アイル

叶わないと知りながら、熊は身分違いの恋をした-1(R18)

 勇利のお願いを叶える形で電撃で現役復帰をしたヴィクトルは、ワンシーズンで引退をした。
 その翌年、彼は拠点を日本に移し、勇利の専属コーチとなる。そしてその勇利も二十五歳を迎え、次のシーズンをラストにするつもりでいた。だからこの一年が、勇利にとってはヴィクトルと過ごすことが出来る大事な大事な一年だった。

 その年の六月。ロシアで開催されたアイスショーに招待された勇利は、その打ち上げとして催された立食形式の食事会の席にて、しこたま酒を飲んで見事に出来あがっていた。
 それを見かねたのか。それまでオタベックと談笑していたユリオが呆れた表情をありありと浮かべながら近寄ってくると、勇利が手に持っていたシャンパングラスを取り上げる。そして脇のテーブルにガン! と派手な音を立てながらそれを置いた。
「おいカツ丼、いい加減飲み過ぎだから止めろ。また他人巻き込んで裸でダンスバトルするつもりじゃねえだろうな!?」
 勇利は酔うととにかく始末におえない。それは自分自身でも一応自覚しているので、極力酒を飲み過ぎないようにと自制しているのだが、今日はそんなことを言っていられなかった。
 何故なら――
「だって……だって……今日、ヴィクトルが…………ブリーリングだって言うんだもん!」
 ブリーリング。分かりやすく日本語で表現すると、種付けだ。
 つまりヴィクトルがお金で買われて、現在どこぞの金持ちの女性か男性とセックスをしているのである。
 そして勇利は、根っからのヴィクトルオタクで。彼にコーチになってもらったのをきっかけに、憧れが恋心へと完全に変容してしまった今、それをヴィクトル本人から聞かされ、ヤケ酒をしないでいられるかという心境な訳だ。
 そこまで考えたところで、勇利は両目にジワリと涙が浮かんできてしまったので、両手の手の甲で目元を慌ててぐしぐしと拭った。
 いい年して、人前で泣くなんて恥ずかしい。しかも八歳も年下のユリオの前でだ。
 とはいえ今や彼は、勇利と出会った時に比べるとグンと身長が伸びており、目線を合わせるためには顔を上げなければならない。さらに容姿も端麗で大人びているので、知らない人が見たら勇利の方が年下に見える可能性もある。
 それを思うと月日の流れを感じ、さらにセンチメンタルな気分が湧き上がってきて。おかげでますます悲しい気分に包まれ、絶え間なくぐすぐすと鼻を鳴らしてしまう。
 そしていつものユリオであれば、大体ここら辺りで年上のくせにメソメソしてるんじゃねえ! なんて具合に一突っ込み入れてくるはずなのだが。全く反応が無いのを不思議に思いつつ顔を上げると、意外にも彼の浮かべていた表情が呆けたものだったのに勇利は思わず首を傾げた。
「……あれ? ユリオ、斑類の……猫科の重種のジャガーだよね。なのにブリーリングって知らないの? ていうか斑類って知ってる? 斑類っていうのはね、猿以外の動物から人間に進化した人のことだよ。希少動物の種類によって、重種とか中間種とか軽種とかで分けられてるんだけど、希少種である重種ほど子供が出来辛いんだ。でも重種ほど血統を重んじるから、軽種とは交わるのを嫌う。だからブリーリングみたいな制度を使って、同じ重種とセックスを一杯して子作りして。そうやってお金を払ってでも血を絶やさないようにするんだって。ちなみに僕は熊樫の中間種のツキノワグマ」
 日本だと熊樫の重種っていないから、ちょっとレアなんだよと、酔っ払い特有の間延びした声で教えてあげる。それからほらと頭上にクマの独特の丸っこい耳を出してみせると、ユリオはやや顔を赤らめながら慌てた様子で勇利の頭に両手を乗せてきた。
「人前でそうやってほいほい魂現さらしてんじゃねーよ!」
「ユリオは大げさだなあ。どうせ斑類以外の人には見えないんだから良いじゃないか。完全に熊になったわけでも無いし」
「オレだって好きで言ってない! 大体っ、そうやって魂現さらすのは素っ裸になるのと一緒だって、そこら辺のガキでも知ってることを、もう二十五も過ぎてるくせにいちいち説明させんな!」
「も、や、やめっ、『やめてさ~!』」
 だから酔っ払いは嫌いなんだよと言いながら、耳を隠すように髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
 それが嫌で渋々と頭上に見えていた熊の耳を引っ込めると、彼はようやく満足したのか。荒い鼻息をふんと吐き出してみせた。
「ていうかお前、普段はブタオーラ丸出しだからてっきりブタだと思ってたら熊なんだな。中間種だし、いちいち隠す必要なんてないだろ。なんでそんなコソコソしてんだ?」
「んー……そんな大した理由じゃないんだけど。熊って人型でも力が強い人が多いじゃないか。僕なんて熊になっても一メートルちょいくらいしか無いし、軽種の中でも大型動物とかの人の方が力あると思うんだけどさあ……ともかくそのせいで、軽種の人たちとちょっと話すだけで怖がられることが多くて。それならいっそ、ブタでいいかなって」
「あー……、なるほどな。でもだからって普通、ブタとか選ぶか? もっと、こう、あるだろ。カツ丼が飼ってた犬とか」
「そうなんだけど、それだとかぶっちゃうし。分かりやすく好きな食べ物のカツ丼の具の、ブタでいいかなって」
「おまえ……そういうのマジで適当だよな」
「それについては、自分でも散々思ったことだから。これ以上傷を抉らないで」
 ものすごく可哀想な目で見られて、心臓にグサリと突き刺さる。まさにユリオの言うとおり。おかげでヴィクトルに初対面で子ブタ呼ばわりされるわで、結構傷ついたのもあって余計にだ。
 ただ中学生くらいからずっとブタで通してきたのもあって、今さら変えることも出来ないのが辛いところなのである。
 まあそれはともかくとしてだ。今はそんなことよりもヴィクトルのブリーリングの方が問題なのだということを思い出すと、深い深いため息を吐いた。
「はー……ヴィクトルがブリーリングかぁ……」
「そんなに凹むようなことか? 重種間じゃブリーリングなんてよくあるだろ。ていうか、ちょっと待て。おまえらって付き合ってんじゃねーのか?」
「は? 何言ってるのさ。ヴィクトルって普段は完璧に軽種のウサギ装ってるけど、あれってどう見てもフェイクだし。たぶん、重種の……何だろうなあ、全然分からないけど。ともかく重種が中間種に興味なんてあるわけ無いじゃないか。ていうかそれ以前に僕は軽種のブタのフリしてたから、余計に有り得ないわけだけど」
 重種は何より血統を重んじる。重種は重種同士で番となって子を成すというのが、至上命題なのだ。
 だからブリーリングという特殊なシステムが成り立っており、されには血統を重んじるあまり、男性でも子を成すことが出来る技術まで確率されているほどなのだ。
 したがって重種が中間種どころか、軽種に興味を持つなんて絶対に有り得ない。――ということは自身も重種であるユリオも重々承知なことだろうに。
 いきなり変なことを言うなあと思いながらユリオの顔を見ると、何故か彼も呆れた表情を浮かべていて。一言、お前らってどういう関係なんだよと言われてしまった。
「二人して軽種のフリして、ロシアにいた時は同居までしてベタベタしやがって。紛らわしい真似してんじゃねえ」
「やだなあ。ベタベタって、恥ずかしか~! ……って言いたいところだけど。今それを言われると、ものすごくむなしい。それにヴィクトルって、基本スキンシップ過多気味だし」
「マジでおまえ、面倒くさいのな。そんな一人でウジウジ悩むくらいなら、告白でもなんでもすりゃあいいだろ。減るもんでもなし。ていうか、案外脈有るんじゃねーの?」
「ええ……? 面倒くさいからって適当なこと言ってるでしょ」
「第三者の目線からせっかくアドバイスしてやってんのに、なんだよその態度は」
「――あいたっ!」
 不意に額を人差し指でビシリと弾かれて地味に痛い。そこでチラリと彼の表情を伺うと、眉間にやや皺を寄せた不機嫌そうな表情を浮かべていて。その態度から察するに、どうやら思いつきで口にしたという訳ではないらしい。
 そしてユリオは勇利に比べるとよほど観察眼に優れているというのは、これまでの付き合いから知っていることではあるのだが。
「ユリオはさあ……重種でモテモテだから、告白したらいいなんて簡単に言えるんだよ。ユリオが思ってる以上に重種とその他の種の壁は厚いんだからね? 重種の人に本気で睨まれたりしたら、話しかけるのだって無理なくらいだし。それにふられたらって思うと……そのくらいなら、今の関係のままで良いって思うんだ。そう、思うんだけど……」
「人の意見を聞く気が無いなら、ブリーリングごときでギャーギャー騒ぐなよ。ヴィクトルなら知名度もあるし、今までだって何回かそういうことあったんだろ」
「言われたのは今回が初めてだったから、勝手にそうなんだろうって思ってたんだけど……やっぱり、そうなのかな」
 でも確かに、ユリオの言う通りだ。
 ヴィクトルは勇利と出会うもっとずっと前から、国際大会で輝かしい成績を山ほど残しているのだ。となると、その手の話が山ほどきてもおかしく無いわけで。むしろ初めてと考える方が無理があるだろう。
 おかげでただでさえ低空飛行だった気分が、一気にマイナスまで振り切れるのを感じる。したがってよろよろとその場を離れると、レストランのスタッフから新たにシャンパングラスを受け取り、その中身を一気にあおった。
 後ろの方でユリオがいい加減にしろとか、酔い潰れても介抱してやらないからなと声を荒立てているが、そんなの無視だ。
 というかむしろ今夜はもう、何もかも忘れて酔い潰れたい。だから再びハイペースでグラスを開け始めたのだが、生憎とそこでお開きの声がかけられてしまう。
 それにしょんぼりとしていると、嗅ぎ覚えのある濃厚な甘い香りが漂ってくるのと同時に、いきなり尻に手の平を這わされて。片方の双丘をギュムギュムと揉まれたのに小さく飛び上がった。
「ひゃ、あっ!?」
「はは。相変わらず良い反応だなあ。ところでこれから斑類の男だけ――っていっても、ジュニアの子以外はほとんど皆そうだけど。ともかくその面子でビンゴ大会をしようって話してるんだけど、勇利も来ないかい?」
「ビンゴ大会?」
「そう。優勝した人には、景品として面白い物が手に入るよ」
 どう? と首を傾げられるが、今はビンゴ大会で皆と騒ぐよりも部屋で一人でヤケ酒でもしたい気分だ。
 だから首を横に振ろうとしたのだが、まるでその思考を読んだかのように彼は片眉を上げて。左手を口元に添え、クイと上げてみせた。
「成人のみだけど、お酒も出るよ」
「――行く!」
「ちょっ、おい、クリス! カツ丼が飲み過ぎって分かってんだろ!」
「傷心を癒すには、たまには羽目を外すのも必要なんだよ」
「ああっ、クリス~!」
 さすが大人だ。分かっている。
 それに思わず涙ぐみながらクリスに抱きつくと、おーよしよしと大げさに頭を撫でてくれる。
 その光景に、ユリオは顔を思いきりしかめて。そしてどこからともなく現れたピチットと南が、抱き合う二人を毎度のごとくスマートフォンのカメラで連写していた。



「勇利くん、ビンゴです!!」
 そしてそれから。ホテルのクリスの部屋に移動した勇利達は、クリス主催のビンゴ大会を早速開始した。
 ただし勇利はというと完全に酒の方に夢中になっていたので、ビンゴの方は完全におざなりで。イスではなく床の上にしどけなく座り込みながら、缶ビール片手にヴィクトルの更新されないSNSの画面を延々と眺めていた。
 そんな調子なので、ビンゴカードをめくるのさえ完全に放棄しており、それを南が勝手にやっていたのだが。そうして物欲センサーが全く働いていなかったのが攻を奏したのだろう。
 三十分と少しほど経過したところで、自主的に勇利のビンゴカードをチェックしていた南が、まるで自分のことのようにキラキラと瞳を輝かせながら、勢いよく右手を上げる。
 するとクリスはソファの脇に置いてあった紙袋を取り上げ、勇利の目の前に差し出した。
「おっ、早いな。それじゃあ優勝した勇利には、この景品」
「んあ? でも僕、ビンゴ全然参加してないし、南くんに――」
「気にせんといてください! おいが好きにやったことなので!」
 クリスから渡された景品を、そのまま南に差し出す。しかし南はその気持ちだけで嬉しくてたまらんですと口にしながらぶんぶんと顔を勢いよく振っており、結局受け取ってはくれなくて。
 戸惑いながらも景品の袋を見つめていると、クリスが開けてみなよとウインクしてきたのでその言葉に従う。すると中から両手サイズほどの豪華な木箱が現れ、そのフタの中央に英語で懐蟲とオシャレな筆記体で書かれていたのにポカンと口を開けた。
「まっ、まさかこれは……」
「うん、懐蟲だよ」
 クリスはその顔に満面の笑みを浮かべながら、とんでもない言葉を投下した。

 懐蟲とは、斑類のオスが子どもを作る際の必須アイテムである。手の平サイズほどの筒にセットしてある懐蟲のカプセルを尻の穴に挿入すると、ほんの六時間程度で腸の粘膜に仮腹と呼ばれる子宮を作ってくれるという超便利アイテムだ。
 ちなみに勇利もヴィクトルに好意を抱くオスの斑類なので、少なからず興味を持って懐蟲について色々と調べてみたことがある。ただ得られた結論は、非常に高価な物のため、勇利のような中間種の庶民が手にすることは一生無いだろうなということだけだった。
 ――それがまさか、こうして手にする日が来るとは。人生何が起こるか分からない。
 ちなみにクリス曰く、知り合いの会社社長から何個かサンプルとして貰ったらしい。ただそんなにたくさんは必要無いので、今回の景品にしたそうだが……さすがというべきか。
 重種は基本的にブルジョア階級の人間であることが多く、クリスもその例に漏れず猫科の重種らしいのだが。なるほど、重種のやることはやはりスケールが違うと改めて感じた。

「懐蟲か……まさかこんなものが手に入るとはなあ」
 勇利はビンゴ大会を終えて自室に戻ってくると、ベッドに腰掛けながらさっそく木箱を開けてみる。すると中に入っていたのは、人差し指ほどのサイズのカプセルを先端にセットされた白い筒、洗浄液と書かれた小さなボトル、それに綿棒と、説明書類の入った透明な袋だった。
 すべてがひどく無機質なもので、こんなもので本当に子どもが出来るなんてにわかには信じられないなと思いつつも、説明書を広げてみる。
「えーっと、なになに……付属の綿棒に洗浄液を付けて尻の穴に塗り込め、それから筒を用いてカプセルを奥深くに挿入し、最低六時間放置してください。なおこの洗浄液には催淫作用も含まれるために十分なご注意を――……って、催淫作用」
 つまり俗っぽく言ってしまえば、媚薬といったところか。
 今まで勇利もその手の怪しげなローションなどの商品を目にしたことはあるし、オナニーの時に興味本位でちょっと使ったこともある。ただどれもジョークグッズ扱いだったので、そんな効果などあるはずも無いのは言うまでもないだろう。
 しかし今目の前にあるのは、小市民では到底手に入れることの出来ない、上流階級向けの超高級品なのである。
「……本物っぽいな、これ。どうせ懐蟲なんて使う機会なんて一生こないし、試しに使ってみるか?」
 そして一度そう考えてしまうともう止まらない。
 次の瞬間には取り上げた綿棒の先端に、洗浄剤というわりには妙にねっとりとした液体状の中身を垂らしてしまう。それからベッドの上に四つん這いの格好になると、尻の穴にその綿棒をおずおずと挿入していた。

 それからしばらくの間、緊張と期待を抱きながら根気よく綿棒を動かして内壁を撫でてみる。
 しかしそんな期待とは裏腹に、興奮を促されるような何かが訪れそうな気配がまるで無いのに、高価なものでも所詮はこんなものなのかと小さく息を吐いた時のことだ。
「ん、ぅっ……はっ……なか、かゆ、い?」
 不意にむずりとした感覚が内壁に走ったのに、思わず小さく腰を揺らす。そしてその感覚につられるように綿棒で先ほどよりもやや強く内壁を擦ると、次から次へとその感覚が内壁全体に広がっていって。
 たまらず両肩をベッドに落とし、腰だけを上げた獣のような格好になりながら、身体の中に広がる得も言われぬ感覚を沈めようと綿棒を少しずつ激しく動かしてしまう。
 するとそんな激しい動きに液が泡立ってきたのか、ヌチュ、ジュプ、と卑猥な音が下肢から聞こえはじめて。その音にも大いに刺激され、下肢に広がるかゆみが快楽に変換されるのはあっという間だ。
「なか、スリスリってするの……きもち、ひ、よぉっ」
 特に腹側にある、陰茎の根元付近に綿棒の先端を押し当てた状態でクッと力をこめると、たまらない。しかし所詮綿棒は紙製の物なので、ふやけて使い物にならなくなるのなんてあっという間で。
 しばらくして綿棒の刺激に物足りなさを覚えはじめると、それを引き抜きながらおずおずと目を開ける。すると目の前には、お誂え向きと言わんばかりに、白い筒があるのである。
 その筒の先端にはカプセルがセットされているので、綺麗なドーム型を描いていて。そしてそこで先ほど見つけた中の気持ち良い場所を押し上げたら……すごく気持ち良さそうだ。
 とはいえその先端のカプセル部分が懐蟲なので、挿入したら最後。腹の中に仮腹が出来ることになってしまうのだが。
「でも、最低六時間放置って書いてあったし……すぐ引き抜いたら、大丈夫かな」
 もちろん普段の勇利だったら、絶対にそんな真似はしなかっただろう。しかし今は目の前の快楽で頭の中が一杯で、なおかつしこたま酒を飲んでいたせいで理性なんて全く働いていない状態だ。
 したがって本能に促されるがまま、筒にローション代わりの洗浄液をたっぷりと塗りつけ、尻の穴に押し当てる。
 そして気付いた時には、ドキドキと胸を高鳴らせながらそれを挿入していた。

「は、あっ……きたあ、」
 筒は親指ほどの太さがあるので、当然綿棒よりも圧迫感は大きい。でも先端の形状がドーム型なのと、全体にまんべんなく洗浄液を塗りつけたおかげか、ほとんど抵抗らしい抵抗も無く中程まで埋まってしまう。
 特に陰茎の根元辺りに狙いを付けてグッと押し上げると、たまらない。
「んっ、んんーっ……なんか、ここ、きもちいっ、よぉ……っ」
 それまで勇利のことを苛んでいた焦燥感のような痒みが、そこからじんわりと広がる甘い熱のようなものに打ち消されていく感覚にほうと息を吐く。
 それからその感覚をもっと感じたいのに目を閉じ、筒で内壁をふにふにと優しく押し上げながら甘い熱の感覚を堪能していたのだが。
 お約束というべきか。勇利は陰茎を弄くるのとはまた異なる、ふんわりとした優しい快楽に意識まで完全に流されてしまうと、そのまま夢の世界の住民になってしまうのであった。

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