アイル

アルファとアルファに愛は生まれるか 拝啓、十年後の君へ-4

 一月後半に開催されたヨーロッパ選手権を終え、それからさらに一ヶ月と少し経過した三月上旬。
 勇利は間借りしている部屋のベッドの上に、財布の中に入っていた現金やカード類をすべて広げる。そしてこれからの資金繰りについて頭を悩ませていた時のことだ。
 ドアをノックされたので返事をすると、隙間からヴィクトルがひょこりと顔を出した。
「勇利、今日はずっと部屋にいるけどどうしたの。もしかして調子悪い?」
「ああ、全然顔出さなくてごめん。そうじゃなくて、世界選手権に向けての計画を練っていたというか」
「というと?」
 ヴィクトルはその言葉に興味をひかれたのか。うきうきとした様子で部屋の中に入ってくると、ベッドの脇に腰掛ける。
 そしてその上に置かれていたものを目にしたところで、およそのところを理解したのだろう。もしかして世界選手権を現地で観戦するつもりなのかとたずねられたのに、勇利は大きなため息を吐いた。
「一応、そのつもりでいたんだけど。さっき飛行機のチケットと観戦チケットをネットで購入しようとしたら、何故かカードが全く使えなくて」
「番号の入力ミスとかではなくて?」
「そう思って何度かやり直したんだけど、結局ダメで。上限額に引っかかっちゃったのかなぁ……あるいはやっぱりもともとこの世界にいるわけじゃないから、使えないとか」
「うーん……そっか。それなら現地で現金購入するとかは? 売り切れることは無いだろうし」
「それも考えたけど、さすがにそこまで手持ちの現金が無くて……だから何か別の方法が無いか、今考えてるところなんだ」
 しかしカードも駄目で現金も駄目となると、もう打つ手が無いというのが正直なところである。
 でもヴィクトルが世界選手権を優勝する瞬間を生で見るため、ヨーロッパ選手権の生観戦を泣く泣くテレビ観戦にして。そしてそれから、世界選手権の日を今か今かと楽しみにしていたのだ。
 それだけにショックは大きく、この世の終わりのような表情を浮かべながらガックリと肩を落とす。それからベッドの上に広げたものを財布の中に仕舞いながら、今日は寝るねと呟いた。
「えっ、もう寝るの?」
「うん、寝る。このまま考えてても良い案浮かばなそうだし。一回寝てリセットするよ」
「うーん……そっか。じゃあとりあえず、おやすみ」
「おやすみ」
 電気消すねと声をかけられたのにもぞもぞと頷くと、しばらくして部屋が真っ暗になり、ドアが閉じる音が室内に響く。
 ちなみにこれは、勇利がこの世界にやってきてから初めてのふて寝であった。

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