アイル

さよなら運命の人-10(R18)

 それから勇利が混乱状態の意識の中から何とか再浮上したのは、ヴィクトルの使っている嗅ぎ覚えのある甘い香水の香りが鼻先に漂ってきてからのことであった。
「あ、れ?」
 ただ目の前は一面真っ白で、何が何やら一瞬訳が分からない。
 それに肝心なヴィクトルの姿も見えないのにきょろきょろと辺りを見渡したところで、ようやくベッドの上にうつ伏せの格好で押し倒されていることに気付く。
 そしてそれと同時に完全に意識を覚醒させると、これは不味いと慌てて起き上がろうと手足をバタバタと忙しなく動かしたのだが、案の定と言うべきか。その瞬間に背中にズシリと体重をかけられ、さらにはうなじのあたりをガブリと思いきり噛みつかれてしまう。
 おかげでその噛まれている箇所がカーッと熱くなり、鈍い痛みがそこからじわじわと広がっていく感覚にたまらず大声を上げた。
「いっ、だぁ……っ!」
 おかげで途中まで起こしていた上体がベッドに逆戻りだ。しかもそれでもなおヴィクトルがうなじから口を外してくれないのに、ひどく狼狽した。
 だってこの体勢は、情事の際にオス猫がメス猫を押さえ込んでいる体勢そのままなのだ。そしてそれを教えてくれたのは、他ならぬヴィクトル自身なのである。
 つまり彼は、これから本気でセックスをするつもりなのではないだろうか。ということくらいは、ここまでの経緯もあるのでこの手のことに疎い勇利でもおよそ察しが付く。
 しかしこの行為には、心が全く伴っていないのだ。
 そしてそれだと以前と全く同じ展開になってしまうということを即座に思い出すと、さすがにもう勘弁してくれと思いながら、匍匐前進の要領で慌ててヴィクトルの下から這い出ようとした。
 だが背後の男はすでに完全にその気になっているのか、腰を掴まれてあっという間に元居た場所まで引き戻されてしまう。さらに駄目押しとばかりに耳元にふっと吐息を吹きかけられたのに、肩を小さく震わせた。
「逃げるなんて傷つくなあ。ユリオと南はよくて、俺はダメなの? しかもついに俺とのペアリングを外しちゃってるし。俺とこういうことするのは、もう嫌になっちゃった?」
「そういう問題じゃなくて……っ!」
 そもそもユリオとはそんな空気になったことなど一度も無い。それに南に関しては本当に単なる事故で、運悪くそこにいたのが南だっただけなのだ。したがって好き者みたいに言われるのは非常に不本意である。
 それに何より、ヴィクトルとそういう行為をするのは、また以前の二の舞になるのが分かっているからこそ嫌なのだ。
 本当にそれだけで、それ以上でも以下でもない。つまりヴィクトルの言っていることはどれも的外れで、もうここまできたら本当のことを全てぶちまけてしまおうと口を開きかけたのに。
 そこでタイミング悪く、尻の辺りに腰を押しつけられたのに嫌な予感がした時にはもう遅い。
 両手で尻を左右に割り開かれ、露わになったデルタ部分に思わせぶりに下肢を軽く押しつけられる。そして押し付けられたそこが明らかに熱を持って硬くなっていたのに、あのヴィクトルが本当に興奮しているのかとひどく動揺してしまったせいで、抗議の声は結局霧散してしまった。
「わっ、あ!? ちょっ、まっ!」
「うん? 勇利、どうしたの?」
 どうしたも何も、その原因が己の行動のせいだということなんて百も承知だろうに。
 それが面白くないのに恨みがましい視線を向けるものの、ヴィクトル本人にまるで堪えた様子が無いのは言うまでも無い。
 というか勇利自身では全くその自覚は無かったが、その瞳は突然の刺激に驚いたのもあって常よりもやや湿り気を帯びており、さらに有り得ない状況への羞恥心から頬が赤く染まっているのだ。そんな状態できゅっと眉を寄せた上目遣いで睨まれたところで、迫力などまるで有るはずも無く。むしろ誘っていると取られてもおかしくない。
 というわけでヴィクトルがさらに興に乗った様子で勇利のうなじをあぐあぐと甘噛みし始めると、勇利は何故こんなにも必死な訴えが相手に伝わらないのだろうと唇を軽く噛みながら、ベッドに突っ伏してただひたすらにそれを耐える。
 するとそれをこれ幸いというように、それまで押し付けられているだけだった陰茎が動きはじめ、思わせぶりにグッグッと熱の塊を押し付けられる感覚に喉を鳴らした。
「ふ、ぐっ……それ、それぇ……っ」
 もちろん互いに服は着ている。しかしそこでうっかりとまるで本当に挿入されているみたいだ。なんて馬鹿なことを考えてしまったせいで、途端に腹の奥底からカーッと熱いものがこみ上げてきて、全身がゾクゾクと不規則に震えるのが止まらなくなってしまう。
 そしてこのままだとあっという間に瀬戸際まで追い込まれてしまいそうだったので無意識にはあはあと荒い息を吐き、少しでも体内で渦巻いている熱を身体の外へ追い出そうとしたのだが。
 それすらも許さないというように下肢を中心にさらに体重をかけられたせいで、陰茎がグググと押し潰される感覚にこれは不味いやつなのではと察知した時にはもう遅い。
「ちょっ、それ、待って。まってってばぁ……っ! それ、だめ、だめぇ……っく、ぅぅ」
「駄目なの? でも、すごく気持ち良さそうに見えるけどなあ」
 そうして体重をかけられた状態で腰を動かされると、竿全体がベッドに押しつけられ、覚えのある鈍い熱がそこから広がる。イメージとしては、床オナニーを強制的にさせられているみたいというのが一番近いだろう。
 ただただもどかしく、焦れったい。でもたまに力加減を見誤ってか、思いきりそこを圧迫されると、それまでの刺激との落差に腰がブルブルと震え、先端から先走りがトロリと溢れてしまう。
 ――ああ、もう。このままめちゃくちゃに腰を前後に揺さぶって、早くイきたくてたまらない。
 頭の片隅では、なけなしの理性がまた一年前と同じことを繰り返すつもりなのかと必死に訴えていたが、でもヴィクトルのことが好きだから良いじゃないかという一言で全てを片付ける。そしてそこで、ついに腰を小さく揺らめかせてしまったのが運の尽きだ。
「ふ……んっ」
 最初は遠慮がちに、気のせいかと思うほどの小さな動きを。しかし一度でもそうやって思い通りの刺激を得てしまうともう止まらない。
 二度三度と腰を揺り動かすたび、そこから広がるちょっぴりもどかしい甘い刺激の虜になってしまい、ベッドに陰茎を擦りつける腰の動きがどんどん大胆になっていってしまう。
 そうしていつの間にか考えることを完全に放棄してこの行為を進んで受け入れてしまうと、それまで無意識の内に必死におさえこんでいた熱の奔流が一気に溢れ出すのは驚くほどに呆気なく。発情期特有の濃密な甘い香りが、身体からふわりと漂いだしてしまう。
 そして芳香を漂わせながら夢中になってへこへこと腰を動かす姿は、まさしく発情期を迎えた猫そのものであった。
「はっ……はぁっ……、きもちい、よぉ…っ!」
 特に勇利の腰の動きに合わせて、尻の孔付近に熱の塊を繰り返しグッグッと押し付けられ、陰茎全体を押し潰される動きは癖になりそうだ。
 なんというか、まるで本当に挿入されているみたいでひどく性感を煽られる。
 そしてそんなしょうもない妄想に、まるで呼応するかのように下腹部がズクリと疼く感覚が走った直後。さらに大量の先走りが漏れ出す感覚に下肢を小さく震わせていると、まるでその瞬間を見計らったかのように再び下肢に体重をかけられたからたまったものではない。
 おかげでブチュリと卑猥な破裂音がそこから漏れ、それと同時に下腹部全体にじんわりと広がる甘い熱の感覚に、たまらずベッドに額を押しつけた。
「あ、んんー……っ」
「……ふふ。勇利、気持ち良さそう。グチュグチュって音、俺まで聞こえてきてるよ」
 耳元で囁かれたその言葉になけなしの羞恥心を煽られ、瞬間的に頬を染める。しかしその直後に頭上の耳の根元をくすぐるように撫でられると、途端にそんなものはどこへやらだ。
 口元だけでなく目元までだらしなく緩めながら、むしろ自分から擦り寄っていってしまう。
 そしてその隙にちゃっかりとズボンを緩められたのに、あ、と思った時にはもう遅い。
 制止の言葉を口にする前にあれよあれよと下着の中に手を突っ込まれてしまい、気付いた時には快楽の源に直接触れられる感覚に全身をブルブルと震わせる。
 それから腹の奥底から溢れ出る熱の奔流に身を任せようとしたのだが。
「――おっと、危ない危ない。悪いけど、もう少し我慢だよ」
「なん、で……っ!」
 そこでまさかの。陰茎の根元を指で作った輪っかでせき止められてしまったせいで、途中までせり上がって来ていた精液が逆流してくる感覚に大きく身悶える。でも頭では達しているので、身体と頭の感覚がまるでちぐはぐだ。
 それがたまらず、下肢に手を伸ばしてヴィクトルの手を何とか外してもらおうとそこを指先でかりかりと掻く。
 しかしヴィクトルはそんな些細な抵抗などまるで気にした様子も無く、それどころかたまらないといった様子で先ほど散々甘噛みされたうなじをベロリと舐め上げてくるのだ。
「ああ、ごめんね勇利。空イキしちゃったのかな」
「う、えっ。ばかぁっ!」
 そしてこれである。まるで反省していないどころか、むしろ悶えている勇利のことを見て興奮している様子なのがますます面白くない。
 だから下肢をくねらせるようにして、何とかその手から抜け出そうとしたのだが。尻の狭間には未だヴィクトルの陰茎を押しつけられているのをすっかりと忘れていたせいで、むしろ自分から押しつける形になってしまったから大変だ。
 おかげで思いがけず尻の狭間をゴリと抉られる感覚が走ったのにヒッと息をのみながら、さらに自分自身を追い込むことになってしまったのに、年甲斐もなく半ベソをめそめそとかく。
 するとさすがに気の毒に思ったのか。宥めるようによしよしと頭を撫でられながら、今日は良い物があるんだよとご機嫌を取るようなことを言われた。
 それから彼は片手を伸ばしてベッドサイドに置いてあるチェストの上に置いてあったポーチを取り上げると、その中から洒落たボトルを取り出してこれこれと口にしながら笑みを浮かべた。
「なに、それ」
「マタタビ入りのローションだよ。普通のでも良いけど、勇利との初めてだからうんと気持ち良くしてあげたいしね。まあ耳が落ちちゃってると効果が半減しちゃうから、本当は耳が付いてる時に使ってあげたかったんだけど……こればっかりは仕方ないね」
 それでもただのローションを使うよりも、断然気持ち良いと思うよという言葉に、思わずゴクリと喉を鳴らしながらヴィクトルが手に持っているそのボトルをまじまじと見つめてしまった。
 その言動から、ヴィクトルは未だに勇利の猫耳が付け耳だと思っているらしいことが分かる。
 しかし実際には、本物なのである。
 というか先ほどから猫耳の方も構わず動かしまくっている自覚があるので、いい加減気付かれてもおかしくないと思うのだが。付け耳だという先入観があるので、気付かれていないらしいのが少し意外というか。
 まあそれはそれである意味ラッキーだとは思うが、まさかのマタタビを使われるとなると話は別だ。
「またたびって……あの、猫を酔わせるやつだよね?」
「そう、それだよ」
 そしてそれを聞いた瞬間、勇利は顔色をサッと青ざめさせた。
 マタタビは、勇利がこれまで二十五年の人生でずっと避けてきたものの一つである。
 とはいえその効能と副作用から、マタタビの服用は酒と同じく日本では二十歳から、世界だとおよそ十八歳からというのが基準になっているのだが。まあそれはともかくとしてだ。
 一般的にマタタビは酒と似たような酩酊感などの効果を与えてくれるものなのだが、その効果は酒よりも強いとされている。となると、ただでさえ酒癖の悪い勇利がマタタビを摂取してしまったら……どう考えても大事故になる未来しか予想出来なかったので、実は一度も試したことが無いのだ。
 しかしまさかのまさか。こんな場面でそんな物を持ち出されるとはという感じである。しかもそれをセックスの最中に使用するなんて、勇利的には前代未聞もいいところだ。
 したがってこれは不味いと慌てて上体をひねるようにして起こしながら、それだけは勘弁してと必死に頼み込んでみるが、ヴィクトルはどうやら使う気満々なのか。聞く耳をまるで持ってくれないのである。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。皆気分転換にわりと使ってるしね」
「そうじゃなくって! 僕、耳が――」
 耳がまだ取れていないのだと、再び正直に白状しようとしたのだが。
 その言葉を最後まで言いきる前に、ボトルのフタを開けるカチリという乾いた音が辺りに響く。そしてその直後にほんのりと刺激のある香りが鼻先に漂ってくると、もう駄目だ。
 無意識に鼻をくんくん鳴らしてしまうのが止まらず、しばらくするとくにゃりと全身から力が抜けてしまう。そして顎下を撫でられているわけでもないのに、ゴロゴロと甘えるように喉を鳴らしながら、ヴィクトルの身体になついてしまっていた。
「ははっ、思った以上に効果覿面じゃないか。もしかして、だから使うの嫌がってたのかな」
 可愛いなあと口にしながらさらに顎下を撫でられると、くすぐったいようなむずむずとした感覚が背中を這い上ってきて、どうにも落ち着かない。
 その感覚を少しでも散らそうと、今度はベッドに仰向けの格好になって背中を擦り付けるようにころころと転がっていたのだが。こっちにおいでと声をかけられると、腕を引っ張られて胸元に寄りかかる格好で膝の上に抱えこまれてしまう。
「気持ちよくしてあげるから、少しの間我慢だよ」
「ううーっ」
 そうは言われてもだ。
 ヴィクトルの手元には、いまだに件のローションが握られているのである。おかげでマタタビの香りの直撃を食らってしまい、再び広がるむず痒いような奇妙な感覚にふるふると頭を振る。
 しかしそんなものでどうにかなるはずもなく。ついに耐えきれなくなって、ヴィクトルの腕の中から何とか逃げ出そうともぞもぞと動いていると、再びうなじをカプリと甘噛みされたのに首を大きくそらした。
「は、あ――っ!」
「ふふ。本当にイっちゃってるみたいじゃないか。そんなに気持ち良い?」
 さらにあぐあぐとうなじを噛まれ、下着の中から勃起した陰茎を取り出されると、先端の皮を引っ張られて亀頭を露出させられてしまう。
 そこを手の平で扱きながらローションを塗りたくられると、気持ち良いなんてものではない。再びせり上がってくる熱の感覚に、本能的に腰を突き出すようにカクカクと動かしてしまうのが止まらない。
 しかし相変わらず根元部分をせき止められているせいで、精液の放出は叶わず。下肢が一際大きくガクリと震えた後に、一筋の申し訳程度の白濁液がそこから零れ落ちたのみであった。
「あ、ああ……」
「ん、今のでイっちゃったのかな? ぐったりしちゃって可愛いなあ。下も先走りとローションでドロドロで、すごくそそられる」
 度重なる空イキとやらのせいで、身体の中にたまる一方の熱で頭がぼんやりとする。ヴィクトルが耳元で何やら興奮した様子で好き勝手言っているのが聞こえるが、もはやそれに答える余裕すら無い。
 するとその隙にと言わんばかりにそれまで亀頭を弄くり回していた手がさらに下に進んでいき、双球を数回柔らかく揉んだ後に会陰部から尻の孔にかけてを指先で思わせぶりにツーッと辿るのだ。
 そしてこれからの行為を暗示するかのように、再び尻の狭間に勃起した陰茎をゴリゴリと押し付けられて。さらに尻の孔の縁部分を指の腹でふにふにと揉みこまれる感覚に思わずうっとりとしていると、耳元でクスリと小さく含み笑いを零された。
「ほら、ここまで垂れてきてるの分かる?」
「は、あっ……ふ、え?」
 わざとローションをかき混ぜるようにしてクチュクチュと音を立てられると、その卑猥な音に完全に飛んだ状態だった意識をいくらか引き戻される。
 そしてそこで今さらのように尻の孔に触れられているのだということに気付いて、目をパチパチと瞬かせながら下肢に目を向け――すると自身の陰茎が今まで見たことが無いくらい大きく膨れ上がり、だらしなく開いた先端の口からは白濁混じりの透明な液体が絶えずタラタラと零れていたのに思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
 しかしそこでこちらのことを忘れるなというように、尻の孔の窄まりに指がヌルリと埋め込まれたのに、背中をピンと伸ばした。
「勇利、ちゃんと力抜かないとケガしちゃうよ」
「だって、だって――それえっ、うう」
 そうじゃなくて、初めてだからそんなことをいきなり言われても無理だと言いたいのに。いきなり体内を無遠慮に探られているせいで考えがまるでまとまらず、口から漏れるのは格好悪い呻き声ばかりだ。
 とはいえローションをたっぷりと塗りこめられたおかげか、幸いにして痛みなどは無い。ただ違和感だけはどうにもならず、特に指の腹でグルリと内壁を撫でられた際に不意に生じるゾクゾクとしたものが背中を這い上っていく感覚はちょっと慣れそうも無い。
 そして数度その刺激を繰り返されたところで、たまらずベッドの上に両手を付いて、這うようにして手前側に逃げようとしたのだが。
 いつの間にか本格的に突入してしまったらしい発情期のせいか、あるいはローションが体温に溶かされてさらに濃密になったマタタビの香りのせいか。定かでは無いが、全身がほとんど骨抜き状態になっているせいで、肝心な腕にまるで力が入らず。結局ベッドの上にくたりと倒れこんでしまう。
 そしてそれにややショックを受けながら背中を丸めてうんうんと唸っていると、案の定背後から伸びてきた手に腰を掴まえられて。次の瞬間には再び身体を起こされ、ヴィクトルの膝の上まで一気に引き上げられていた。
「いきなり動いたら危ないから駄目じゃないか。こっちにおいで」
「待っ――は、あ、ああっ……も、いやぁっ」
 身体を起こされたのと同時に、再び尻の孔の奥深くまで指が侵入してくる感覚に身悶える。
 しかし突然のことに驚いたのもあり、子どものようにいやいやと駄々をこねているとさすがに見かねたのか。あやすように顎下を撫でられたが、それも嫌だと首を大きく振って振り払うと、困ったように頭を撫でられる。
 それから仕方ないなと口にしたので、ようやく諦めてくれたかとホッとしつつ、でもちょっぴり物足りないような気持ちに戸惑っていた時のことだ。
 それまで腰に回されていた手に、背後にあるヴィクトルの胸元に寄りかかるように促されたのでそれに従う。するとその手が思いがけず尻の方まで這わされ、ちょうど尻尾の付け根をふにふにと揉まれる感覚に背中を仰け反らせた。
「ふ、えっ……そこ、きもち、ひ」
 ちなみに尻尾の根元部分は、祖先である野生の猫と同じく泣き所の一つであり、陰茎を除いて身体の中で触られて気持ち良い場所ナンバーワンだったりする。
 とはいえそこを刺激されても、さすがに陰茎ほどの直接的な快楽が有るわけでは無い。ただじんわりと広がる熱の感覚は、勇利のようなそもそもオナニーすらろくにしない人間にはちょうど良いのである。
 おかげで尻の孔にズブズブと指が埋め込まれているのも構わず、自分から誘うように腰をくねらせてしまい、それに驚くという馬鹿みたいな真似をしてしまう。
 そしてそんなことを何度か繰り返していたところで、尻尾に指先を這わせてからはどちらかというと勇利にされるがままになっていたヴィクトルが、唐突にズボンの中に完全に収まっていた尻尾を引っ張り出すのだ。さらにその中程をむんずと掴まれ、軽くクイクイと引っ張られたのに下肢をビクビクと大きく震わせながら目を見開いた。
「ふわっ!? なっ、なにっ!」
 ただでさえ発情期やらマタタビやらで一杯一杯なのに、いきなり尻尾を引っ張るなんていくらなんでもあんまりだ。
 したがってたまらず抗議の視線――とはいっても、相変わらず快感に潤んだまるで迫力の無いものだったが、ともかくそれを向けると、意外にもヴィクトルの表情は驚きに目を見開かれたものなのである。
 それから勇利の視線に気付いたのか。それまで尻尾に向けていた視線を上げ、ぱちりと一つ瞬きをした。
「ちょっと待って、勇利。これ、本物の尻尾じゃないか」
「はぁっ……そう、だよ」
「そうだよ、って……それじゃあもしかして、頭の耳も本物?」
「うん」
 背後にちらりと視線を向けながらこくりと頷くと、尻尾を掴んでいた手をようやく外され、その代わりに今度は頭上に手を伸ばされる。そしてその根元を指の腹で何度も優しく撫でられる感触に、ほうと息を吐いた。
 しかしそんな緩みきった勇利の反応とは裏腹に、ヴィクトルは明らかに混乱した様子で。まいったなと口にしながら、勇利の尻の孔から指を引き抜いてしまった。
「んっ……せっかく、慣れてきたのに。抜いちゃうの?」
「もう、今はそうやって煽るようなことは言わない」
 いざ引き抜かれると少しばかり名残惜しいような感覚が胸の内に広がったのもあり、身体を反転してヴィクトルと向かい合わせの格好になる。
 そして指を引き抜かれた喪失感を埋めるようにその肩口に顔を埋め込み、劣情をぶつけるようにグリグリと額を擦りつけながら、普段よりもはっきりと感じるヴィクトルのフェロモンの香りを鼻腔一杯に吸い込んだ。
 するとヴィクトルは少しばかり困ったように苦笑を漏らしながら、勇利の乱れた髪の毛を整えるように撫でてくれる。それから二人に一杯食わされたみたいだなあと呟いた。
「世界選手権の後、バーで勇利とユリオと会った時に勇利の耳が無くなってたわけだけど、あれはもしかして、ユリオが匂い付けをして隠してたってことなのかな」
「……う、あ? えっと、うん。でも、最初はヴィクトルのことをだまそうって、思ってたわけじゃなくて」
「なるほどね。ってことは、大方あのパーティーに耳付きの子が勇利しかいなかったから、ユリオが気を利かせてくれたとかかな」
 ここまで散々焦らされているせいもあって頭が良く回らない。そのせいでどもりどもり喋っていたので、気の毒に思ったのか。ヴィクトルは先を見越して予想を立ててくれ、それがそのものズバリなのにうんうんと頷く。
 しかしそこでそれまでゆるゆると撫でられるだけだった頭を、軽くぽんぽんと叩かれたのにどうしたのだろうと顔を上げる。すると彼は勇利の頬を両手で挟みながら、いくつか気になることがあるんだけどと口元に張り付けたような笑みを浮かべながら口にした。
「ユリオに匂い付けしてもらうのって、どうやってやったの?」
「匂い付け? えと、トイレでだけど」
「へえ、トイレか。具体的に、どうやって?」
 さらに先を促すように首を傾げられ、何だか妙に食いついてくるなあとぼんやりとした頭で考える。
 そしてそこでユリオが匂い付けをするということは、恋人関係だと取られてもおかしくないと口にしていたことをふと思い出す。つまりセックスをしたのかと遠回しに訊ねられているのだとそこでようやく気付くと、ワタワタと慌てながら違う違うとぶんぶんと首を振った。
「もっ、もちろんユリオとはぜんぜんそんなことしてないからっ! だから、手で……こう、ベタベタってしてもらっただけで」
 そこで手の平を自分の首とヴィクトルの首の間で行き来させると、安心したのか。頬に添えられていた手の親指で、目元をすりすりと撫でられる。
 しかしそれにうっとりとしたのも束の間。
 その直後に、そんなに俺から離れたかったのかなとぽつりと呟かれた言葉にはっと目を見開く。だってヴィクトルがそんな風に寂しそうな、切なそうな表情を浮かべるのは、滅多に無いことなのだ。
 だからすぐに首を振ってそうじゃないとアピールするものの、じゃあどういうことなのだと自問自答をし、ヴィクトルに嫌われるためだったということを思い出すと力なくうなだれて唇を引き結んだ。
(ああ……)
 そういえば、そうだった。
 そうやってヴィクトルに嫌われることで、彼への恋心を諦めようとしたのだ。そしてその計画も結局失敗して、このザマという事実がなんとも情けない。
 でもいくらその計画が失敗したとしても、己の恋心をヴィクトルに知られるのだけは絶対に避けなければならない。
 何故ならそれで仮に一時的に良い思いが出来たとしても、勇利にヴィクトルとの揃いの痣が無い以上、それは永遠では無いのだ。
 だからわざとらしいのを承知で、ヴィクトルの首筋に腕を回してあからさまに媚びることで先ほどの行為の先を暗に促す。
 しかしヴィクトルは勇利のそんな魂胆などお見通しなのか。背中を手の平でゆるゆると撫でながら小さく苦笑を漏らすのみで、それに乗ってくることは無かった。
「勇利、それだと今までの繰り返しになっちゃうよ。俺は出来れば、前に進みたいと思っているんだけど。
 それと、あともう一個は俺の都合になっちゃうけど。今日の俺はかなり余裕が無いから、試すようなことは無しだとありがたいんだけどな」
「ふ、わっ……!?」
 そこで両肩を掴まれて一度上体を離されて間近から瞳を覗きこまれると、そのスカイブルーからもう目が離せない。さらには甘えるように、鼻先同士を擦り合わせてくるのだ。
 その様子はそれまでのどこか性急さを帯びていた様子とは一転し、蕩けるような甘やかさを含んだもので。そんな慣れない触れ合いにくらくらする。
 そしてそんな空気の中で、嘘をつき通すだけの精神力などあるはずもなく。というかそれまで一生懸命身にまとってきた偽りの殻を、そうやって見つめられることで、一枚ずつ丁寧に剥がされていっているような感じがするのに、ぐっと唇を噛みしめた。
 お正月に勇利がヴィクトルの手を突っぱねたのをきっかけに、ヴィクトルは勇利にそういうちょっかいを一切出さなくなった。そしてその代わり、前のように女性と遊ぶようになったのだ。
 恐らく彼にしてみれば、たかが遊びの関係にも関わらず、勇利のようにああだこうだと文句を言ってくる人間は酷く煩わしかったことだろう。
 にも関わらず、こうして再び手を伸ばしてきてくれたということは――それはよほど身体の相性が良いか、あるいは本当にそういう意味で好いているかのどちらかなのだろうと考えてしまうのも無理は無いだろう。
 そして勇利は、彼と身体を繋げたことは今まで一度も無い。となると、残る答えは一つしかない。
「なん、で? どうして、そういう試すようなことを言うんだよ……!」
 数ヶ月かけてようやく落ち着いてきたところだったのに。それなのにまたこうして揺さぶってくるなんてあんまりだ。だって本心では彼のことが好きなのだから、そんな思わせぶりなことを言われて無視出来るはずが無いのだ。
 おかげで頭の中は混乱状態で、思ったことをそのまま吐露してしまうし最悪としか言いようがない。
 そしてこうしてヴィクトルに当たっている自分自身も、最高に自分勝手で大嫌いだった。
「もう止めようよ、こういうのは。今までみたいにビジネスライクな関係で十分じゃないか」
「ねえ勇利、ちゃんと聞いて。俺はね、勇利のことが好きなんだ。もちろん、そういう意味で。ただこういう感情って初めてだから、パーティーでユリオと一緒にいるところを見ても、もやもやした感情がどこから来るものなのかがよく分からなくて。でもさっき南と一緒にいるところを見て、ようやくちゃんと理解したよ。勇利のことが好きなんだって」
「あ、ああ」
 もしかしたらとは思っていた。しかし妄想と現実とでは、それに受ける衝撃の違いは雲泥の差だ。
 好きという言葉が耳から脳へと伝わり、その意味を理解した瞬間に先ほど噛まれたうなじと、あとは目の奥あたりがカーッと熱くなるような感覚が走ったのに思わず口元を手で覆う。しかしそれとは裏腹に、身体の芯が急激に冷えてもいた。
 そして気付いた時には、頬を包むように添えられていたヴィクトルの手の中から抜け出し、乱れたシーツをただただじっと見つめた。
「止めようって言ったのに。どうして、言っちゃったの」
「うん、そうだよね。随分と好き勝手なことをして、勇利のことをたくさん傷付けてしまったし……自分勝手でごめん。でも俺の自惚れでなければ、それはつまり勇利も俺と同じ気持ちだって言っているように聞こえるんだけどな。それなのに拒否するっていうことは、俺が色々な人と関係を持ってきたことに怒っているとか?」
「――っ、」
 ヴィクトルに指摘されて初めて、うっかりと口を滑らせて己の恋心を遠回しに吐露していたことにようやく気付く。
 しかし今さら違うと否定するのもわざとらしいので、結局グッと押し黙ることしか出来ずにいると、恐る恐るといった様子で背中に腕を回されて。耳元に頬をスリと擦り寄せるようにしながら、どうすれば勇利は許してくれるのかなとポツリと呟く声が聞こえてきた。
 でもそれは違うと思う。だってもともとヴィクトルは昔からそんな感じだったので、今さらというか。
 とか何とか言いつつ、世界選手権のバンケットの時に女性を同伴してきた時には、ひどく打ちのめされたのも事実なのだが。ただ勇利はヴィクトルにとってのただの生徒でしかないので、彼の私生活にまでとやかく言えるような立場には無いというのは一応理解している。
 したがって思わず小さく苦笑を漏らしながら首を振ると、少しばかり安堵した様子で顔を覗きこまれ、じゃあどういうことなのというように小首を傾げられた。
「なんだかそれはそれで、まるで嫉妬されていないみたいで残念に思えちゃうな。でも、それじゃあ、本当の理由は何なんだろう」
 教えて欲しいなと目の前で切なげな表情で請われて、思わずうっと息をのんでしまう。
 ただよくよく考えてみると、すでに己の恋心まで知られてしまっている今となっては、その理由を隠すことにあまり意味が無いのも確かなのだ。というかむしろ話してしまった方が、気持ちを理解してもらえそうな気がしなくもない。
 したがってそこで全てを諦めると、小さく分かったよと答えた。
「まあつまり……僕には、ヴィクトルと揃いの痣が無いから」
 ああ、ついに言ってしまったと思う。これで全部だ。もう隠していることは、何も無い。
 言葉にするとたった一言でしかない理由に、少し馬鹿らしさを覚えてしまう。ただ痣があると無いのとでは雲泥の差があるんだよなと考えつつ、そういうことだからと吐息混じりの言葉を口にした。
 そしてこの話しはもう終わりだと目の前のヴィクトルの胸元を押したところで、ふと自身の右手の薬指が視界に入る。するとそこには未だに薄っすらと引っかき傷の痕が残っており、そのせいで揃いの痣を疑似的に付けていた時のことを思い出して複雑な気持ちに包まれた。
「勇利、それ、どうしたの?」
「えっ? あ、ああ……指輪をしてたところなんだけど、引っかき傷がまだちょっと残ってるだけだよ」
「引っかき傷?」
 明らかに何故そんなところにというのがありありとその表情に浮かんでいる。しかし指輪の痕を見るのが嫌で引っかきました。――なんてことを、言えるはずも無いだろう。
 したがって指輪がなかなか外れなかったからともっともらしい理由を適当に口にすると、ヴィクトルは少しばかり眉間に皺を寄せながらその手を取るのである。そしてまじまじとその場所を見始めたのに、内心冷や汗をダラダラと垂らした。
「えーっと……」
 勇利にしてみれば、傷が出来た本当の理由が理由だけに、そうやって観察されるのは非常に気まずい。加えてヴィクトルは妙に感が鋭いところがあるので、なおさらにだ。
 だからそろそろ勘弁してくれないかと、遠回しに何度も訴えて。数度目の大したことないからという言葉を発したところで、ヴィクトルはようやく顔を上げてくれる。
 そして彼が、ずっと痕が残ってるんだねと口にした言葉に不穏なものを感じながらも、おずおずと頷いた。
「だいぶ、爪立ててバリバリ引っかいちゃったから」
「ああ、そうみたいだね。でも引っかき傷の方は、あと少しで消えそうな感じだ。
 ところで。勇利が指輪を外したのって、世界選手権の時だよね。あれから二週間は経ってるのに、まだ指輪の痕が残ってるように見えるんだけど、気付いてる?」
「へ?」
 あんまりにも予想外の問いかけだったのに、思わずポカンと口を開けてしまう。おかげで指輪を外した時期までちゃんと把握していたんだという言葉まで、あっという間にふっとんでいってしまった。
 そして彼の言葉に促されるように右手を眼前にかざし、かれこれ二週間ぶりにそこをまじまじと見て……するとそこに確かに、ほんのりと薄桃色の円環の痕があったのにゴクリと喉を鳴らした。
「――って、いやいや! ちょっ、ちょっと待って」
 その場所は意識的にあえて見ないようにしていたので、指摘されて初めてその変化に気付いた。それもあり、いきなりのことに理解が追いつかない。
 加えてそれはずっとずっと喉から手が出るほど欲しかったものなので、脳がすぐにヴィクトルとお揃いの痣だという答えに飛びつきかけてしまう。
 そして今の口振りから察するに、ヴィクトルも揃いの痕じゃないかと言いたいのだろう。
 しかし勇利は、自身の右手をかれこれ二十五年も見続けてきているのだ。そこに痣の気配すらあったことなど一度も無いというのは、誰よりもよく知っている。そしてそんなものが突如そこに現れることも、まず有り得ない。
 したがって未練の気持ちをほんのりと滲ませてしまいながらも、長い間指輪をはめてたせいじゃないかなと誤魔化し笑いをしながら反対の手でそこを覆い隠した。
「まあ……そういうことだから」
 勇利自身本物の痣の痕であればいいのにとちょっぴり思っているのもあり、これ以上ここにいては彼のペースにはまってしまいそうで怖くてたまらない。
 でもそれだけは絶対に避けなければならないのだ。だってこの右手の奇妙な痕がまがいものだったら、それは勇利にとってとんでもなく悲劇的な結果をもたらすのである。
 したがってとりあえず、まずはこの場から立ち去ろうと算段すると、落ち着きなく視線を彷徨わせながら、まずは自分の置かれている状況の理解に努めるのに専念した。
「えっと、」
 なんだかんだと尻の孔に指まで突っ込まれてしまったものの、幸いにして服はズボンのチャックを開けられただけなので、一応すぐに外に出られる状況だ。
 とはいえ下着の方は、先走りとローションで酷い有様なのだが。これについては我慢するしかないだろう。
 そして身体の方も。少し前までは発情期やらマタタビやらで大分骨抜き状態になっていたものの、ここにきて驚きの連続だったおかげか。頭の方はややぼんやりとしつつも理性の気配はちゃんとあるので、これなら部屋まで問題無く戻れるだろう。
 そこまで考えたところで一つ頷くと、えへへと愛想笑いをしつつヴィクトルから身を引き、ベッドから降りようとしたのだが。
「こーら、勇利。今重要な話をしているのに、どこに行こうとしているの?」
「ちょっ、うわっ!?」
 案の定ヴィクトルが腕を掴んできたのに振り返ると、彼は口元にニッコリと笑みを浮かべており、逃がさないぞと考えているのが一目瞭然だ。
 それにやっぱりこうなるかと内心焦っている間に、ズルズルと引きずられる格好で元居た場所まであっという間に引き戻されてしまうと、今度は仰向けの格好で押し倒されて。さらに彼は勇利と目が合うと、口元に妖艶な笑みを浮かべるのだ。
 それは壮絶なほどに美しく色っぽい。
 そしてその直後に覚えのある甘い香りがヴィクトルの方から漂ってきて、途端にゾクゾクとしたものが背中を這い上るのを感じたのに、思わず両腕で自分自身の身体を抱きしめた。
「……――っ!」
 ほんの少し前まではほのかにしおらしさのような気配も漂わせていたのに、いつの間にかそんなものはどこへやらだ。その代わりに身にまとわせている壮絶な雄の色気に、油断していると花の蜜を求める蜂のようにふらふらと引き寄せられてしまう。
 それにこれは不味いと、咄嗟にヴィクトルの腕の中から抜け出そうと往生際悪くもがきもしたのだが。ズボンからはみ出ていた急所の一つである尻尾を、遠慮の無い力加減でむんずと掴まれてしまったからたまったものではない。
「は、あぁ……っ!」
「悪い子だなあ」
 途端に全身から力が抜けて再び彼の腕の中に囚われると、今度は逃げられないようにするためか。両膝の間に身体を割り込まされて、さらに顔の両脇に手を付かれてしまう。つまりは上半身と下半身の両方をロックされてしまった形だ。
 ここら辺は、さすが手慣れているというか、場慣れしているというか。それにぐぬぬと呻くしかない。そしてこうなってしまっては、あとは唯一自由な口で対抗するしかなくなってしまう。
 というわけで、これじゃあ前と一緒だって最初に止めてきたのはそっちの方じゃないかと口にしたのだが。それに対してヴィクトルはやれやれといった様子で肩を竦めてみせた。
「まったく……往生際が悪いなあ。さっきとは、状況が全く変わったじゃないか」
 まあ勇利が本気で嫌がっているなら話は別だけどねと付け加えてくるあたり、ずるい。
「それに、勇利も俺のことが好きだって知って、どうしてここで手を引くと思う? それにこの痣は、本物だよ」
「またそうやって根拠の無いことを言って……」
 これがスケートのことならまだしもである。だからそんな言葉、全然あてにならない。
 でもその一方で、それにすがりたいと思っているのも事実なのだ。おかげで、それを信じてもしも違かったらどうしてくれるんだよという最後の方の声は、今にも消え入りそうなものであった。
「勇利は心配性だなあ。もしもこの痣が本物で無かったとしても、俺は勇利を選ぶよ。そもそも俺は痣の有る無し関係無しに、勇利に惹かれていたのは事実なんだから」
「それ、今まで付き合ってきた女の人皆に言ってるでしょ」
 半分はこの場を切り抜けるための売り買い言葉で、もう半分は本音だ。しかし彼は意外にも言ってないよとはっきりと口にしながら、再び唇同士が触れ合いそうなほどに互いの距離を縮めてくる。
 そしてどうしたらこの想いが伝わるんだろうと少しばかり困った様子で口にした。
「こういうと軽蔑されてしまうかもしれないけど。俺が心から愛しているって思ったのは、勇利が初めてなんだよ。そうでもなければ、わざわざコーチに転身までしてロシアから日本まで来るわけ無いじゃないか。
 ――とはいえ、それが恋愛感情だって自覚したのは、つい最近のことなんだけどね」
 そこで触れるだけの口付けを唇に落とされたのに、カーッと頬を染めてしまう。ここでこんなことをしてくるなんて、本当にずるい人だ。
 多分もう、答えは出ている。しかし理性だけが、それを強固に反対しているのだ。
 そしてヴィクトルもそれを分かっているのだろう。
「ああ……」
 心がぐらぐらと大きく揺らいでいるのを隠すために両手で顔を覆うと、ヴィクトルは勇利のそんな心の隙間にスルリと入り込んでくるかのように、すぐさまその右手を取り上げる。そしてまるで誓いのキスをするかのように薬指に唇を触れさせるのだ。
 それに驚いて思わず彼の方へ視線を向けると、思いがけずその瞳と真正面からバチリと目が合い、さらにそこを甘噛みされる甘い鈍痛にたまらず顔を歪めた。
「発情期とか痣とか、そういう勇利の意志とは関係の無い問題はひとまず脇に置いておいて、本心を教えて欲しいな。俺個人としては、何よりそれが一番大事だと思っているんだけど」
 目の前のスカイブルーは、まるで凪いだ海のように静かで、息を呑むほどに美しい。そんな真摯な瞳に見つめられて、どうして嫌いなんて心にもないことを言えるだろうか。
 そして気付いた時には泣き笑いのような表情をしながら、ずっと言えなかったたった数フレーズの言葉を口にしていた。
「好きだよ、ずっと」
 これ以上抗うのは、もう無理だと思って口にした言葉は、自分自身の胸にも深く突き刺さったような気がする。これでもう、彼への気持ちを諦めることは一生無理だろうなと思った。
 ただそれと同時にそれまで胸の内に渦巻いていたもやもやとしたものがすっきりと晴れたのも事実で、なんとも複雑なところである。
 そこでちらりとヴィクトルの方へ視線を向けると、でれでれと崩れきった表情をしていて。おかげで今さらのように羞恥心が湧き上がってくる感覚にたまらず視線をふいと横にそらすと、先ほど新たに付けられた右手薬指の濃い赤い痕が目に入った。
 いっそのこと、一生その傷跡が残るくらいそこに思いきり噛みついてくれればいいのにと思う。そうすれば指輪の痕が無くなっても、そのままフリを続けられる。
 そしてそんなことをふと考えてしまうほどには、ヴィクトルのことがたまらなく好きだった。
 でも彼はついさっき勇利への恋心に気付いたと口にしていたくらいなので、これほどまでに狂おしい感情を抱いてはいないだろう。それなのに現実には勇利の方が一歩身を引いており、逆にヴィクトルに迫られているような状況なのがちょっぴり面白い。
「なんだか、変な感じがするね」
「ん? なにが?」
「もうこの際だから言っちゃうけど、僕なんて二十年近くヴィクトルのことを追いかけてるんだよ? なのに逆に追い詰められてるみたいで、なんかおかしいなあって」
 とはいえ勇利自身この感情が恋愛絡みのものであるとはっきりと自覚したのも、ここ一年ほどのことなのだが。
 そして恋愛慣れという意味では明らかにヴィクトルの方が一枚どころか百枚くらいは上手なのは間違いない。となると、この状況もさもありなんなのだろうか。
 なんてことを、目の前の現実から逃避するかのようにぼんやりと考えていると、まるで呼び戻すかのように頬を指先でスルリと撫でられる。それをきっかけに再びヴィクトルの方へ意識を向けると、彼はひどく驚いた様子で、そんなに昔から好きでいてくれたんだと呟くように告げられた言葉に、内心少々焦った。
「あっ、で、でもっ、男に二十年も追いかけられてたら、ちょっと気持ち悪いよね。いきなり変なこと言ってごめん」
 うっかりと場の雰囲気に流されて余計なことまで口走ってしまったが、冷静に考えてみると二十年も追っかけをしているというのは、どう考えてもちょっと引く。
 したがって慌てて恋愛感情だと気付いたのは、最近だからとしどろもどろになりながら言い訳の言葉を口にしたのだが。そんな勇利の焦りとは裏腹に、ヴィクトルは目元をほんのりと赤く染めながら目を細めていて。その表情は、愛おしくてたまらないといっているかのように見える。
 それからそんなに昔から好きでいてくれたんだと、うっとりとした様子で告げられた言葉に、事実とはいえひどくダメージを受けたのに、勇利はしばし固まってしまった。
「ねえ勇利、自覚していなかったとしても、それは愛だよ。嬉しいな、そんなに昔から俺のことを好きでいてくれたなんて」
 それならもう遠慮をする必要なんてないよねと続けられた言葉に、はっとした時にはもう遅い。
 開きっぱなしになっていたズボンの前立て部分からヴィクトルの手がスルリと侵入してくると、ついにズボンと下着をまとめて引きずり下ろされてしまう。
 もちろん反射的に下肢に手を伸ばしたのは言うまでもないが、ここまできてまだ抵抗するのかと一瞬自問自答してしまったせいで初動が一歩遅れてしまったのが不味かった。
 おかげで一気に腿の中程まで引きずり下ろされ、そこで脱がせやすいようにするためか。両足を胸元まで深く折り曲げられたのに目を白黒とさせた。
「ちょ、そんな、いきなりっ!?」
「ふふ。まだ一回も出してないのに、こんなビショビショにして。女の子みたいだね」
 ほら見てと口にしながら手で竿を扱かれると、クチュクチュと音が聞こえてくる。
 その音につられておずおずと下肢に視線を向けると、未だガチガチに勃起したままの状態のかわいそうな自身の陰茎が目に入り、いたたまれないなんてものではない。そしてそこはヴィクトルの言う通り。白濁液混じりの先走りとローションで濡れそぼっている。
 さらには陰茎だけではなく、履いていたズボンまで淫液が染みて濃い色に変化してしまっていたのもうっかりと目にしてしまい、なんというか……自分自身で言うのも恥ずかしいが、ちょっとエッチな光景だ。
 なんて馬鹿なことを考えてしまうのは、恐らくここまで散々お預けをくらっているせいだろうとは思うのだが。そこでいけないいけないと首を小さく振っていると、その隙にと言わんばかりについには下肢を完全に裸に剥かれてしまう。
 すると途端に精液とマタタビの濃い香りが、そこからむわりと立ち上ってきて。無防備にもそれを思いきり吸い込んでしまった勇利は、途端に意識をとろんと蕩けさせ、覚えのあるゾクゾクとした感覚が湧き上がってくる感覚に身体を大きくくねらせた。
「は、ああっ」
「ああ、またマタタビにやられちゃったのかな。すぐトロトロになっちゃって、可愛いなあ。もっと気持ちよくしてあげるからね」
「ふ、え?」
 正直、ヴィクトルの言っていることの半分も理解していない。したがって発情の熱とマタタビの酩酊感でぼーっとしながら首を傾げると、指の背ですりすりと頬を撫でながら含み笑いを零される。
 それから彼の顔が下肢まで下がっていき、陰茎の目の前で形の良い唇が開くのを完全に他人事のような感覚でぼんやりと見ていた次の瞬間のことだ。
 陰茎が口内へ含まれ、さらには剥き出しの亀頭を舌でベロリと舐め上げられたのにビクビクと腰を大きく跳ねさせた。
「~~っう、んんんっ! きもち、ひ、からぁっ……そこ、だめぇっ、ううーっ」
「ん……でも、すごい、先走りが溢れてきた。それに気持ち良いって自分で言ってるのに、それなのに駄目なんて、可愛いこと言うんだから。恥ずかしいのかな」
「そ、じゃなくて……っ!」
 いや、まあ恥ずかしいというのもあるが。でもそういう意図でその言葉を口にしたのではなくて、本当に限界がすぐそこまで近付いているから不味いのだ。
 だってそもそもヴィクトルに陰茎を銜えられているだけでも有り得ないのに。このままだと精液まで飲ませることになってしまう。そしてそれだけは、絶対に駄目だ。
 だからその理由をきちんと説明しようと思うのに、ヴィクトルは我関せずといった様子で露わになった敏感な亀頭をキュッと締め上げてくるのである。さらには駄目押しというように、尖らせた舌先で普段よりもだらしなく口を開けてしまっていた先端の小さな口をグリグリとくじられてしまっては、ひとたまりもない。
 そしてその直後、勇利はせり上がってくる射精の衝動に背中を小さく丸め、下肢を数度大きく跳ねさせる。それと同時に、陰茎の先端から大量の精液をドプドプと溢れさせていた。
「はっ、はぁっ……! んん、ぅ」
 かれこれ二度も空イキさせられてからの、ようやくの射精のせいか。なかなか止まらない精液の流れに、思わずヴィクトルの髪の毛を両手でかき混ぜるようにしながら固定し、本能的に腰をゆさりと動かしてしまう。
 すると偶然、陰茎の先端が口蓋のザラザラとした箇所に擦れたのか。ジンとした熱が再びそこから広がる感覚に、そこがヴィクトルの口だというのも忘れてへこへこと前後に腰を動かしてしまうのが止まらない。
「あ、うう……いい、よぉっ」
 何だか本当に挿入しているみたいだ。なんて童貞丸出しな馬鹿なことまで考えてしまう始末だ。
 そんな妄想も手伝ってひどく興奮を覚えてしまったのもあり、亀頭を口蓋にゴリゴリと擦り付けるようにしながら出し挿れを繰り返していると、途中で吸い上げられるような感覚も加わり、再びあっという間に追い込まれてしまう。
 そして先走りが再びトロリと溢れる感覚に思わず腰の動きを少し止め、はあはあと荒い息を吐いていると唐突に腰を掴まれる。それから陰茎が強制的にズルリと引き抜かれる感覚に何でと思いながら下肢に目を向けると、口端から恐らくは先ほど飲み込みきれなかったと思われる精液を零しているヴィクトルの姿が目に入ったのに驚き――しかしそれと同時に興奮も覚えてしまったせいで、思わず大きな音を鳴らしながら喉を鳴らしてしまう。
 するとヴィクトルは目を細めながら親指で精液を拭い、まるで見せつけるかのようにそれをねっとりと舐め上げるのだ。
 その光景は、まるで陰茎を舐めているみたいだ。なんてことを考えてしまうあたり、勇利の方も相当かもしれない。
「ん……勇利、すごく気持ちよさそうだったね。まさか勇利のそんな姿を見られるとは思わなかったから嬉しいな」
「あっ、ご、ごめっ!? ぼ、ぼく、ヴィクトルになんてことを……っ!」
「何故謝る? 俺としては勇利のオナニーを間近で見られて興奮したけど。でも、その様子だとまだまだ足りないかな」
 そこで勃起した状態の陰茎を指先でピンと軽く弾かれると、たったそれだけの刺激にも関わらずさらに竿がググと反り上がってしまって恥ずかしい。でもそれと同時に、ひどく高揚感を覚えてもいるのだ。
 だから膝裏に手を差し込まれて胸元まで持ち上げられ、ヴィクトルの目の前に陰部が丸見えというとんでもなく恥ずかしい格好をさせられても、その口から漏れるのは熱い息のみで。それどころか取らされた体勢から、いよいよするのだろうかと興奮を覚えている始末である。
 そして荒い息を吐きながらヴィクトルのことを見上げると、彼はまるで全てお見通しだというようにうっそりとした笑みをその顔に浮かべて。陰茎のさらに奥にある尻の孔を、指先で思わせぶりにことさらゆっくりと辿った。
「下の口もパクパクいって、早く頂戴って言ってるみたいだ。こんなに可愛く誘うものだから、てっきり慣れてるのかと思いきや。実はセックスが全くの未経験だったなんてね」
「ひゃ、う、うう」
 俺を騙して悪い子だと耳元で囁くように口にしながらズブリと再び指を挿入されたのに、反射的に両足を閉じようとする。しかし足の間にはヴィクトルが陣取っているので、それが叶うはずもなく。
 むしろもっとと要求するように両足でその身体を引き寄せる形になってしまったせいで、太股の付け根にヴィクトルの硬い陰茎がぶつかったのに、ヒッと息を飲んだ。
 とはいえ、それ自体はどうということはないのだが。ただ指を前後にズブズブと動かしながら陰茎を押し付けられると、腰の動きが思わせぶりというのも相まって、ちょっと興奮してしまうというか。
 しかもヴィクトルは途中で腰の動きを止めると、片手で器用にズボンを下げ、見慣れた黒い下着を露わにする。しかしそれは面積が小さいので、当然ヴィクトルの勃起した陰茎をおさめきれているはずもなく。縁からは亀頭がはっきりと顔を覗かせている。
 そのひどくいやらしい光景に、勇利は目を釘付けにしながら思わずゴクリと喉を鳴らした。
「あーあ。もうちょっと、楽しみたかったんだけど。勇利がひどく煽るものだから、俺ももう我慢出来ないよ」
「う、ぁ」
 ヴィクトルが下着の縁に指を引っかけてずり下げると、中から勃起した陰茎がブルリと顔を出す。それはともかく極太で、凶悪という一言に尽きるだろう。
 ところどころ血管の浮いた竿はでっぷりとしており、皮も完全に剥けているのは言うまでもない。そして露わになっている亀頭のカリも段差がくっきりとあり、それで中をかかれたら何だかとっても凄そうだ。そしてそこから匂い立つ雄臭さはかなりのもので、見ているだけでもひどく性感を煽られるのに思わずはあと熱い息を吐いた。
 そもそも経験など無いので気持ち良いのかすら分からないのに。何だかよく分からないが、それが欲しくて欲しくてたまらない。
 そしてついに我慢出来なくなって腰をくねらせるようにして自身の陰茎をそこに押し付けて言外に誘うと、こらと怒られてしまった。
「もう少しちゃんと解さないと。それにゴムも付けないとだからしばらく我慢だよ」
「ううー……いいから、はやく。ね?」
 おねがいと小首を傾げながら、催促するように淫筒をキュッと窄める。ついでに腰を前後に揺らめかせると、中の指の形をはっきりと感じ取れるせいだろうか。異物を挿入されているのだという感覚に、何故かひどく高揚感を覚えてしまう。
 そしてその感覚の虜になって思わずゆさゆさと腰を動かしていると、二本目の指を挿入されて。さらに三本目の指も挿入されると、さすがに少しばかり苦しい感覚を覚えたものの、むしろそれに劣情を煽られてさらに大きく腰を大きく揺らめかせてしまう。特に腹側の内壁中程に指の腹が当たるように腰を回すと、そこからむず痒い感覚がじわりと広がって癖になる。
 感覚としては、精通前にオナニーをしていた頃に感じていた熱に近いだろうか。陰茎を弄った時ほどの強い快感は無いものの、射精という終わりが無い分、再現無く感じていられそうな。そんな感じがたまらない。
 そして調子に乗って執拗にそこにばかり指を擦りつけていたので、さすがにヴィクトルにもバレてしまったのか。それまでほとんど動かなかった指の束が、突然その場所をグーッと押し上げてきたのに背中をグッと弓なりに反らした。
「う、あああっ!」
「勇利、さっきからここの膨らみばっかり弄ってるけど、もしかして前立腺なのかな。そんなに気持ち良い?」
「しょこ、いい、いいよぉっ!」
 そうなんだと含み笑いを零しながらグッグッと断続的に押し上げられると、自分で刺激を加えるよりも明らかに強い刺激に腰が不規則にブルリと震えてしまう。
 そしてその指の動きに合わせるように、自分も腰を動かそうとしたのだが。そこで唐突に指の束を引き抜かれてしまったのに目を瞬かせていると、しばらくして尻の孔の中心にグッと熱い塊を押し付けられたのに小さく息をのんだ。
「な、にっ?」
「指よりもっと太いので、さっきの気持ち良い場所をゴリゴリってしてあげようか?」
 下の口は散々弄くり回されたおかげで、大分緩んできているのか。軽く力をこめられるだけでツプリとそれが押し入ってくる感覚に慌てて下肢に目を向けると、そこにいつの間にかゴムを装着したらしい極太の陰茎が押し当てられていたのにゴクリと喉を鳴らす。
 するとそこも締まったのか。あのヴィクトルが小さく呻くような声を漏らしながら、仕返しだというように体重を軽くかけられたせいで、口が亀頭の形にそって開いてしまう感覚にシーツをぎゅっと握りしめた。
「はっ、はぁっ! なか、きたぁ……っ!」
「うん。俺の、このまま勇利の中に挿っちゃいそうだね」
 勇利からもよく見えるようにしてあげるねと口にしながら腰の下に枕を突っ込まれたせいで、さらに腰が持ち上がって結合部が丸見えだ。
 無論それは童貞の勇利にはひどく刺激の強い光景なのは言うまでもなく。一度見てしまうと、もう目を離すことが出来ない。
 それから孔をその太さに慣れさせるためか、何度か亀頭を出し挿れされて。プチュプチュというローションの粘着質な音と、指で散々刺激を加えられたせいで、常よりも感覚が鋭敏になっている縁部分を執拗に擦られる感覚に、ひどく劣情を煽られるのにたまらず淫筒をギュウと窄めた瞬間のことだ。
「はっ……勇利、挿れるよ」
「んっ、んんーっ!」
 腰を両手でガッチリと固定され、結合部にさらに体重をかけられる感覚に思わず目蓋を閉じる。その直後、淫筒の中に思ったよりも呆気なく一番太いカリ首がヌルリと入り込んできて。そしてそこさえ通り過ぎてしまえば、あとは侵入を遮るものは何も無い。
 力をかけられるがまま陰茎の中程まで一気に飲み込んでしまったせいで、カリ首の段差にこれでもかと言わんばかりに内壁をゴリゴリと捲り上げるように刺激を加えられる。
 さらには先の宣言通り。前立腺と呼ばれる箇所を先端でグーッと押し潰されたのに、爪先まで力をこめてピンと足を伸ばしながら大げさなほどに下肢をぶるぶると震わせた。
「まって、まだそんな、いきなり――~~ッッ、ア、あああっ!?」
「ははっ。勇利、初めてなのに挿れただけでイっちゃった?」
 そんなにここって気持ち良いんだと、前立腺をカリ首でコリコリとかくように優しく刺激を加えられると、そのたびに甘い熱がそこから広がり、いまだ力の入ったままの足先がピクンと断続的に跳ねてしまう。おかげで残滓混じりの先走りが、まるで押し出されるかのように勃起したままの陰茎からトロトロと溢れ出てくるのが止まらない。
 でもまだ達したばかりで、一杯一杯だ。だからせめてその熱が引くまでは勘弁してとやだやだと首を振るものの、ヴィクトルはそんなのお構いなしだ。
「でも勇利、先走りが出っぱなしだよ。それに発情期の甘い匂いも最初よりどんどん濃くなってきてる」
 そこで上体を倒しながら首筋に顔を埋め込まれると、むせかえりそうだとうっとりとした声音で囁かれる。ただしそうやってヴィクトルが圧し掛かってくるということは、それだけ体重がかかるということで。
 これでもかと言わんばかりにグググと前立腺を押し潰される感覚に、ガクッガクッと腰が大げさなほどに揺れてしまう。
 さらにそれと同時に下肢から喉元まで熱の塊が急激にせり上がってくる感覚に、もう勘弁してくれと思いながら懲りずにずり上がるようにしてそこから逃げようとしたのだが――当然目の前にいるヴィクトルがそれに気付かぬはずもないだろう。
 勇利の耳元で逃がさないよと囁く声音はひどく甘ったるいものだったが、その連れ戻し方はなかなかにえげつなく。敏感な尻尾をギュッと掴まれたせいで全身から力が抜けたところで、あっという間に元居た場所に引き戻されてしまう。
「いや、だめっ! まだイってっ――ヒ、ぎぃっ!?」
「遠慮しないで。まだまだいっぱい、気持ちよくしてあげるからね」
 そして今度は逃げられないようにするためか。膝を胸元まで思いきり引き上げられ、その状態で再びズブブと極太の陰茎を中程まで挿入されてピンポイントでグーッと前立腺に圧をかけられると、途端に下腹部にぶわりと重苦しい熱が広がっていく。
 そうしてさらに無理矢理高みへと押し上げられる感覚に淫筒が大きく蠢き、中の陰茎をギュウギュウと締め上げる動きが止まらない。
「こーら、勇利。そんなに締め付けたらすぐに持っていかれちゃうよ」
「んっ、うっ、ううーっ!」
 そんなことを言われても、尻の孔の動きはもはや勇利の意志ではどうにもならないので、ふるふると首を振るしかない。
 するとヴィクトルは高ぶった神経を落ち着かせるかのようにふうと小さく息を吐いて。それからは先ほどまでのゆっくりとした動作とは一転。窄まった淫筒で陰茎を扱くように激しく出し挿れを繰り返される動きに、ただただ翻弄される。
 カリ首でこれでもかと前立腺の膨らみをコリコリと刺激され、気まぐれに先端でグーッと押し潰されて。
 さらにそこですっかりとその存在を忘れていた尻尾を根元から先端まで指先でツーッと撫でられ、その根元をトントンとリズミカルに叩かれてから駄目押しとばかりにグニグニと揉まれると、尻尾がピンと反り上がってしまう。
「は、うう……それ、ぇ――っ、あ、んんんっ!」
 そしてそこで再び限界点を突破してしまうと、腰を大げさなほどにガクリと大きく震わせ、気付いた時には陰茎からまるで漏らすかのように大量の精液を溢れさせてしまっていた。
 ただしヴィクトルの方はまだ達していないので、行為はここで終わりではない。
 したがって射精時の余韻で不規則に蠢いてしまっている淫筒の感触を楽しむかのように、その後も何度も深く陰茎を押し付けられるのに、大きく喉を鳴らした。
「う、ぐっ」
 射精直後というのもあってか。正直なところ気持ち良い感覚よりも苦しい感覚の方が強いので、これ以上は勘弁して欲しいというのが本音だ。
 でもヴィクトルも限界が近いんだろうなというのは、同じオスとして何となく分かる。だから喉元まで出かかっている制止の言葉を何とか飲み込み、与えられる刺激を一生懸命受け止める。
 するとそこで、思いがけず前立腺よりもさらに奥深くまで挿入され、小刻みに亀頭を動かされた直後にクッと腹側の内壁を押されて。
 それにたまらず呻き声を漏らしていると、さらにグググと圧がかけられてその動きが一瞬止まる。そこでどうやら射精をしたらしいと察すると、それまでずっと詰めていた息を大きく吐いた。
「はっ、あ……」
 ようやく終わったと思う。
 これでも一応何度かそういう動画のお世話になってしまったことがあるのだが、現実は映像よりももっとずっとエッチで、ドロドロだ。
 間違いなく癖になってしまいそうな深い快楽の余韻に、全身の力を抜く。
 しかしそこで挿入されたままの陰茎が再び動き出す気配に、慌てたなんてものではない。
「えっ? あの、びくとる?」
「はぁっ……勇利の中、すごく気持ち良くて癖になっちゃいそう」
「い、いやいやいや、ちょっと、待ってっ! 大体さっき出してたのにスキン付けっぱ――ッ、あ、ぐうっ!?」
 二人とも射精をして、だから終わりだろうと思っていたのに。まさかの続投する気満々のヴィクトルの言葉に、本当に勘弁してくれと思う。
 だって勇利の方は、空イキも含めるともう何度イかされたか分からないほどイかされまくっているのだ。どう考えても、さすがにこれ以上は辛い。
 しかしヴィクトルはというと、まるで勇利の言葉を聞き入れるつもりは無いのか。この辺かなと独り言をぶつぶつと呟きながら、淫筒の奥を亀頭で執拗に撫でてくるのだ。
「もっ、さっきから、なんなのっ?」
「ん? ああ。さっきイかせてあげた前立腺は、勇利の男の子の場所だからね。あとは女の子の場所を弄ってあげないと」
「なに、いって」
「あれ? わりと有名な話だけど、もしかして知らないのかな。一応勇利の外見は雄だけど、耳付きの段階だと雌の名残の器官がまだ中に残っているんだよ。だから今の段階からそこを丁寧に刺激してやると、耳が落ちた後でもちゃんと使えるんだって。例えばさっきから探してる子宮とかね」
「へ」
 ヴィクトルの言っていることは、義務教育期間中に保健体育の授業で習うことなので、一応知識として知ってはいる。
 ただ勇利はすでに雄として二十五年間生きてきているので、今さら子宮うんぬんと言われてもさっぱり実感が湧かないのも無理はないだろう。
 したがって思わずその場の空気を読まずにぽかんとした表情を晒してしまうものの、それに反してヴィクトルはというと口元の笑みを深める。
 そして恐らくここで間違いないと思うんだけどと口にしながら、最奥の壁のようになっている箇所の少し手前側にある、少しだけ窪んだ箇所をカリ首ですりすりと擦ってくるのに、思わずくんと鼻を鳴らしてしまった。
「ふ、ん……っ」
 そこは先ほどヴィクトルが射精する直前、執拗に刺激を加えてきたところだ。
 その時にも何となく違和感はあったのだが、こうして重点的に刺激を加えられると、そこが他とは明らかに異なるのが分かる。
 なんというか、むずむずとした中途半端な感覚が背中を這い登ってくるのに、もっとという言葉が思わず口から出てしまいそうになってしまうのだ。
 しかしそれを口にしてしまったが最後。そこを攻め立てられるのは目に見えているので、唇を真一文字に引き結んで声を出さないように努める。
 そうして何とか二ラウンド目をやり過ごそうとしたのだが、そもそもセックスの最中に隠し事が出来るはずもなく。しばらくしてヴィクトルは口元をニンマリと緩めながら、ふーんと鼻を鳴らした。
「一応聞くけど。勇利はそれで、隠してるつもりなのかな」
「な、に?」
「顔はさっきより真っ赤で目もうるうるしてるし、涎まで垂らしちゃって。とろとろで、早く食べてくださいっていう感じだ。しかも中なんて、さっきから吸いついてきて、締め付けがすごいんだよ」
「待っ――きゃうっ!?」
 その言葉を境に、それまでの中を探るような緩やかな動きはどこへやらだ。
 今度は両足共に肩の上に抱え上げられると、上体に覆い被さるような格好で再び下肢に体重をかけられて。すると先ほどよりも明らかに挿入が深まり、ヴィクトル曰く子宮の名残のような箇所の入り口をグーッと押し上げられる感覚に息が詰まる。
 加えてそれと同時に、淫筒の途中にある前立腺の膨らみも、竿でグニグニと圧迫するように刺激されているのだ。
「ん、うぅ……っ! そこ、なんかへんだから。おねがいだから、待って、てばぁ……っ!」
「ふふっ。変じゃなくて、気持ち良い、だろう? さっきから先走りが漏れっぱなしじゃないか」
「も、むり、むりぃ……っ!」
 今までで一番強い圧迫感に、もう許してと目の前のヴィクトルの胸元を両手で必死に押す。
 しかしその直後、不意にそこがパクリと割り開くような感覚が走って。ツルリとした先端がそこにはまりこむのと同時に、子宮口の縁を舐めるように刺激されると、途端にムズムズとした甘い熱が広がる感覚にたまらずブルブルと下肢を震わせながら両目を見開いた。
「なっ、なに、これぇ……っはっ、あ、ああっ!?」
 しかも陰茎の侵入はそこで終わりでは無く、もともと体重をかけてそこを圧迫されていたのもあり、ズブブとさらに奥まで亀頭を飲み込んでしまう。
 そしてそこで仕上げと言わんばかりにズンと腰を突き入れられると、カリ首の一番太い箇所が子宮口からグポリと抜け落ちて。その衝撃と同時に頭の中で何かが弾け、下腹部全体に重苦しい熱が広がる感覚に声にならない嬌声を上げながら、背中を弓なりに反らした。
「かはっ!?」
「ん……挿ったね。ていうか、もしかして今ので軽く中イキしちゃった?」
 至近距離から顔を覗きこまれ、頬を指先でなぞられる。
 しかし子宮口を亀頭でこれでもかと舐め上げられ、さらにそれをズッポリと挿入された衝撃に完全に飲み込まれていたのもあり、もはや目の焦点すらも合わない状態だ。
 おかげで指先のちょっとした刺激ですら大げさなほどに反応してしまい、ギュウギュウと中の陰茎を締め付けてしまう。
「――ッ。こ、らっ……そんな、いきなり締め付けたら、俺も抑えが効かなくなっちゃうじゃないか」
 それから少しの間、ヴィクトルは耐えるように息を詰めながら腰の動きを止めていたのだが、下腹部に広がる熱がなかなか引かないのに逆に勇利の方がひどく焦れてしまって。思わず大きくゆさりと腰を揺らすと子宮口から亀頭がヌポリと抜け落ちてしまう。
 それならとおずおずと腰を回すように動かしてみると、先端のツルリとした箇所がちょうど子宮口に当たったのか。そこをコリコリと刺激されるたびに、思いがけず広がる甘い熱に再び骨抜き状態だ。
「あ、うう……しょこ、きもちひ、っ」
 奥を突かれるのは、まだ刺激が強すぎて飛んでしまいそうな感覚があるからちょっと苦手だ。でもここなら、少しの間はその感触を楽しんでいられる。
 特に腰を回すようにして舐めるように刺激するのがたまらなく、背中をじわじわと這い上っていくむず痒い甘い熱を感じるたび、ベッドに無造作に投げ出している尻尾にも力がこもってピンと反り返る。
 そして何度かその刺激を繰り返している間に、すっかりと子宮口を舐められる感覚が癖になってしまって。さらに大胆に腰を大きく揺らめかせていると、唐突に腰を両手で掴まれてガッチリと固定されてしまったのに抗議の声を上げた。
「ふ、えぇ……なんで、じゃまするのっ?」
 せっかく気持ち良かったのにとふにゃふにゃになりながらもなんとかヴィクトルのことを見上げると、彼にしては珍しくひどく雄臭い表情を浮かべていたのにドキリとしてしまう。
 その細めた目蓋の隙間からのぞく瞳に情欲の炎が宿っているのは、きっと気のせいではないだろう。
 そして彼と目が合うのと同時に口元にゆっくりと弧を描かれたのに、本能的に身を引こうとした時にはもう遅い。
「まったく。勇利はいけない子だな……っ!」
「きゃうっ!?」
 アラサーの男がなんて声を出しているのだと恥ずかしがる余裕すらない。
 再びグッと腰を突き入れられたせいで、先端部分を再度ズッポリと子宮口に含まされてしまう。その状態で腰を回すように動かされ、入り口部分をクニクニと刺激されると、自分で動いた時よりも明らかに大きな快感にガクガクと腰が震えるのが止まらない。
「はぁっ……そこ、そこぉ!」
「気持ち良い?」
 その間も相変わらず刺激を加えられているので返事もままならないが、こくこくと何度も頷く。さらに両足でヴィクトルの身体を挟み込んで固定し、自分からも腰を回すようにすると、さらに不規則な快楽が生まれてたまらない。
 しかしそうやって調子に乗っていたのが不味かったのだろう。
 ヴィクトルの腰に絡みつけた両足に促されるかのように再び上体にのし掛かられると、先ほどよりもさらに深くまで亀頭が侵入してきて。
 グプッと派手な破裂音を響かせながら子宮の奥深くまで突き上げられると、一瞬目の前が真っ白に染まり、それと同時に全身に力がこもる。
「~~ッッッ!! は、あ、ああっ!? そこ、だめぇっ、ふかっ、ふかい、よぉ……っ!」
「ふふっ。でも勇利、すごく気持ち良さそう。子宮の奥も気持ちいいの? さっきからこの場所突いてあげるたびにイってるよね」
 そしてそれからはまさかのガン掘りである。
 上体を抱え込まれながらこれでもかと言わんばかりに腰を突き入れられる動きに一切の容赦は無く、あのヴィクトルにしては珍しく理性の糸が完全に切れてしまったかのようだ。
 子宮口の窄まりの感触を楽しむように亀頭を何度も出し挿れされ、さらに気まぐれにズポリと亀頭を完全に含まされて奥の奥まで突き入れられると、苦しくて。でもあのヴィクトルにこんなに深くまで犯されているのだという事実に、とんでもなく興奮を覚えてゾクゾクが止まらない。
 今まで全く意識などしたことが無かった、メスとしての本能を半ば無理矢理に暴かれている感覚に、強烈な高揚感を覚えているのが分かる。
「はっ……はぁっ……ゆうり、っ」
「ん、ぐぅっ!?」
 それから名前を呼ばれたのに閉じかけていた目蓋を薄っすらと開けると、思いがけず目の前にヴィクトルの顔があって。その顔が除々に近付いてくると、首筋をガブリと噛まれる。
 それと同時に再び極太の陰茎を根元までズッポリと埋め込まれたせいでカリ首が子宮口から抜け落ち、さらに奥深くまで銜えこまされて。その状態で腰を回すように動かされると、今までになく強烈な重苦しい熱がそこから全身に広がっていき、そのまま身体がぐずぐずに蕩けて無くなってしまいそうだ。
「~~ッ! ~~~ッッッ!!」
 頭がおかしくなりそうなほどの強烈な快感に、口から零れ落ちるのはもはや言葉にならない嬌声のみだ。
 これはたまらないと二本の足で空を切るものの、そんなものでヴィクトルの動きがどうにかなるはずもなく。どこまでも続く絶頂感にただただ全身を震わせていると、不意に遠慮の無い力加減でズコズコと数回腰を突き入れられて。一際深くまで犯されたところで一瞬その動きが止まったところから察するに、ヴィクトルもスキンの中に吐精したのだろう。

 それから一度陰茎を引き抜かれたのに、安堵したのも束の間のことだ。
 プチュリと粘着質な音が聞こえたのに目を開けると、ぼんやりとした視界の端で、ヴィクトルが自身の陰茎からスキンを取り外しているのが見える。ただし未だそこは勃起したままで、まだまだ物足りなさげな様子が伺える。
 しかし度重なる責め苦に完全に飛んだ状態の勇利は、そこまで考えが及ばず。ヴィクトルのどこか色気を帯びた仕草と勃起した陰茎に、色っぽいなあ……なんて馬鹿なことを考えながら無意識にぼんやりと見つめていると、それに気付いたのか。ヴィクトルは妖艶な笑みを浮かべながら手を伸ばしてきた。
「ふふ。そんなに見られたら恥ずかしいじゃないか。それとも勇利もまだ足りない?」
「んんー……」
 顎下を優しくくすぐられると、少しばかり強ばっていた身体が緩んでいくのが分かる。
 そこで何故かうつ伏せの格好にされたのに首を傾げながら顔を上げると、さらに腰を持ち上げられて四つん這いの格好にされてしまう。とはいえすでに腕にもほとんど力が入らなかったので、腰だけヴィクトルの眼前に掲げる恥ずかしい格好だ。
 そしてそうこうしている間に両手で双丘を割り開かれ、だらしなく尻の孔が開いてしまう感覚に、さすがに止めてと口にしようとしたのだが。
 まさかの、その中心部に熱の塊を押し付けられる感触にはっとした時にはもう遅い。
「ん……ここもかなり柔らかくなってきたね。この感じだと、一気に全部飲み込めるかな」
「ひ、ぎぃっ!?」
 こうなると、もはやどちらが発情期なのか分かったものではない。
 でも頭ではもう無理と思いつつも、身体の方は蕩けきった状態なのでまるで言うことを聞いてくれず。体重を軽く乗せられるだけで、極太の陰茎を子宮口まで一気に飲み込んでしまっているのに、自分自身でもどちらが本音なのかだんだんと訳が分からなくなってくる。
 ただ先ほどと違ってスキンを付けられていないせいか。中の陰茎の動きと感触がはっきりと感じ取れる生々しさが少しだけ怖い。
 だからいやいやと口にするものの、ヴィクトルは止めるつもりはさらさらないのか。両手を腰に回して逃げられないようにガッチリと固定した状態で、下生えが双丘に付くまで深く深く陰茎を挿入してくるのだ。
 その状態で小刻みに腰を動かされると、子宮の入口にカリ首が引っかかって得も言われぬ甘い快感が広がり、陰茎からピュクリと白い液体が次から次へと溢れてしまう。しかもそうして達している最中も、ヴィクトルは構わず中を虐めてくるのだ。
 おかげで身体の奥深くから精液とは別の何かがこみ上げてくる感覚に、慌てて下肢に手を伸ばしながら首を振った。
「も、だめぇっ、なんか、もれちゃう、もれちゃうからぁっ!」
「うん? 漏れちゃうって何が?」
「ふ、ええっ……おしっこぉ」
 もう恥も外聞もあったものではない。でもここまで言えばさすがに勘弁してくれるだろうと思いきや。
 ヴィクトルはへえと興味深そうに鼻を鳴らすのみで、何故か下腹部に手の平を這わせてくるのだ。そしてそこを圧迫するようにグググと押すのと同時に、腰も突き上げるようにしながらゴリゴリと子宮の奥深くまで犯される。
 その直後、中の陰茎がドクリと脈動し、生暖かいものが広がるような感覚が走って。それと同時に全身に広がる痺れるような甘い熱の感覚が広がるのと同時に、自身の陰茎から大量の透明な液体――潮をプシャアと噴き出してしまった。
「これで、勇利も耳が落ちるね」
「は、あ、あぁー……」
 うっとりとした口調で耳元で囁かれ、首筋に執拗なまでに頬を擦りつけられる。
 それから名残惜しげに何度か淫筒の内壁を擦られると、それだけでプチュ、ジュプ、という派手な破裂音が下肢から漏れ聞こえて。それまでとは明らかに異なる大きな粘着音に、中に出されたのかとようやく理解する。
 しかしもう色々と限界で、気付いた時には意識が暗転してしまっていた。
 そうしてようやく二人の獣のような交わりは、ひとまずそこで強制終了となった。


■ ■ ■


 そんなこんなで。
 翌朝目覚めた勇利は、目の前にヴィクトルの美しい寝顔があったのに驚愕のあまりお約束のように床の上へと転がり落ちてしまう。そしてそこで何故か自身が全裸なことに気付き、それをきっかけに昨晩の己の痴態の数々を思い出して頬を真っ赤に染め上げた。
「うわっ」
 ついに、ヴィクトルとやってしまったのだ。
 そこで慌てて右手の薬指に目を向けると、そこに付けられたキスマークの痕がまず飛びこんできたのに思わず口元を緩ませ――しかしそこで唐突に頭を撫でられたのに慌てて顔を上げると、いつの間に起きたのやら。ヴィクトルがベッドに片肘を付いて寝そべる格好で勇利のことを見つめていたのに、慌てて上体を大きく引いた。
「び、びくとるっ!?」
「おはよう、勇利」
「あっ、うん。おはよう」
 そこで空いている方の手をちょいちょいと折り曲げて手招きされたので、何も考えずに促されるがまま顔を近づけると、突然頬にキスを軽く落とされたのにしばし呆気にとられる。
 しかしその直後、恋人になってから初めてのおはようのキスだねとそれはもう美しい笑みを浮かべながら口にされたからたまったものではない。
 再び瞬間湯沸かし器のように頬を真っ赤に染めあげると、そこを手の平で隠しながら物凄い勢いでヴィクトルから離れた。
「~~なっ、なっ!?」
「ふふ。勇利は相変わらず恥ずかしがりやで可愛いなあ」
「い、いや、ていうか恋人って! だいたい、昨日だってちゃんと話が終わってなかったのに」
「ん? 話し合うまでもなく、もう結論は出ていると思うけど。そもそも恋愛感情なんて、理性でどうにかなるものじゃないんだから、自分の気持ちに素直になるのが一番なんだよ。それに、勇利の耳を落としちゃった責任も取らないとだしね」
 そこで彼は起きあがると、自身の右手にキスを軽く落として勇利の目の前にかざして見せる。その指に見覚えのあるペアリングが再びはまっていたのに、身体が、心が震えるような感覚を覚えた。
 ヴィクトルの言うとおり。彼のことが好きという感情は、一年間必死に足掻いても結局どうにもならなかった。そうなったら、もうそれに従うしかないのもまた事実なのだ。
 そこで勇利は諦めたように小さく息を吐き、それから僕のズボンはどこに置いてあるのと訊ねた。
「ここでいきなりズボン?」
 ヴィクトルはややつまらなそうな表情を浮かべながら、今のはキスの場面だと思うんだけどとぶつぶつとぼやいている。でも何だかんだと言いつつも、足下に軽く畳んで置いてあったそれを取り上げて渡してくれた。
 それに勇利は苦笑を浮かべつつ受け取り、ズボンのポケットから金色の指輪を取り出してみせる。するとヴィクトルは途端に破顔しながら、なるほどと甘い声音で口にした。
「そういうことか」
「うん。そういうこと」
 二人して顔を向き合わせながら思わず笑ってしまう。
 それからヴィクトルは勇利の手から指輪を取り上げると、代わりにはめてくれた。
「勇利、愛してるよ」
「うん……僕も、好き。あい、してる」
 そうして、晴れて二人は恋人同士になった。

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