アイル

叶わないと知りながら、熊は身分違いの恋をした-8

「ヴィーチャ、出入り口の水たまりで遊んだら他のお客さんに迷惑だから駄目だよ。ほら、手繋いで早く家まで帰ろう」
「ねえ勇利。その子の名前、ヴィクトルって言うのかい?」
 南のコーチを初めてから二ヶ月ほど経過した六月のとある雨の降っている日曜日。勇利とヴィーチャの二人は、実家の母親におつかいを頼まれたため、夕方頃に近所のスーパーまでやって来ていた。
 そして買い物を済ませ、帰ろうとした時のことだ。
 いきなり声をかけられたのに、勇利はビクリと身体を揺らす。この聞き覚えのある甘い声には、とても覚えがある。というか忘れられるはずがない。
 だって彼は――
「ヴィクトル」
 それからおそるおそる顔を横に向けると、二人から数メートル離れたところに予想通りの姿があったのに、勇利はしばし身体の動きを完全に停止させた。
 彼は今ユリオのコーチをしている。そしてユリオのホームリンクがロシアだというのは、南のコーチをすることになってから仕入れた情報だ。
 まあ薄々そうだろうなとは思っていたが、それはともかくだ。つまり何が言いたいのかというと、ヴィクトルが日本に来る用事なんて、そうそう無いはずだということである。
 それなのに何故目の前にいるのだという疑問の言葉が頭の中に浮かぶが、それに対する明確な答えはまるで浮かばない。
 そうこうしている間に彼はあっという間に二人の立っている場所までやってくると、いまだ水たまりで遊んでいるヴィーチャの前にしゃがみこむ。そしてそこでヴィクトルの存在に気付いたらしい息子は、無邪気な様子で顔を綻ばせた。
「あっ、ヴィクトルだ!」
「あれ? 俺のこと知っているの?」
「うん、知ってるよ。前にテレビのアイスショーで見た。ぼくもパーパもすきなんだよ」
「ああ……良かった。あれ見てくれたんだ。それは嬉しいな」
 それからヴィクトルの手が息子の頭に伸びていったのが見えたところで、勇利ははっと目を見開く。そして咄嗟に彼の手から守るように、腕の中に自分の息子を隠した。
 それからの勇利の行動は早い。
 息子が雨に濡れないようにレインコートのフードをかぶせてやる。するとこれまた犬モチーフのものだったので頭上に犬耳がピッと立ったのだが、それすらも今は見せたくなかったので、すぐに手で寝かせてしまう。
 そして右手に子どもを、左手にスーパーの袋と傘を持ち、全速力で逃げるようにその場を後にして。ようやく胸を撫でおろすことが出来たのは、家に到着して玄関のカギを締めてからのことだった。

「パーパ、どうしたの? さっきのひと、パーパもすきなヴィクトルなのに」
「ああ……ごめん。いきなりだったから、おどろいちゃって」
 勇利が不安がっているのが伝わったのだろう。心配そうに顔をのぞきこんできたヴィーチャを安心させるように、何とかぎこちない笑みを浮かべながら床の上におろしてやる。
 さらにレインコートのフードを脱がせて頭を撫でてやったのだが、それだけでは誤魔化されなかったのか。彼はいまだ不安そうに勇利のことを見つめながら、青い瞳を揺らしていた。
 本当に、見れば見るほど父親にそっくりだ。
 この子がヴィクトルとの子どもだとバレてしまわなかったか、心配で心配でたまらない。
 ちなみに今彼に知られた事実は、勇利に子どもがいること。その子どもがヴィクトルという名前だということだ。ここまでだったら、まだ気持ち悪いストーカーと思われる程度で済んだかもしれない。
 でもこの見た目に関しては……もうどうしようも無いだろう。
 容姿に関しては人それぞれの感性に大きく左右されるが、筋金入りのヴィクトルオタクである勇利の目から見ても、ヴィーチャはヴィクトルの幼少期の生き写しだといっても過言ではない。だからほぼ間違いなく、ヴィクトル本人もそう感じたと思う。
 ここまでの事実で、あとはヴィクトルがどう考えるかが問題だ。
「あの日の夜のこと、まさか思い出したりしていないといいんだけど……」
 そうしたら他人の空似でなんとか押し通せる、かもしれない。しかし思い出していたら、その場合はもう完全にアウトだろう。
「ああ……どうしよう。どうすれば……」
 ヴィーチャがスケートをはじめたのをきっかけに、いずれその日が来るかもしれないとはぼんやりと考えていた。でもまさか、こんな突然にその日が訪れるなんて。
 正直なところ、勇利がヴィクトルのことを騙してこの子を授かったと露見して彼に嫌われるのは、もう自業自得だから仕方ないと思っている。
 でももしも勇利の手元からこの子を取り上げられてしまったらと考えると、もう駄目だ。
 それを思うと不安で不安でたまらなくて。その日は久しぶりにヴィーチャを抱きしめながら、同じ布団の中で眠った。もちろん一睡も出来なかったのは言うまでもないだろう。


■ ■ ■


 翌日の月曜日、勇利は実家の周辺にヴィクトルの影が無いのを確認しつつ、母親にヴィーチャの面倒を改めて頼んでアイスキャッスルはせつまで猛ダッシュで向かう。それからいつも通りに南のコーチをしていると、十三時から幼児クラスのスケート教室が始まり、そこにヴィーチャもやってくる。
 なんて具合に様々な年代の子どもたちとリンクをシェアしつつ、合間合間に基礎トレーニングを入れたりして夜まで練習をするというのがいつもの南のメニューだ。
 そしてその日は夜の七時頃にリンクから上がったのだが。建物の外に出ると、玄関脇の壁部分にヴィクトルが寄りかかっていたのに勇利は思いきり顔をひきつらせた。
「あ、ヴィクトルコーチばい! おいの練習の偵察にきたと!?」
「やあ、勇利に南。今日は生憎と偵察に来たんじゃなくて、お誘いに来たんだよ」
「お誘い?」
 勇利にしてみれば、どんなお誘いだろうと乗る気はさらさら無い。だから先ほどから南の袖を引っ張って早く帰ろうと主張しているのに。
 肝心な南はというと勇利のそんなささやかな主張にまるで気付いていないのか、わくわくとした表情でヴィクトルのことを見つめているのである。
 そしてヴィクトルは南をさらに煽るように大げさな仕草で頷きながら、右手を勢いよく二人に向かって差し出してみせた。
「今年の夏、俺たちと一緒に合宿しないか?」
「おおっ……合宿!」
「う、え(゛)っ」
 南はさらに興奮を煽られた様子で身を乗り出す。しかし一方の勇利はというと、顔をしかめながらその場から一歩後退してしまった。
 ただヴィクトルは勇利のそんな反応など折り込み済みなのか。南から攻略しようというように彼のほうへ身体を乗り出すと、さらに畳みかけにかかるのだ。
「うちのユリオも、久しぶりに日本に行きたいって言ってたし。メールで連絡しても良かったんだけど、やっぱりこういうのは直接伝えるほうが、熱意が伝わるだろう? ――で、悪くない話だと思うんだけど、どうだろう」
「は~……勇利コーチと合宿! あとユリオくんも。 学校の部活みたいで……ばり楽しそう! ねえ勇利コーチ、おい、合宿したいです!!」
「えっ……えー……海外勢と合宿って聞いたこと無いんだけど」
「大丈夫。俺とユリオが日本に来るから、勇利たちには面倒かけさせないよ。それとさっき西郡に夏に合宿したいからリンク貸し切りにさせてって言ったら、オーケーくれたから」
「……」
 西郡め……と思わず頭の中で恨み節を吐くが、脳内の彼は高笑いをしているだけなので、文句を言うだけ労力の無駄な気がする。
 そして現在自分の生徒である南も、ライバルであるユリオと合宿という形で刺激しあえるのが楽しみなのか。今や勇利よりも図体が大きいのに、子犬のようにキラキラとした期待の眼差しで勇利のことを見つめているのである。
 その気持ちは……勇利も分からなくもない。
 したがってついに諦めてガックリと肩を落としながら、分かったよと呟くように口にした。
「やったー! 楽しみばい! SNSに書いてもいいですか? いいですよね! そいでは、おいは電車なので」
 南はいつものように直角に腰を曲げると、あっという間に走り去ってしまい、その場には勇利とヴィクトルの二人だけが取り残されてしまう。そしてそれに気付いた途端、気まずい雰囲気が周辺に一気に立ちこめだしたような気がしたので、勇利は早々に退散しようとしたのだが。
 そこでヴィクトルが、南って相変わらず勇利のファンなんだねと口にしたせいで、足を止めざるを得なくなってしまった。
「ファンっていうか……色んな大会経験してる人間が、ここら辺だと僕くらいしかいないからじゃないかな」
「ふふ、勇利って相変わらずだね。ところで勇利の連絡先を知りたいんだけど、教えてもらえないかな? 今回の件で勇利の携帯に事前に連絡したんだけど、全く繋がらないから困っちゃって」
「……それなら連盟通せばいいじゃないか」
「俺、連盟とあまり仲良くないからなあ」
 だからお願いと困った表情で顔を覗きこまれ、久しぶりの彼の接近にドキリと胸が高鳴りかけ――しかしすぐに冷静になる。
 勇利にはヴィーチャがいる。だから彼と必要以上に慣れ合うつもりは、全く無いのだ。
 したがってもう帰るからと、適当にそれらしい理由を付けてさっさとその場から退散しようとしたのだが。彼はそんなのまるで関係無いといった様子で後ろをついてくるのである。
 それどころか尻ポケットに入れていたスマートフォンを勝手に抜き取ると、操作しはじめて。もちろん勇利は何をするのだと眉をひそめながらヴィクトルの方へ向き――そしてその右手に見覚えのある金色のリングがはめられているのに気付くと、一瞬呆けてしまった。
 しかしそれも束の間のことだ。
「勇利のスマートフォンのロック番号、相変わらず俺の誕生日のままなんだ」
「~~っっ、もうっ!」
 ヴィクトルの指摘に、そういえば徹底的に消したつもりの彼の痕跡の中で、それだけが唯一そのままだったことに今さら気付くがもう遅い。耳までカーッと赤く染めながら、スマートフォンを勢いよく奪い取った。
「もう……いきなり日本に来て、合宿とか何がしたいのさ」
「ん? 合宿って、日本だと無いの?」
「あるよ。でもさっきも言ったけど、国内選手だけの合宿が普通でしょ。ホームリンクは全く別の場所なのに、わざわざ飛行機に乗ってまで海外に行って合宿するなんて聞いたこと無いよ」
 しかもコーチセットでだ。
 全く何を考えているのかさっぱり訳が分からない。いや、何となくだが……自分のことが目当てだろうというのは、さすがの勇利も薄々気付いてはいる。
 そしてそこまで分かっているのに、互いに腹のさぐり合いをするのもだんだんと面倒に思えてきて。道の途中で完全に足を止めると、身体ごと振り返る。
 それから正面からヴィクトルの瞳を見つめると、彼は困ったような、不安そうな雰囲気をにじませながら、口元に笑みを浮かべていた。
「少し前にね……勇利が南のコーチになったって、彼のSNSに書いてあるのをユリオが教えてくれたんだ。それでアイスキャッスルのホームページをチェックしたら、勇利がいて。あと小さい子の練習風景の写真をなんとなく見ていたら、昨日の子がのっているのを見つけたんだ」
 そこでそういえば、契約する時にホームページへの写真掲載の許可の項目があったのを思い出す。その時は、今さら誰も興味無いだろうと特に何も考えずにオーケーしたのだが。
 でもまさか、日本語のサイトまでチェックされるとはという感じである。しかし今さらそれに後悔をしたところで、後の祭りだ。
「それで俺そっくりの子と、あと勇利の手に指輪がまだはめられていたのを見たら、無性に会いたくなったんだ。でも俺は勇利と別れる時に、随分と自分勝手なひどい方法を取っただろう? だからそういう後ろめたさもあったから、なかなか直接会いに来れなかったんだ。でもそこで、生徒のユリオと南がライバル関係なのを思い出して……それなら合宿を口実にすればいいかって、ズルイ言い訳を思いついたんだよ」
「そう、だったんだ」
 考えていたよりも色々と筒抜け状態なのに、もはや表情を取り繕う余裕も無い。顔を真っ青にしながら冷や汗をだらだらと垂らす。
 しかもそこでヴィクトルは駄目押しとばかりに、昨日あった子って小さい頃の俺に本当にそっくりでビックリしたよと付け加えてくるのである。
「思ったんだけど……あの子、俺と勇利の子どもだよね」
「――ッ!!」
(バレた――!)
 そう思って、思わず目を大きく見開いて大げさなほどに身体をビクリと揺らしてしまう。しかしすぐに己の反応の不味さに気付き、慌てて首を大きく横に振りながら違うよと口にした。
「確かに似てるなとは、僕も思うけど……」
「じゃあ勇利は、あの子が俺に似ているから『ヴィクトル』って名前を付けたの? 他の男の名前を付けるなんて、相手はそれを許してくれるもの? それに俺とお揃いのこの指輪も……まだはめたままで」
「そ、れは」
 というかそもそもそれ以前に何故勇利が生んだ前提で話しが進んでいるのだとか、その指輪は少し前に何となくつけ始めただけだとか、色々と言いたいことは山ほどある。
 しかしそこで右手を取られると、互いの指同士が交差するように握られて。そしてそのままヴィクトルの方へ引かれ、彼の腕の中に身体がおさまってしまうと、もう何も言えなかった。
「全日本の前後から、勇利の様子がおかしくなっていただろう? でも単純に引退後のことが不安なのかなって最初は思っていたんだ。でもそれじゃあ、必要以上に俺を遠ざけようとする意味が分からない。でもいくら考えてもその理由が分からなくて。勇利も絶対に相談しようとしないから、よほど嫌われちゃうようなことをしてしまったのかなって思ったんだ。だから悲しくなって……仕事を口実に、そのままロシアに帰っちゃった。
 でもホームページに掲載されていた俺そっくりの子どもの写真を見た時に、ああそういうことかって思ったんだ」
「なにを、いって」
 そこから先の話は、ものすごく嫌な予感がする。だから無理矢理にでも彼の手を振り払ってその場から逃げようとしたのに。彼はさらに腰に手を回してくると、身体を密着させてくるのである。
 するとその首筋から、嗅ぎ覚えのある甘い香りがほんのりと漂ってきて。駄目だ駄目だと思うのに、やっぱり本心では彼のことが好きでたまらないからか。その香りにあっという間に囚われてしまい、首筋に思わず顔を擦り寄せてしまうのだ。
 それでも駄々をこねる小さい子どものように往生際悪くいやいやと首を振っていると、宥めるように背中を優しくぽんぽんと叩かれた。
「以前俺がブリーリングに行った時に、発情促進剤を飲まされたことがあるだろう? その時の記憶は曖昧でほとんど覚えていないんだ。でもクリスがSNSに上げた勇利とのツーショットが面白くなくて、勇利の泊まっているホテルに行ったことだけは、はっきり覚えてる。それで、それから……夢の中で勇利とセックスする夢を、何度も見るんだ。
 この際だから白状してしまうけど、俺はね、ずっとずっと勇利のことが好きなんだ。だから最初は欲求不満なのかなって思ってた。でもそうじゃない。あれは夢じゃなくて、現実だったんだ。そう考えたら、勇利が本当の魂現であるクマの耳を俺に見られた時にあんなに焦っていた理由も分かる」
 そうだ、そのとおり。全部正解だ。
 そこまで完全な正解を目の前に突きつけられてしまっては、それ以上何も言うことは出来ない。
 でも子どものことだけは守らなくてはいけないという本能だけはなんとか働いていて。年甲斐もなくぽろりと大粒の涙を流しながら、やっとの思いで「ちがう」とまるで根拠の無い否定の言葉を、嗚咽混じりにやっとの思いで口にする。すると大丈夫だからと、優しく頭を撫でられた。
「心配しないで、勇利の大事なものを奪ったりしないよ。ただ俺も勇利も、二人して指輪をつけたままっていうのに気付いてしまったら、いてもたってもいられなくて。自分勝手な言い分かもしれないけど、その事実もすべて、気付かないフリをするのは……違うと思ったんだ。だからこうして日本に来た。
 ねえ勇利、全日本選手権の時に勇利のことを信じることが出来なくて、四年も待たせて、本当にごめん」
 自分は中間種だから、ヴィクトルとは家柄も全然違くて。それに懐蟲を勝手に仕込んでセックスをしたひどいやつなんだとか、言いたいことは山ほどある。
 でも全て言い当てられた挙句に、両頬を包まれて額同士をくっつけながらそんなことを言われてしまっては――もう何も、言うことが出来なかった。
 そしていきなりのことに頭の中がパニック状態になってしまい目を見開いたまま固まっていると、ヴィクトルは手を引いて実家まで送ってくれた。

 ヴィクトルは家に到着すると、ちゃっかりと実家に上がりこんで以前のように居間で酒を飲み始める。
 そこへヴィーチャがやってきて。最初はヴィクトルの突然の来訪に喜んでいた様子だったのだが、目敏く勇利の目元が赤いのに気付くと、ヴィクトルの元にすっ飛んでいき、何やら抗議している様子だった。
 とはいえヴィーチャは英語が出来ないので、ヴィクトルが片言の日本語でなんとか対応している様子だったが。そしてしばらくしてヴィクトルは勇利の元へやってくると、ごめんなさいと日本語で謝ってきたのに思わず笑ってしまった。
 それから勇利の母がやって来ておつまみを出すと、ヴィクトルは立ち上がる。そして軽く抱きしめながら、お久しぶりですと片言の日本語を口にした。
「マーマ! 元気でしたか?」
「うんうん、おかげさまでね」
『そっか、よかった。ところで夏に勇利とスケートの合宿をしようと思っているんだけど、二階の部屋をまた借りてもいいかな?』
「ん? 二階の部屋に泊まりたいの? よかよか、いつでもおいで」
「ありがとう、だいすき!」
「あーっと……母さん、合宿を夏にすることになって。二階の宴会場に、ヴィクトルとユリオと、あと南くんが泊まることになると思うんだ」
 ヴィクトルは重要な用件のところを英語で話していたので、母親には通じていないはずだ。そのはずなのだが、相変わらずの意志疎通っぷりが恐ろしい。しかし念のために一応日本語に翻訳して伝えると、母は心得た様子でうんうんと頷いた。
「また賑やかになって嬉しいねえ」
「そう……だね」
 七年前、ヴィクトルが突然ロシアからやって来た日のことを思い出す。あの日も今みたいにゴチャゴチャで、訳が分からなかった。でも不安だらけの気持ちの中に、やっぱり嬉しさがあったのも事実で。
 覚えのある感覚に、それまでピンと張りつめていた糸が明らかに緩んできているのが分かる。
 まだ勇利は本当のことをヴィクトルに話せていない。だから深入りしすぎるのは、駄目だと思うのに。
 ヴィクトルのことが、気になってたまらなくて。
 ――たぶんまた、彼に恋をしている。

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