アイル

腐男子がイケメンスケーターに迫られるはずがない!-2

 それから月日は流れて数週間後。
「はっ、ぁ……うしろ、気持ちいいな……」
 勇利はベッドの上に横になり、背中を丸めながら全身をヒクリと何度か痙攣させた後、はあと色っぽい息を吐いた。
 最初の頃は違和感ばかりで全く気持ち良くなかったアナニーだが、地道に慣らしていった結果、今では中イキ出来るまでになっている。
 おかげで今は太めのバイブも根元までずっぽりだ。ただ専用のマッサージ器具の方が、的確に前立腺を刺激されて気持ち良いので、世話になっているのはもっぱらそちらの方なのだが。
 まあそんな細かいことはともかくだ。自分でもこんな短期間でここまで開発出来るとは思っていなかったので、少しばかり驚いている。
「とはいえ……実家に戻って来てから毎日頑張ってたのって、このくらいだからなあ」
 つまりは、スケートを続けるかどうか迷っているせいで毎日のトレーニングにも身が入らず、アナニーを頑張った結果のこの快楽というわけだ。それを思うと、かなりの情けなさに一気に脱力感に襲われる。
 おかげで身体の中でくすぶっていた熱が一気に落ち着くのを感じると、勇利は尻の孔の中から覗いていたマッサージ器具の柄を摘んでゆっくりと引っ張り出した。

 そんなこんなで腐男子になったのをきっかけに、こうしてアナニーにまで手を出してしまった勇利であるが、ゲイになったのかと言われるとそんなことは全く無い。恋愛対象は、以前と変わらず女性である。
 そのくせアナニーをするときに使うおかずは、先日イベントで購入したエロ同人誌なので、あまり説得力は無いかもしれないが。
 そこで枕元に広げていたヴィクトルとユーリの希少なエロ同人誌を閉じると、毎度のごとく深くため息を吐きながら片付けをするために立ち上がった。
「アナニーは気持ち良いんだけど……ネタがこれだと、後になってどうしても罪悪感が湧いちゃうのがなー……」
 描いている人にも申し訳ないし、何よりヴィクトルとユーリにも申し訳ない。
 それならグラビア雑誌でも購入してみようかとネットで品定めしたこともある。しかしアナニーの最中の興奮は、そういう雑誌を見たときの感情の高ぶりとも少し違うような気がするのだ。
「かといってゲイ向けの雑誌を買うのも……うん」
 いわゆるボーイズラブといわれるジャンルのエロ本を買っているくせにと思わなくもないが、三次元はまだハードルが高い。
 というわけで、そのままズルズルとヴィクトルとユーリの同人誌のお世話になってしまっている。
 それなら普通に前を扱いてオナニーをすれば良いじゃないかと思うかもしれないが、今はもう完璧に中イキが出来るようになってしまったのでもう遅い。
 精液を出して終わりという絶頂と異なり、前立腺で達するのはひどく尾を引くもので。一度はまってしまうともう抜け出せないのだ。
 そして勇利は、そんな負の無限ループに完全にはまっていた。本当に悩ましいところである。
 それならそもそもアナニーをするきっかけになったヴィクトルと勇利自身の同人誌を使えば良いじゃないかと思うかもしれない。
 ただ勇利にとってヴィクトルは幼い頃からの憧れの存在で、成人した今でも部屋にポスターを大量に貼り付けているほどの存在だ。
 それだけにそういう同人誌を読むと、とんでもない方向にその気持ちが転がりだしそうで怖いというか。まあそんな感じだ。
 というわけで件の同人誌は、押し入れのダンボール箱の奥深くに眠っている。だからあれから一度も見ていないし、なるべく意識しないようにしている。
 そこでスマートフォンがポンと音を鳴らしたので取り上げると、西郡からメッセージが届いており、スケオタ三姉妹の手により勇利の滑ってみた動画がネット上にアップされてしまったと書かれていた。
 その時はまさか、この数日後に本当にヴィクトルがやってくるとは夢にも思っていなかった。

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