬に軽く口付けてくれたが、それすらも今の勇利にとっては過ぎた快感だ。
 たまらずいやいやと首を振ると、仕方ないなあといった様子で目を細めながら、宥めるようにポンポンと背中を軽く叩いてくれる。
 おかげで少しばかり落ち着き、しかしそこで己の下肢の状態が気になって目を向けてしまったのが運の尽きだ。
「ひ、いっ!? こ、これは」
 すっかりとその存在を忘れていたが、まさかのまさか。ヴィクトルが購入した件のオナホールが己の陰茎に被さっていたのに、勇利は顔をひきつらせた。
 しかもさらに視線をずらすと、ヴィクトルの下生えが目に入って。それは勇利の会陰部にぴったりと付いているのである。
 そして内心はともかくとして、そんな風に下肢を熱心に見つめていたら、ヴィクトルがその視線に気付かぬはずもないだろう。すごい光景だよねと耳元で囁きながら、ゆさりと腰を揺らしてくるのだ。
 おかげで達した直後で敏感な状態になっている結腸を刺激された勇利はひとたまりもない。
「は……ん、ううっ!」
 一瞬目の前が真っ白に染まる感覚に、たまらずヴィクトルの首筋にしがみつく。しかし彼の責め苦はそこで終わりではない。
 勇利の陰茎を柔らかく包んでいたホールを竿半ばまで抜くと、空洞になった先端部分ををギュッと握りしめる。すると隙間から先ほど勇利が放出した潮と思われる液体が大量に溢れだして。
 さらに間髪入れずに再びホールの中に勇利の陰茎を押し込むと、先ほどまでの感触とはまるで違う。亀頭をギュウギュウと締め上げられ、内部の柔らかなヒダにゾリゾリと舐め上げられる感覚に腰をブルブルと大げさなほどに震わせた。
「――や、あっ! まって、まだっ……イっちゃっ――あ、んんんッ!」
「あれ? 勇利、またイっちゃった? 中の空気抜いたから、締め付けがキツくなったのかな」
 試すようにホールの先部分をギュッと握られると、絡みつく感覚と同時に、強く締め上げられて気持ち良くて死にそうだ。
 しかも強すぎる快楽に身体がヒクつくたびに、根元までズッポリと埋め込まれているヴィクトルの陰茎に結腸と前立腺を刺激されるのである。
 繰り返しこれでもかと言わんばかりに半強制的に与えられる快楽に、もはや口は開きっぱなしで、口の端から零れ落ちる唾液を拭う余裕すら皆無だ。
「も、だめ……えっ」
 自分でもどうして良いか分からないのに、そもそも勇利をこんな羽目に陥らせている張本人であるヴィクトルに抱き付きながら、めそめそと半べそをかきだしてしまう。
 しかしその途中でいきなり掛け布団を頭からかぶせられ、そしてその次の瞬間のことだ。外からちょっといーいと姉の間延びした声が聞こえてきたのに、勇利は全身を固まらせ、大パニック状態に陥った。

「ヴィクトルさあ、温泉もう閉めちゃうけどいい?」
「ああ、真利か。俺はさっき練習後に入ったから問題無いよ」
 ヴィクトルの声だけ聞けば、常と変わらない涼しげなものである。
 しかし実際には、勇利の尻の孔に自身の勃起した陰茎を未だずっぽりと埋め込んでいるのだ。それを微塵も感じさせない剛胆さと図太さは、もはや天晴れとしか言いようが無い。
 しかし勇利の方は、紙一枚隔てた向こう側には姉がいるという有り得ない状況を受け流すほどの図太い神経は生憎と持ち合わせていない。
 というわけで、だからヴィクトルの部屋は嫌だと言ったのにと思いながら恨みがましい目線を目の前の男の方へ向けると、彼は目が合った途端に目を細めながらゆさりと腰を揺さぶってきて本当に最悪だ。
 慌ててヴィクトルの肩に額を乗せて身体を丸めると、両手で口を覆いながらぐうと喉を鳴らして嬌声が漏れるのを何とかこらえる。そういう驚きは本当に必要無い。
 しかもこんな時に限って姉はなかなか立ち去ってくれずに、ところで勇利が見当たらないんだけど知らない? と口にするのである。
「勇利なら、ここにいるよ」
「っ!?」
 まさか、何を言っているのだという感じだ。馬鹿正直に本当のことをばらすなんて、もう本当に勘弁して欲しい。
 勇利の心臓は一瞬止まりかけ、これはたまったものではないと、その場からとりあえず逃げ出そうと後先考えずに腰を上げてしまう。
 しかしそれがもたらす結果は、今さら改めて言うまでもないだろう。
「――ん、ぐっ」
 カリ首が内壁をヌルリと撫で上げる感覚に喉を鳴らしてしまい、目を白黒とさせる。とはいえ両手で口を覆っていたので、辛うじて恥ずかしい声を漏らさずには済んだ。
 ただそれでもおさえきれなかった喉を鳴らす声が聞こえたのだろう。外から「勇利?」と問いかける声が聞こえてきて、物凄い量の冷や汗が噴き出すのが分かる。
(どっ、どう、しよう!?) 
 羞恥心と焦燥感が頭の中でグルグルと回っている。でもそれと同時にやっぱり快楽を感じている自分もいて、正直訳が分からない。
 そしてもうどうすれば良いのか分からず完全にフリーズしていると、背中に回されていた手に力を込められて。それから胸元に倒れ込むような格好で引き寄せられると、安心させるようにぎゅっと抱きしめられた。
「――起きないかなって今つついてみたけど、駄目だね」
「なに、あの子人様の部屋で寝てんの? いい年して何してんだか」
「マッサージをしてあげていたんだけど、気持ちよくて寝ちゃったみたいで。ともかく、勇利もさっき俺と一緒に温泉に入ったから。だから閉めても問題無いよ」
「ん、そう。わかった。じゃあ、邪魔したわね」
「いや」
 それからしばらくして真利の足音が完全に聞こえなくなると、ヴィクトルが勇利の顔を覗きこんでくる。
 そして小さな子どもを叱るように、額同士をコツリと合わせてきた。
「勇利、話している最中でいきなりあんなに大きく動いたら駄目じゃないか」
「だってっ、だからヴィクトルのへや、いやって言ったのに……っ!」
「仕方ないなあ、じゃあ次は勇利の部屋でしようね」
 あんまりな状況に驚きすぎて両目に涙がたまっていたせいか、目元を拭われて頭をよしよしと撫でられる。それに絆されかけるものの、直後、どっちの部屋もなかなかスリリングでいいものだねと口にしているせいで全てが台無しだ。
 それに抗議の声を上げるために唇を開き――しかしその言葉を口にする前に、この話はここで終わりだと言うようにベッドの上に仰向けの格好で押し倒されたせいで、その言葉は嬌声となって零れ落ちる。
「これでもう、ここには誰も来ないよ。久しぶりだし、たくさんたくさん気持ち良くしてあげるからね、ゆうり」
「ん、うっ」
 口角を緩やかに上げ、目を細めた妖艶な表情を浮かべながら、目の前で甘く掠れた声音で名前を囁かれる破壊力はとんでもなくすさまじい。
 それだけできゅんと淫筒の内壁が疼いてしまって。無意識に中のヴィクトルの陰茎を締め上げてしまうと、満足そうな笑みを浮かべながら最奥をゴリと押し上げられる。
 しかもヴィクトルは、自身の陰茎の動きと同じように、勇利の陰茎を挿入しているホールを動かしてくるのだ。
「は、うっ、うううっ! おく、だめぇ、っ――ッ、あ、あぁっ!?」
「俺はこの感触、気持ちよくて大好きなんだけどなあ。でも実はイイの間違いじゃない? 勇利、今またイっちゃったよね。中、きゅうきゅう締め付けてすごいよ」
 ヴィクトルは結腸入り口のコリコリとした感触を楽しんでいるのか、根元まで挿入した状態で腰を押し回してくる。それだけでも一杯一杯なのに。同時にホールまで動かされているので、限界を突破するのなんてあっという間だ。
 ホールの内部にほどこされた凹凸の細工に陰茎をこれでもかと刺激されて。
 さらにはホールの最深部にも何やら細工が施されているのか。最奥まで強制的に挿入させられた状態で押し付けるように回されると、亀頭の先端をコリコリと刺激される感覚が走ってブルブルと大げさなほどに腰が震えるのが止まらない。
 もちろんこんなの、初めての感覚だ。ただただ単純に気持ち良いとしか言いようが無い。
「なに、これ、――っあ! う、ううー」
「はは、すごいな。俺ももっていかれちゃいそうだ」
 そこで挿入されているヴィクトルの存在も忘れるなというように、グッと腰を押しつけられて結腸を押し上げてくるのだ。
 ああ、そうだ。勇利は今まさにヴィクトルにも陰茎を挿入されているのだ。
 陰茎と尻の孔と、奇妙にリンクする感覚にだんだんと何が現実なのか分からなくなってくる。
 さらには上から体重をかけられたせいで結腸の入り口に先端がはまりこみ、少しずつ口を押し拡げられて。その状態でヴィクトルは勇利の頬を撫でながら、でも一番好きなのはココだよと口にするのである。
「この奥でゴリゴリすると、すごく気持ちいいんだ。でもやっぱり、さすがにホールでこの感覚を教えてあげるのは無理だね」
「ほんとに、まって、またイっちゃ――~~ッ、あ、んんんっ!!」
 ホールをこれでもかとグイグイと押しつけられているせいで、己の勃起した陰茎が薄っすらと透けて見える。そしてそのおかげで先端部に成型されている突起物に先の小さな孔をこれでもかと刺激され、たまらず再び潮を大量に噴いてしまう。
 それから達した後の生理現象で全身が弛緩した次の瞬間、ヴィクトルの亀頭がズボリと結腸の入り口にはまりこむ衝撃が走ったのに、反射的に背中を丸めるような格好になりながら目の前の身体にしがみついた。
「ひ、ぎぃっ!?」
 ――もう、だめだ。
 繰り返し強制的に与えられる絶頂に、本当に頭がおかしくなりそうだ。
 だからもう勘弁してと、ふるふると首を振っているのにヴィクトルはまるで容赦無い。一週間分我慢した熱を叩きつけるかのような、まさかのガン堀である。
 結腸にずっぽりと亀頭を埋め込んだ状態で、そこの窄まりでカリ首を扱くようにゴッゴッと腰を打ち付けてきて。さらに気まぐれに陰茎を引き抜いて前立腺をカリ首でまくり上げるようにし、直後、根元まで一気に挿入して再び結腸に穿たれる。
 挙げ句の果てには、ホールの最奥まで挿入した状態の勇利の亀頭部分をギュッと手のひらで握るのである。
 おかげで目の前で、チカチカと星が散っているのが見えだす始末だ。
「もっ……むり、むりぃ……っ!」
「は、ぁっ……ゆうり、っ。ずっとイっちゃってる? 顔がとろとろで、すごく気持ちよさそうだ」
 両頬を愛おしげに両手で挟みこみながら、瞳を覗きこまれる。それからたまらないといった様子で深く口付けられるが、そのためには互いの上体がさらに密着する必要があるわけで。
 つまりはさらに陰茎の挿入が深くなると、有り得ないくらい奥深くまでヴィクトルの凶悪なソレに犯されたから大変だ。
「――ん、ぐぅっ!?」
 そこでついに勇利は頭の中で何かがプツリと切れるのを感じながら、ビクンと大げさなほどに全身を震わせた。
 しかしヴィクトルはそれにも構わないといった様子でズコズコと細かく腰を動かし、一際強く腰を押しつけられた次の瞬間。中に生温い液体が大量に放出される。
 そしてそこで、ついに勇利は意識を暗転させた。

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