アイル

氷上のプリンスは子豚ちゃんの全てが欲しい-2

「ん~……ゆうりぃ」
「ん、うぅ」
 翌朝、勇利は妙に寝苦しいのに呻くような声を漏らしながら意識を浮上させる。するとまず目に入ってきたのが逞しい腕だったのに、身体の動きをピタリと止めた。
 この状況、物凄く既視感がある。
 したがって内心頭を抱えながら恐る恐る後方に顔を向けると、案の定と言うべきか。そこにヴィクトルの綺麗な寝顔があったのにぐうと喉を鳴らした。
(――またか)
 そうとしか言いようがない。
 寝顔だけ見れば、まるで絵画の一部を切り取ったかのような美しさなのに。
 しかし下肢の方はそれとはまるで真逆。両足を絡みつけながら、勃起した陰茎を勇利の双丘の狭間に押しつけてきていて、内なる煩悩が丸出しである。本当に止めて欲しい。
 もちろん最初はそれはもう驚いたもので、一々飛び跳ねては大げさな反応をして、ヴィクトルを喜ばせていたものだ。しかし今はもうそんなことは無い。あまりにも毎回毎回このパターンなので、その対処法も慣れたものである。
 というわけで深い深いため息を吐くと、まずは部屋の中を見渡してマッカチンの姿を探す。そしてそこで見慣れた自室ではなく、ヴィクトルの部屋だと気付くと小さく声を漏らした。
「まいったなあ……マッカチン、気付いてくれるかな」
 勇利の自室でヴィクトルが寝ている時には、マッカチンは大概ベッドのすぐ脇で寝ている。だから手を差し伸べるとすぐに起きてくれて、勇利と入れ替わりでヴィクトルの腕の中におさまってくれるのだ。
 そうするとヴィクトルを起こすことなく、勇利は彼の腕の中から抜け出せる。
 しかしここがヴィクトルの部屋となると、マッカチンの寝床はベッドから大分離れた位置にあるので、呼び寄せるのはなかなかに難儀だろう。
 寝てるだろうしなあと思いつつも、起きてくれないだろうかと願いをこめてマッカチンと小さく声を上げた時のことだ。
「一番に恋人の名前を呼んでくれないなんて、酷いなあ勇利は」
「ぎゃあっ!?」
 肝心なマッカチンではなくヴィクトルの声が背後から聞こえたのに、驚いたなんてものではない。しかもおはようと口にしながらチュッと項に口付けてくるのだ。
 まさかの事態に慌てて起きあがると、勢い余って派手な音を立てながら畳の上に尻餅をついてしまう。そしてその瞬間のことだ。
「朝ご飯出来たから呼びにきたけど、勇利あんた朝から他人様の部屋でなに大騒ぎし、て――」
「まっ、真利姉ちゃんっ!?」
 昨晩に引き続き、まさかの姉の登場である。珍しくいきなり障子を開けたのは、派手な物音と勇利の驚くような声が聞こえたせいだろう。
 しかし真利は言葉途中で口を閉じると、何事も無かったかのように障子をスーッと閉じてしまった。
 彼女がこの状況をどう捉えたのかなんて、この反応を見れば一目瞭然だ。何しろ勇利はパンツ一丁で、ヴィクトルの下肢は辛うじて布団で隠れているものの、上半身は当然裸なのである。
 したがって勇利は大急ぎで障子に駆け寄る――ことは、昨晩ヴィクトルに一週間分の欲求不満をぶつけられたせいで出来なかったので、四つん這いの格好でなんとか向かう。それから廊下に顔を出しながら違うから! と大声で叫んだのだが。
「ゆうり~。そんなことより、おはようのキスをしようよ」
「今それどころじゃないんだってばっ!」
 今回の元凶であるヴィクトルはといえば、相変わらず呑気なものだ。
 それに少しばかり殺意を抱いたせいで、思わずドスを効かせた声で言い返してしまって。しかしすぐに不味いとハッと目を見開きながら、謝罪の言葉を口にしたのだが。
「あー……うん。それ、いいね。そういう勇利も、大好きだよ」
「えっ、あっ! ちょっ、やめ、やめて、っ」
 今のどこら辺がヴィクトルのスイッチを押したのやら。さっぱり訳が分からないが、彼はやや興奮したような面持ちでベッドから立ちあがると、勇利の方へ大股で歩み寄って来る。
 ただし彼はもちろん全裸で、しかも陰茎を勃起させている状態だ。
 もちろんその姿に恐れおののいた勇利は、両手を前に突き出しながら後ずさるものの、すぐに捕まえられてしまう。
 それから濃厚なキスをくらいながら、朝勃ちした陰茎を擦り合わせて一発抜かれるという、朝のわりには濃厚な触れ合いをする羽目に陥るのであった。
 そんな調子だったので、結局勇利の姉にきちんと言い訳をすることが出来るはずもなく。その日の朝食の席が、非情に気まずいものだったのは言うまでもない。
 そしてセックスは一週間に一回という決まり事は、その日を境に一切撤廃されたのであった。

戻る